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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十一章 『特殊な部隊』のありふれた日常

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第53話 実際問題『05式広域鎮圧砲』は使えるのか?

「隊長は?きょう出発ですよね。空港まで間に合います?」


 こういう時は面倒なことを言ってかなめの機嫌を悪くしよう。誠はそう判断して余計なことを口走った。


「なんでアタシが叔父貴のことを知ってるんだ?アレも大人だ。遅れたら遅れたでなんとかするだろ。あれじゃね……忘れ物とか」


 誠に自分には関係ないことを尋ねられて少し拗ねながらかなめは席に着いた。誠は少しはこれでかなめの機嫌は悪くなるだろうと常識では考えられないこの部隊ならではの習慣に従うほどにはこの部隊には慣れてきていた。


「おー……西園寺も来てたか」


 先ほどよりは少しマシな程度に回復したランはそう言って機動部隊詰め所の自分の席に向かった。


「先に報告書あげないと……」 


 端末の前の席に座った誠は先ほどの誠の余計な一言で機嫌の悪くなったかなめが居るはずだと恐る恐るかなめを見上げるが、彼女はまるでその声が聞こえていないかのようにデータの再生のためにキーボードを叩く。かなめの機嫌は良くも悪くもなくなっていた。


「出たな、神前こっち来い。良いもん見せてやる」 


 かなめに呼ばれて誠はかなめのところまで行くと、かなめの端末のモニターに映されたのは先日の実験の時のコックピットからの画像だった。目の前には巨大な法術火砲の砲身があり、その向こうには森や室内演習用の建物が見える。次第に左端の法力ゲージが上がっていく。


「おい、神前。どのくらいのチャージで発射可能なんだ?」 


 かなめはふざけて誠の頭のこぶをさする。誠は頭に走る激痛に刺激されたように彼女の手を払いのける。


「そうですね、だいたい230法術単位くらいでいけると言う話ですけど……」 


「違う違う。出力じゃなくてチャージにかかる時間だ」 


 そう言うと今度はカウラが誠の頭を小突く。


「痛いですよ!そうですね、だいたい10分ぐらいはかかりますね」 


 そう言いながら誠は背後に立つ二人を振り返った。そこには落胆したような表情のかなめとカウラがいた。


「そんなもん敵味方入り乱れる戦場じゃあ使い物にならないじゃねえか!だいたい非殺傷ってところが気にくわねえな。殺傷能力有りの干渉空間切削系の火器の方がコストや運用面で有利なんじゃないのか?」 


 そう言って再びかなめは誠の頭のこぶを叩く。


「確かにそうだな。だが我々は司法機関の職員だ。破壊兵器の開発は軍の領域。私達の扱うのは司法執行機関としての必要最低限の装備と言うのが建前だ」 


 横槍を入れたのはカウラだった。かなめがいつも正論しか言わない発言者であるカウラを睨みつけた。


「確かに、うちの本分が治安維持行為なのは先刻承知だぜ。無用な死者を出すことは職域を越えているのは確かなんだけどよう」 


 渋々かなめは頷く。それに合わせるかのように嵯峨が入ってきた。


「おう、お仕事かい!ご苦労だねえ」 


 そう言いながら山のように積み上げられた雑誌がある真ん中のテーブルに嵯峨は腰掛けた。


「叔父貴……手ぶらなのか?お土産くらい買ってかねえとお袋にどやされるぞ」 


 呆れたようにかなめは着流し姿の嵯峨を見る。


「ああ、荷物なら別便でもう送ったからな。それにどうせ殿上会に着ていく装束はあっちの屋敷の蔵から引っ張り出すつもりだし。身一つの気楽な旅を楽しむつもりだよ。それに今夏の殿上会が終われば晴れて四大公家末席の地位から降りるわけだ。内大臣と言う官位が残るが、こっちは……都合をつけてサボるつもりだ。内大臣なんて内閣の内政関係の大臣や官僚の任命書に判子押すだけのお仕事だからな。これで甲武の(くびき)からようやく解放される」 


 そう言いながらも嵯峨の視線は誠達が再生している動画に移った。


「ああ、これか。しかし、非破壊設定だろ?制御系はどうなってるのかね。おれは制御系の扱いが苦手でね……出力調整が出来ないんだ。だから今回は神前にお鉢が回ってきたって訳」 


 嵯峨の言葉で一同は画面を見つめた。画面右上に地図が表示され、誘導反応にしたがって効果範囲設定が設定されていく。


「おい、指定範囲と範囲内生命体の確認画面?こんなのも必要なのか?チャージだけじゃなく安全装置の解除までめんどくさくなってるんだな」 


 かなめは呆れる。カウラは腕組みしたまま動かない。


「とりあえず一射目はこれでやりましたよ」 


 そう言う誠の目の前で法術射撃兵器の周辺の空間がゆがみ始めた。


「俺がやるとこのまま空間崩壊が起きるなこれは」 


 そう言う嵯峨を無視して誠達は画面を凝視する。桃色の光が収束すると、砲身が金色に光りだした。法術単位を示すゲージは振り切れている。


「ここです」 


 誠の声と同時に視界は白く染め上げられた。しばらく続く白い画面が次第に輪郭を取り戻す。


『第一射発射。全標的に効果を確認』 


 オペレータ役のひよこの淡々とした声が響く。大きくため息をつく誠の吐息まで聞こえる。


『第二射発射準備開始。法術系バイパス解放』 


 誠の震えている声にかなめが思わず噴出す。


「笑うこと無いじゃないですか」 


「すまねえな。今度こそまともな射撃なんだろうな」 


 すぐにまじめな顔に戻ったかなめが誠をにらみつける。


「ええ、機体の地図情報から効果範囲を設定。そこへの到達威力の測定がメインですから。一応成功しましたけど」 


 そう言って胸を張る誠の頭のつむじをかなめが押さえつける。痛みに脂汗を流しながら誠は黙って画面を見つめた。


「ああ、いいもの見せてもらったよ。ラン、留守は頼むぞ」 


 動画が続いているというに嵯峨は思いついたように立ち上がった。


「じゃあ、お前等もちゃんと仕事しろよ」 


 そう言うと嵯峨は部屋を出て行った。


「……仕事って言ったって、模擬戦のデータ収集と豊川警察の下請けの駐禁切符切る以外に何があるんだよ」 


 そう言ってかなめは再び今度は爪を立てて誠の頭のつむじを押さえつけた。


「西園寺さん!痛いですよ!マジで勘弁してくださいよ!」 


 涙目で誠は叫んでいた。そんなやり取りの間に二射目が終わり動画が途切れた。


「まあ……とりあえず報告書の添削でもしてやるか」


 カウラの言葉にようやく安心した誠はキーボードに手を伸ばし、画面を報告書の書式に切り替えた。


「こんな兵器……誰がどこで使うんだよ……ベルルカンのゲリラ対策?ゲリラだって機動兵器奪って使ってるじゃねえか。意味わかんねえよ」


 かなめはそう言い捨ててタバコを吸うために部屋を出て行った。


「僕にそんなこと聞いても分かるわけないじゃないですか」


 誠はそう言いながら動画を終了し、報告書のテンプレートに手を付けることにした。


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