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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十三章 『駄目人間』を待ち受ける者

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第58話 『駄目人間』の『空間跳躍』

 暗殺が失敗に終わったからには『彼』はすぐさま脱出のことを考えたが、振り向こうとする『彼』の頬に突きつけられた刃に体を凍らせた。


「腕は確かだねえ。惜しかった!実に惜しかった。俺が狙撃に詳しくなければこんなところから撃ってくるとは予想できなかった……でも、あまり教官の言うことばかり聞いてると融通が利かなくなって敵に手筋を読まれるんだ。もっと勉強しな」 


 頬を伝うのは『彼』の血だった。『彼』にとっては敗北に等しい妥協と屈辱を遼州星系の甲武の士族に強いた憎むべき敵。その敵の声が確かに後ろから響いていた。その突然の出来事に恐怖よりも怒りを感じつつ静かに『彼』は振り返った。


「国賊が……」 


 『彼』の言葉に背後の男は我慢することが精一杯とでも言うように笑いを漏らす。


「あんた等の言語のキャパシティーの無さには感服するよ。国賊、悪魔、殺人鬼、人斬り、卑怯者、破廉恥漢、奸物、化け物、売国奴。まあもう少しひねった言いかたをしてもらいたいものだねえ……まあ、俺も俺をどう呼ぶのが正解なのか良く分からないんだ。知ってたら教えてよ」 


 そう言って男は剣を引いたが、『彼』はその機会を待っていた。


 すぐさま落とした銃を手にしよう手を伸ばした。しかし、背後の気配はすばやく『彼』の意図を察して前へと踏み出す。そして『彼』が見たのは手首を切り落とされた自分の両腕だった。


「うっ!」


 痛みが失われた両腕に走る中、『彼』は気力だけで悲鳴を上げるの堪えた。


 目の前の着流し姿の男は『彼』の失われた両の手首をじっと見つめて、刀に付いた人肉の油を手ぬぐいでぬぐう。そこには『彼』が憎んだ下卑た笑いを浮かべる奸賊の姿があった。そしてその濁った目にたどり着いたとき、焼けるような痛みが両腕に走りそのまま『彼』は崩れるように倒れた。


「ああ、痛かったかねえ。それに凄い血だ。一応警告しとくけど暴れない方が良いよ。動くとそれだけ出血が激しくなって助かるものも助からなくなる。警官隊が来るまでどのぐらいかかるか……その傷じゃあ……たとえ動かなかったとしてもそれまで持つかどうか……微妙だね」 


 着流し姿の男、嵯峨惟基は残酷にそう言うと感情の死んだような瞳で『彼』を見つめた。『彼』の命を助けるつもりなど嵯峨にはさらさら無い。そう言うことを証明するかのように腰の鞘に『粟田口国綱』を戻すとすぐに帯からタバコを取り出して火をつけた。


「あんた、新聞読んでねえだろ?『近藤事件』の際、俺の部下のクバルカ・ラン中佐がした演説の全文。あれが甲武の新聞にもきっちり載ってたぜ。そこには、ちゃあんと書いてあるんだ。『嵯峨惟基は不死人』だって。俺はね。死にたくても死ねないの。そんな豆鉄砲がたとえ心臓にあたったとしても、五分も経てば復活しちゃうんだな、これが。あんたが見てきたニュース映画の切り取り映像には出てこなかった俺の真実。あんたの同志達に教えてやんな……もし死ななかったらの話だがな。ああ、この国では要人暗殺に失敗した士族は切腹だったな。悪いことしたな、この世に未練なんて残すようなこと言って」


 嵯峨は憐れむような視線で腕の痛みに苦しむ『彼』にそう言った。今ここで出血多量で死ぬか、病院で失血死するか、それとも刑場で切腹するか。どの道をたどるしかないのがこの国、甲武と言うものだった。それを支持している貴族主義者である『彼』にとってはその事実はあまりに残酷だった。


「大公!」 


 警官隊が嵯峨に向かって走ってくる。だが、彼等の目の前には彼らの任務からすれば射殺すべきテロリストが両腕を失ってのた打ち回っている姿があるばかりだった。


「止血だ!急げ!ここで死なれたら事情聴取が出来なくなるぞ!」 


 『港湾警備隊』という腕章をつけた駆けつけた警察部隊の隊長らしき男が部下に指示を出すと、部下は両腕を切り落とされた凶弾の射手に哀れみを顔に浮かべながらベストから止血セットを取り出して処置を始めた。


「こりゃあ運がいいみたいだ。まあ命は粗末にするもんじゃねえよ。一分でも長く生きな。それがアンタの同志の為になる」


 そう言ってタバコをふかす嵯峨の姿を痛みに支配されていた『彼』は見ることができなかった。


「申し訳ありませんが、大公。この状況を説明していただけますか?」


 ヘルメットを脱いだ警察の部隊長が青ざめながら薄ら笑いを浮かべる着流し姿の男に声をかけていた。


 『彼』はその光景を(おぼろ)に見つめながら意識を失っていった。


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