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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十四章 亡き『駄目人間』の妻の墓参り

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第60話 気苦労の絶えない『男装の麗人』

「本当に……かなめお姉さまもご苦労されるはずだ。まあ、東和は平和だけが取り柄の国ですから。確かに叔父上が甲武を捨ててあの国に移られたのは正解かもしれませんが。甲武に居る限り何人死人が出るか……今回は自重してくださいね」 


 部屋を出て颯爽と廊下を歩くかえでの後ろで、間抜けな下駄の音が響いた。ちゃらんぽらん、そう言う風にかえでに聞こえてきたので思わずかえでは振り向いてみせた。懐手でちゃんとかえでの後ろに叔父は立っていた。


「その足元何とかなりませんか?音がうるさくて迷惑です」


 男女問わず狙った獲物は必ず落とすことを主義としている恋愛のプロフェッショナルであるかえでのドレスコードには今のいい加減な嵯峨の格好は引っかかる以前の問題だった。 


「ああ、もう少し人の足に優しい素材を使うべきだな、床には。さっきから足の親指が痛くって仕方がない」 


 そんなかえでの美学など嵯峨の前では通用するはずもなかった。嵯峨は相変わらずマイペースで音の原因を床のせいにした。


「違います!下駄の音……うるさいですよ」


「そんなに怒鳴るなよ……地元の古道具屋で二十円で売ってた奴だから仕方ないけど……そんなこと言うなら俺の小遣いを三万円に決めている茜に文句言ってくれよ。俺に金を持たせるとろくな使い方しないって言って小遣い上げてくれないんだ。この物価高の中、生きていくので精いっぱいだよ」


 そんな嵯峨の言葉にかえでは頭を抱えながらエレベータへ向かった。


「そういえば殿上会の前に父上……いや、西園寺首相には会われるつもりは無いのですか?」 


 自分のいら立ちを嵯峨を責めることでこれ以上強めては周りに迷惑になると察して、かえでは嵯峨にそう言ってみた。


 表面上、嵯峨と義理の兄西園寺義基との関係は悪いものでは無かった。ただ、どこまでも現実主義の嵯峨と理想を生きがいとしている西園寺義基ではそもそもの考え方の出発点が違った。ただ、お互いにそのことは承知しているので二人であっても喧嘩になるようなことはほとんど無かった。


「無いな。どうせ殿上会で会うんだ。義兄貴(あにき)の言うことは正しいが俺にとっては……なんて反論するとまた長々と説教になるに決まってるんだ。会うだけ時間の無駄だ」 


 そう言う嵯峨の言葉に力が無いのをかえでは聞き漏らさなかった。


「お父様と会いたくないんじゃなくて、本当は同じ敷地に住んでる母上が怖いんじゃないですか?」 


 かえでは自分の母、西園寺康子のことを口にした。


 西園寺康子。甲武国のファーストレディーである彼女は嵯峨惟基の剣の師匠に当たる。十三歳の時、歩くことすらできなかったひ弱な少年は国を追われてこの甲武にたどり着いた。その時、彼が手に入れようと望んだのは『力』だった。その彼を徹底的にしごき、後に『人斬り』と呼ばれる基礎を作ったのは彼女の修行だった。その少年こそが今の嵯峨だった。


 そして法術が公になったこの時代。彼女が干渉空間に時間差を設定して光速に近い速度で動けると言う情報さえ流れている今では銀河で最強に近い存在として彼女の名は広まり続けていた。その空間乖離術と呼ばれる能力はこれまでの彼女のさまざまな人間離れした武勇伝が事実であることを人々に示し、その名はさらに上がっていた。自分の腕前に自信を持っているかえでも母の薙刀の前に何度竹刀を叩き折られたことかわからなかった。


「おい、置いていくぞ」 


 そんなことを考えて立ち止まっていたかえでを置いて、いつの間にか開いていたエレベータのドアの中にはすでに嵯峨がいた。あきれ果て頭を抱えながらかえではそれに続いた。


「車はいつも通り運転手付きだよな。通いは自動車か……俺は隊まで自転車で通ってるってのに。東和の方が自動車の普及率は高いんだぜ。不公平だな、これは」 


 嵯峨の言葉にかえではただ金を持たせるとろくなことに使わない嵯峨の所業を知っているので自業自得だと呆れるほかなかった。



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