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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十章 恒例行事と化した飲み会

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第47話 ランの地球体験話

「ラン、地球はどうだった?久しぶりなんだろ……久しぶりの年数の単位が地質学的な歴史感覚になるけど」


 嵯峨の言葉でランが地球の会議に出席していたことを皆が思い出した。


「ああ、なんだか……人が多かったな。まあ東都と変わらないぐらいだが……人口が遼州の百倍だ。まあ結構疲れたよ」


「へえ……」


 感心しているようにそう言うとかなめは誠のグラスになみなみとラム酒を注いで誠の前に置いた。


「これ、飲まないと駄目なんですよね」 


 誠は沈んだ声を吐き出した。かなめとランの視線が誠に集まった。


「なんだよ、神前。相変わらずビールしか飲めねーのか?たまには上司に付き合ってやるのも人の道だぞ」


 かなめの暴挙を応援するようにランは無責任にそう言った。


「クバルカ中佐。ちょっと神前を苛めるのはやめた方がいいですよ」 


 カウラはそう言って烏龍茶を口に含む。店の一階から漂う香ばしい香りが室内に満ちていく。


「手羽先行こうかな……今日は」 


 その様子を見たかなめがそう言いながらラム酒を口に含んだ。


「あの、西園寺さん。どうしてもこれを飲まなければいけないんですか?」 


 さすがにこれから教導に来てくれる教官を前に無作法をするわけにはいかないと、誠はすがるような気持ちでかなめに尋ねる。


「ああ、じゃあ隣の下戸と一緒に烏龍茶でも飲んでろ」 


 そう言うとかなめは小鉢の煮物をつつく。


「地球のビールも良いがやっぱ東和のが一番だな」 


 ランはそう言って手酌でビールを飲み続けた。


「でも日本酒党のランちゃんがビール……似合わないわね。それに顔が赤いわよ!疲れてるんじゃないの?」 


 ビールを傾けながらアメリアが突っ込みを入れた。


「後は烏龍茶にしたほうがいいんじゃないですか?中佐はお強いですけど疲れていたら……」 


 こういう時は頼りになるパーラの言葉に誠も同意するようにうなづいた。


「そうですよ、中佐。どこかの馬鹿に挑発されても乗っちゃダメですよ」 


 アメリアがそう言うが、ランはその言葉を無視してビールを開けては面白そうにグラスに注ぐ行動を続けている。小さなランが次第に顔に赤みを帯びていく様を楽しそうに見つめているかなめの隙を見つけると、誠は素早く小夏にかなめに注がれたラム酒のグラスを渡し、新しいグラスにビールを注ぎなおす。


「あー、いい気分」 


 ビール大瓶二瓶空けたころにはランはすっかりご満悦だった。嵯峨はさすがに言っても無駄だと分かったのかいつの間にか目の前に置かれていたホッピーの替え玉を飲んでいた。


「ああ、やっぱそれくらいにしろ。後はジュースでも何でも飲めよ」 


 一応上官であり、シュツルム・パンツァー教導の師でもあるランに珍しくかなめが気を利かせて言ってみた。


「なんだ?アタシに説教とはずいぶん偉くなったじゃねーか、西園寺よー」 


 そのかなめを見るランの目は完全に座っていた。この時になってようやくかなめは間違いに気づいた。すでにアメリアとパーラは何かを感じたとでも言うように黙って春子が運んで来た焼鳥盛り合わせを並べている。


「空酒は感心しないな……何か他に頼むか?」


「それじゃあ、さえずりで!」 


 嵯峨の気遣いに対する遠慮などどこかへ飛んで行ったランは元気にそう答えた。嵯峨が苦笑いを浮かべながら手を挙げる。


「あの!春子さん。さえずり!二つおねがいします」 


「はい!新さんも食べるのね」


 春子の言葉に嵯峨はランをちらちら見ながら苦笑いを浮かべていた。


「ああ、なかなか食が進まないのね誠ちゃん」 


 ラム酒の入ったグラスを片手に呆けている誠にアメリアがそう言って笑いかけた。


「それ飲まなきゃ食わせねえからな」


 かなめの非情な宣告に誠はただ目を白黒させてグラスを見つめる。


「大丈夫だ……貴様の体格なら問題がないだろう」


 カウラはそうフォローになっていないフォローを入れた。


 誠は覚悟を決めてグラスの中のモノを飲み干した。


 焼けるような感覚が胃袋に走る。


「神前よくやった!」 


 かなめの怒鳴り声で誠は思わず胃の中のアルコールを吹き出しそうになるのを必死にこらえる。アメリアはそれを無視してネギまを口に運んだ。


「毎回いじられてばかりじゃかわいそうでしょ?」 


 そう言う割にはアメリアは何をするわけでもなくボンジリの串を手にニヤニヤ笑っていた。


「それにしても……地球圏の人達は私達のことをどう思ってらっしゃるのかしら?」


 ビールを飲みながら茜は仕事の話に持っていこうとする。


「連中か?遼州人はほとんど他の星系に移住してねーからな。完全に他人事だよ。と言うか今の地球人にとって地球以外は搾取の対象でしかねーんだ。連中は自分を選ばれた民だと思ってる。確かに金持ってるもんな。そのほとんどは貧乏人のはずなんだが、アタシが行く場所には一人もそう言った庶民は居なかった。完全に金持ちと貧乏人が別れて暮らしてる。そう言う意味では甲武に近いな。何が『自由と民主主義』だ。金持ちがいくらでも金持ちになる自由と金持ちが金持ちが暮らしやすくなるためにやる選挙なんて無駄なだけだ。地球はうんざりだ、まだイクチオステガが生きてた前に行った時の地球の方が百倍マシだ。地球は行くたびにひどくなってる」


 ランはそう言うとレバーを口に運ぶ。原始両生類が生きていた時代と資本主義が破綻して貴族制に移行しつつある地球を比べるのは無理があるのではないかと思いながら誠はただ苦笑いを浮かべていた。


「他人事ねえ……まあ法術師の存在が明らかになったことで、遼州圏の国々が法術犯罪の取り締まりを始めたからな。遼州圏に点在している自国の基地が遼州人の法術師による人体発火の自爆テロで壊されなくなったから歓迎してるんじゃねえか?まあ、そのテロで死ぬような貧乏人に関わるような人とは姐御は会えなかったわけだ。地球圏の分断もここに極まれりだな」


 そう言いながらかなめは自分の目の前のレバーを誠の皿に移した。


「他人事でいてくれた方が私達としては都合がいいのは確かね。またこの遼州圏を侵略してきたときみたいに『地球圏至上主義』なんてまた持ち出されたら面倒だもの」


 アメリアはトリ皮を手にしてそうつぶやいた。


「まー『地球圏至上主義』は今の米帝政権でははやらねーみたいだわな。保守系野党がどーだこーだ言ってるみてーだが……何しろ軍事的背景がねーと成り立たねー主義だかんな……遼州独立後地球圏から独立した星系にはヤベーところが多いから関わってろくなことがねーことは第二次遼州戦争で身に染みてるはずだ。自分の殻に閉じこもって甘い蜜だけ吸えれば連中はそれで良―んだろ?」


 気持ちよさげにそう言ってランは小夏が運んで来たさえずりの皿を受取っていた。


「それより神前……大丈夫か?」


 カウラがそう言ったのも当然だった。


 誠の上体が右に左にと揺れ始めている。


「あれだけ飲んだんだ……ってビールまで飲みやがって」


「飲ませたのはかなめちゃんじゃないの」


 かなめが誠の身体を支えようとするのを見ながらアメリアは苦笑いを浮かべながら見つめている。


 誠は空きっ腹に食らったラム酒のせいで完全に出来上がっていた。


「誠ちゃんは置いておいて……あ、誰か砂肝食べる人!」


 アメリアは自分のテーブルの前に置かれた砂肝の皿を全員に見せる。パーラが手を挙げたのでアメリアは立ち上がってパーラのところにその皿を運んだ。



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