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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十一章 『特殊な部隊』のありふれた日常

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第52話 意外な『駄目人間』の早起き

 誠達の乗った車が隊の駐車場に到着すると、いつもはこの時間に無いはずのぼろぼろの自転車が駐車場の隣のバイクなどが並ぶ駐輪場の隣にまるで捨ててあるかのように置いてあった。


「おい、叔父貴、こんな朝早くに来てるじゃねえか。いつも来るとしたら遅刻ギリギリなのに。今朝の便で甲武入りする予定じゃなかったか?なにかあったのかね。今から自転車で豊川駅まで行ってそこから成畑空港まで……間に合うのか?」 


 駐車場に向かう通路から見える隊長室の窓から顔を出してタバコを吸っている嵯峨の姿が見えた。


「本当ね、忘れ物でもあったのかしら」 


 そう言いながら一発で後進停車を決めたカウラよりも先にアメリアは助手席から降りる。


「おはようございます!」 


 ハンガーに足を向けた誠達に声をかけてきたのは西だった。誠の05式の上腕部の関節をばらしていた他の隊員達も軽く会釈をしてくる。


「早いな、いつも」 


 カウラはそう言うとそのまま奥の階段に向かおうとするが、そこに着流し姿の嵯峨を見つけて敬礼した。


「なにしてるんですか?隊長」 


 カウラの声で振り返った嵯峨は柿を食べていた。


「いいだろ、二日酔いにはこれが一番なんだぜ。まあ俺は昨日は誰かのおかげでそれほど飲めなかったけど……」 


 そう言って嵯峨は階段の一段目を眺める。そこで下を向いて座り込んでいたのはランだった。


「あのー、クバルカ中佐。大丈夫ですか?」 


 そう言う誠を疲れ果ててクマのできた目でランが見上げる。


「気持ちわりー。なんだってあんなに……酒でこんなになったの生まれて初めてだぞ……ビールなんて飲みつけないもの飲むからだ」 


 そう言ってランは口を押さえる。


「こりゃ駄目だな。おい、ラン。俺の背中に乗れよ。話があるからな」 


 そう言って嵯峨は背中を見せる。仕方が無いと言うように大きな嵯峨の背中に背負われたランの姿はまるで嵯峨の子供のようにも見えた。


「昨日の法術兵器の実験に関する報告書……今日の午後までだかんな。アタシは出かけてるけど出先で端末で確認するから。神前、忘れるなよ」


 日本酒の酔いには慣れているものの、飲みつけないビールを腹いっぱい飲んで二日酔いのランはその状態でも誠に仕事を与えることを忘れてはいなかった。


「今日の午後まで?何を書けばいいんですか?」


 虫の息のランに言われて誠は戸惑ったようにそう返した。


「いーんだよ、なんでも。ただし書式はちゃんといつも通りにしろよ……上の連中がうるせーんだ」


 二日酔いでもランはきっちり仕事の話に乗ってくる。誠はランを軽々と背負って歩く嵯峨について階段を登った。管理部の部屋でいつものように殺意を含んだ視線を投げかけてくる菰田を無視して誠はそのまま嵯峨と別れてとりあえずロッカールームへ向かった。


 着替えを終えると誠はつかつかと歩いて機動部隊の詰め所の扉を開けた。そこには誰もいなかった。確かにまだ九時前、いつものことと誠はそのまま椅子に座った。机には先日提出したシミュレータ訓練の報告書の綴りが置いてあった。開いてみると珍しく嵯峨が目を通したようで、いくつかの指摘事項が赤いペンで記されていた。


 そうこうしている間に部屋にはカウラが入ってきていた。そのまま彼女は誠の斜め右隣の自分の席に座る。


「休暇中の連絡事項なら昨日やればよかったのに」 


 そう言って誠は嵯峨から留守中の申し送り事項の説明を受けているだろうランの机に目をやる。だが、カウラは誠より実働部隊での生活に慣れていた。


「今日できることは明日やる。まあ、嵯峨隊長はそう言うところがあるからな」 


 そう言ってカウラは目の前の書類入れの中を点検し始めた。


「おはよー」


 かなめが勢いよくドアを開いた。


「おはようございます!」


 相変わらず愛銃XDM40のホルスターを脇に付けたかなめに冷や汗を流しながら誠はそう返した。かなめが機嫌がいい時はろくなことが起きない。誠はこれまでの経験上何か悪いことが起きる前触れのようだと思いながらかなめのタレ目を眺めていた。



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