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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十二章 『悪内府』と呼ばれる男の旅

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第55話 『斬殺魔』の勘

「すまないねえ……俺みたいな面倒な客を担当するとは。まあ運がなかったとあきらめてちょうだいよ。この長いのが面倒なんでしょ?帯刀が許されてる甲武でもまさか鞘に納めただけでシャトルに乗る馬鹿が居るとは誰も信じないもの」


 嵯峨はそう言って冷たい笑みを浮かべているキャビンアテンダントにほほえみを返した。


「いえいえ、四大公家に連なる方を担当させていただいて本当にありがたい限りです。それに陸軍の将官ともあろう方がまさか丸腰で鏡都にいらっしゃるとは誰も思いませんよ」


 キャビンアテンダントは嘘のつけないタイプのようで言葉とは裏腹に嵯峨からは彼女の笑みがこわばっていることがわかった。四大公家末席。甲武陸軍憲兵少将。どちらの地位もキャビンアテンダントにとっては手に余るもののように嵯峨には見えていた。


「そうかい。まあ俺も本当はこんな馬鹿高いファーストクラスの個室なんて性に合わないんだが……俺ってヘビースモーカーだからさ。隣の客ににおいが移ったらまずいだろ?あっ!ここってファーストクラスだからタバコ吸えたんだっけ!タバコ吸うの忘れてた。これに乗ったらすぐ寝ちゃったからな。俺は貧乏が板についてるからこんな立派なシートをあてがわれるとすぐに寝ちゃうんだ。困ったもんだよ」


 嵯峨の変な気の回しようを知るとキャビンアテンダントは部屋を見回した。


「安心しなって。そんな気の使える俺だぜ。さっき言ったようにタバコは吸っちゃいないよ。ガムと水で何とかこうして我慢しているんだ。むしろこの居心地の良さが俺には馴染めないんだ。貧乏が骨の髄まで浸み込んじゃってるからな」


 睡眠時間を除けば久しくこれほどタバコを我慢したことが無かったので、嵯峨はどことなく苛立っているようにそう吐き捨てた。


「大変申し訳ありません。これも一応規則なので」


 硬い表情のままキャビンアテンダントは嵯峨にそう言った。


「まあ司法の職に身を置く俺だ。法や規則は守るよ。それにしても……相変わらず侯爵以上はこれをノーチェックで持ち込めるのな」


 嵯峨はそう言って足下に置いていた日本刀を手にした。朱塗りの鞘にいかつい金色の鍔が目立つ。


「それも規則ですので」


 そう言ってキャビンアテンダントは部屋を出て行った。


「いつものことだが、甲武航空のスッチーは堅いねえ……まあ今に始まったことじゃねえがな……きっと没落士族のご令嬢かなんかだろうが、向いてねえよ、客商売には。笑顔が堅いよ、東和のコンビニの店員の方がよっぽどいい笑顔を見せてくれる」


 キャビンアテンダントの嘘の付けない硬い表情を思い浮かべながら嵯峨はそんなことを口にしていた。


 一人、呆れたように嵯峨はつぶやくと静かに日本刀、『粟田口国綱』を握りしめた。嵯峨の目はそれを捉えると一瞬だけ鈍く光を放った。


「さて、今回はどんなお客さんを斬ることになるかね……斬りたくねえんだ、本当は。でもなあ……無事じゃあ済みそうにねえな、今回の里帰りも。なんたって『殿上会』だ。しかも絶対に荒れると保証付きの奴だからな。不平不満をぶつける先は俺一人にしな。犠牲者は出ないに越したことが無い」


 シャトルはゆっくりと四条畷空港の滑走路に着陸すると減速を始めた。


「とりあえず、ここまでは無事だな。貴族主義者の馬鹿が爆弾を仕掛けてドカンなんてことも頭にはあったが……連中も知ってるはずだ。俺は『不死身』だって。巻き添えでこのシャトルの乗員乗客何人死ぬか……まあ、今回はそれは無しか」


 嵯峨の思考はいつにもなく物騒なものに変わっていった。


 『近藤事件』以降、貴族主義者はとりあえず動きらしい動きを見せていない。恐らく動くとしても一匹狼タイプの小規模テロだろうと嵯峨は考えていた。


「狙うのは俺だけにしてくれよ。俺を狙うのはいつでも大歓迎だ。これで多少自分が法を犯した罰とやらを体で味合わせてやる」


 嵯峨は予言じみた言葉を吐くと手にした刀の柄を握りしめた。


『到着いたしました。皆様、甲武国営航空のご利用大変ありがとうございました』


 機内アナウンスが物騒な言葉を口にしている嵯峨を無視して流れていた。


 嵯峨は『粟田口国綱』以外の唯一の手荷物の風呂敷包に手を伸ばし、そこから最後のガムを取り出して口に放り込んだ。


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