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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十六章 誠とアメリアの奇妙な休日

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第69話 とりあえず車は確保して

 とりあえずアメリアの入れ知恵でかなめが静かになると、機動部隊の詰め所は沈黙に包まれた。


「それじゃあ私達、その余った有給を早速使ってデートに行きますんで。よろしく!」


 そう言うとアメリアは誠の肩を掴んだ。


「へ?デート?」


 突然のアメリアの言葉が部屋に響いた。誠も周りの聴衆もその突拍子もない言葉に唖然とさせられる。アメリアは完全に乗り気で、誠を立たせるとそのまま廊下へと彼を導いた。


「じゃあパーラに車は借りましょうよ。あの()の車、燃費は悪いけど室内は広いからデートに最適よ」


 誠の手を取りアメリアは一階の運行部詰所に向かった。突然のことにカウラもかなめも、そしてランもその場に置いて行かれてしまった。


「いいんですか?この前の実験資料の直し、まだ終わってないんですけど」


 医務室の前の階段を一階の運行部部室に向かっておりながら誠がつぶやく。誠も実験のたびに資料をランに提出するが、必ず赤ペンで多数の直しが入るのでそれを訂正するのが一苦労になっていた。


「いいのよ。休めっていうんだからしっかり休んでやりましょうよ。それにこれは二人っきりの初めてのデート。もっと雰囲気出さなきゃ」


 アメリアはそう言いながら階段をおりきって運行部のドアを開けた。


「みんな!仕事してる!」


 ご機嫌のアメリアはそう言うとそれがいつものことらしく運行部の女子隊員達は挨拶もせず始業前の雑談に花を咲かせていた。


「アメリア。なんでまだ私服なの?始業まであと十分よ。早く着替えてきなさいよ。もうまったく出てくるときはいつもギリギリで……クバルカ中佐に後で何を言われても知らないわよ」


 腐れ縁だけあって、いつものように水色の髪をたなびかせるパーラがアメリアにそう言った。


「いいのよ。そのクバルカ中佐がお前は有給が溜まってるから今日は休めって言われちゃって。それでーね。パーラにお願いがあるの。パーラにしかできないお願い。ちょっと聞いてくれるかしら?」


 アメリアはそのままパーラの肩に手を置く。アメリアがこんな態度で接してくることなどろくでもないことに決まっているのでパーラは身をこわばらせた。


「パーラおねがいよ。ちゃんと聞いて。この埋め合わせは必ずするから……ね!」


 猫なで声でアメリアはパーラにまとわりつく。ここまでしつこく本題を切り出さずにお願いしてくると言うことはとてつもなく面倒な願いに違いない。パーラの表情は明らかに嫌なものを見るようなものに変わった。


「なによ。お金なら貸さないわよ。今度は何を買おうって言うの?」


 明らかに何かろくでもない頼みごとをされると思っている顔をしているパーラがつっけんどんにそう答えた。


「違うわよ。誠ちゃんとデートするから車貸して。絶対、傷つけたりしないから、運転はド下手な誠ちゃんじゃなくて私がするから。ね?大したことじゃないでしょ?簡単なことでしょ?ちゃんと終業時間までには帰ってくるからパーラが帰りの足に困るようなこともしないから」


 アメリアから頼まれることとしてはあまりにも害のない話だったので拍子抜けしたような顔をするとパーラ机の引き出しからカギを取り出した。


「まあいいわよ、ぶつけないでね。それと昨日給油したばかりだから、返すときは満タン返しでお願い。ああ、あれだけもったい付けるからもっと面倒なことかと思ったわ。人をおもちゃにするのはいい加減止めてよね」


 ここは経済観念のちゃっかりしているパーラらしく燃費の悪い四輪駆動車のガソリン代まで自分持ちになるのを見事に避けて見せた。


「任せておきなさい!じゃあ、もうここに用は無いわ。誠ちゃん行きましょう」


 嬉しそうにアメリアはそう言うと誠の手を引いて運行部の部屋を後にした。


「やっぱり僕が運転しましょうか?運転している時の方が車酔いとかしないもので」


 誠にとっても人生初デートで吐瀉(としゃ)と言うのはいただけなかった。


「何言ってるのよ!ここはお姉さんに任せておきなさい!……まあ、誠ちゃんの運転は信用できないから。万が一事故でも起こしたらパーラに怒られるのは私なのよ。ちゃんとそこまで考えてから気を回しなさいな」


 得意満面にそう言うとアメリアはそのまま誠を引っ張って正面玄関へと向かった。


「僕だって多少は運転がうまくなったんですよ!ここは僕が……」


 一応はパイロットの自覚も出てきた誠はそう言ってアメリアに言い返した。


「多少じゃ困るわよ。パーラってああ見えて結構細かいのよ……傷でもつけた日には何を言われるか……いいから任せておきなさい、お姉さんに」


 そう言って笑顔を浮かべながらアメリアは廊下を颯爽と歩き始めた。



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