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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十四章 亡き『駄目人間』の妻の墓参り

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第64話 ベルルカンの独裁者命運を決める『駄目人間』

 メールで詳細を送ると聞いても高倉はその場を動こうとはしなかった。嵯峨は呆れたように口を開いた。


「あんたもしつこい人だな。じゃあ、俺の本音を言いましょう。バルキスタンのエミール・カント将軍……そろそろ退場してもらいたいものだとは思うんですけどね……どう思います?」 


 嵯峨の言葉に高倉は頷く。だが嵯峨は言葉を発しようとする高倉をを制して言葉を続けた。


「アメリカさんの受け売りじゃないが、根っこを絶たなきゃいつまでもベルルカン大陸が『修羅の国』とか『暗黒大陸』なんて呼ばれる状況は変わりやしませんよ。それにただでさえ難民に混じって大量に流通する物騒な兵器や麻薬、非合法のレアメタルにしても、入り口が閉まらなきゃあちらこちらに流れ出て収拾がつかなくなる……いや、そもそも収拾なんてついてないですがね」 


 そこまで言ったところで嵯峨は大きくタバコの煙を吸い込んだ。高倉は嵯峨に反論するタイミングをうかがっていた。


「だけどね、これはあくまで遼州自身のの問題ですよ。メリケンさんの兵隊をほいほい引き込む必要は無いんじゃないですか?」 


 嵯峨はゆっくりと味わうようにタバコをくわえる。その目つきに光が差し、高倉を威圧するようににらみつけた。


「確かに俺の手元にある資料だけで彼を拉致してアメリカの国内法で裁けば数百年の懲役が下るのは間違いないですし、うまくいけばいくつかの流通ルートの解明やベルルカンの失敗国家の暗部を日に当てて近藤資金の全容を解明するにもいいことかも知れないんですが……」 


 黙り込む高倉に助け舟を出すように嵯峨はそう付け足した。高倉の表情が一縷の望みを見つけたというように明るくなる。


「それなら……わが軍とアメリカ海軍との合同作戦について……」 


 高倉は希望を込めた言葉を切り出そうとした。しかし、嵯峨の眼はいつものうつろなものではなく、鉛のような鈍い光を放っていた。そしてその瞳に縛られるようにして高倉は言葉を飲み込んだ。


「遼州の暗部は遼州の手で遼州で日の下に晒す。俺はそれが筋だと思うんですがね。そしてそれが甲武の国益にもかなうと思いますよ。確かにバルキスタンの問題は遼州だけがケツを持つには規模が大きすぎる。まるでパンドラの箱だ。災厄どころか永遠の憎悪すら沸き起すかもしれないブービートラップだ。俺はできるだけ開かずに済ませたいところですがねえ。それが事なかれ主義だってことは十分に理解していますが。世の中が……あなた方はそれを許してくれないらしい。どうやらここは『特殊な部隊』の出番になりそうだ」 


 そう言うと嵯峨はそのまま墓を後にしようと振り返った。


「つまり遼州同盟司法局は米軍と我々の共同作戦の妨害を行うと?」 


 高倉の言葉に嵯峨は静かに振り返った。


「それを決定するのは俺じゃないですよ。司法局の幹部の判断だ。ただひとつだけ言えることはこの甲武軍の動きについて、司法局は強い危機感を持っているということだけですよ。特に地球圏、中でも野心的なアメリカ軍を引き込んだのはいただけない。俺にはそれ以上は言えませんよ」 


 そう言うと嵯峨は手を振って墓の前に立ち尽くす高倉を置き去りにして歩き出した。高倉を気にしながらかえでとリンは嵯峨についていった。そして高倉の姿が見えなくなったところでかえでは嵯峨のそばに寄り添った。


「叔父上、いいんですか?現状なら醍醐殿に話を通して国家憲兵隊の動きを封じることもできると思うのですが?」 


 かえでも高倉がアメリカ軍の強襲部隊と折衝をしている噂を耳にしないわけではなかった。アメリカ軍や甲武軍特殊部隊によるバルキスタン共和国の独裁官エミール・カントの拉致・暗殺作戦がすでに数度にわたり失敗に終わっていることは彼女も承知していた。低い声で耳元でつぶやくかえでに嵯峨は一瞬だけ笑みを浮かべるとそのまま無言で歩き始めた。待っていた正装の墓地の職員に空の桶を職員に渡すとそのまま嵯峨はかえでの車に急いだ。次第に空の赤色が夕闇の藍色に混じって紫色に輝いて世界を覆った。


 そんな二人を見てリンは急いで車に向った。リンが後部座席のドアを開けると嵯峨は静かに乗り込んだ。そして運転席に乗り込み発進しようとするリンを制して助手席のかえでの肩に手を乗せた。


「正直、この国の国家憲兵隊は権限が大きくなりすぎた。本来、国内の軍部の監視役の憲兵が海外の犯罪に口を挟むってのは筋違いなんだよ。だから高倉さんには悪いが大失態を犯してもらわないと困るんだ。当然、相方のアメリカ軍にも煮え湯を飲んでもらう。それは遼州司法局上層部の意志であり、俺個人の意思でもある」 


 突然の言葉にかえでは振り返って嵯峨の顔を覗き込んだ。そのまま後部座席に体を投げた嵯峨はのんびりと目を閉じて黙り込んでしまった。


「車、出しますね」 


 そうリンが言ったところでかえでの携帯端末に着信が入った。


「あ、叔父上。屋敷に赤松中将がお見えになったそうです」 


 短いメールを見てかえでがそう叔父に知らせるが、嵯峨は眠ったように目をつぶって黙り込んでいた。


「忠さんが来たか……今度は友情を盾にとっての泣き落としか?醍醐の旦那も人が悪いや」


 嵯峨は目をつぶったまま彼がこの甲武に来て初めてできた友人である海軍中将赤松忠満の赤ら顔を思い出してただひたすら苦笑いを浮かべることしかできなかった。


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