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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第九章 日常の通常業務

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第41話 無茶な訓練開始

 とりあえず誠は投『まあそんなわけだ。回線を戻せ』 


 そう言ったランはまた不機嫌そうな表情に戻った。その表情の切り替えの早さに誠は唖然とした。


 シートの上で何度か体を動かして固定すると、誠はシミュレーションモードを起動した。瞬時に映っていた外の光景が漆黒の闇に塗り替えられる。


「宇宙?」 


 そうつぶやく誠の顔の前にウィンドウが開いて、アメリアのにやけた顔が浮かんだ。


「なんでアメリアさんがシミュレータに乗ってるんですか?」


 誠は意外な人物の登場に驚いてそう口走っていた。


『どうしたの?びっくりしちゃった?今日は私がお相手。一応、パイロット資格ももってるの。運用艦艦長としての当然のたしなみってところかしら。かなめちゃんの機体はサイボーグ用でどうにもならないけど、他のパイロットが駄目になった時は私が代わりに出撃するの。何事も備えってものが大事ってことよ』 


 気楽に操縦系のチェックをしているようでアメリアが手をあちらこちらに振りかざす。誠も同じように機体チェックプログラムを起動、さらに動力系のコンディションを確認する。


『最初に言っておくけど手加減なんかしねーからな。全力で来い!』 


 ランはそう言って笑う。ここでその顔を見たらかなめなら切れていたことだろう。


『わかりました。じゃあこれから作戦会議ぐらいさせてくださいよ』 


 そう言ったアメリアにランは少し考えた後、頷いた。


「じゃあ、秘匿回線にしますね」 


 誠も通信を切り替えた。アメリアは運用艦『ふさ』の艦長という立場とは言え、本来はパイロット上がりである。期待して誠は彼女が口を開くのを待った。


『じゃあ誠ちゃんはとりあえず突撃と言うことで』 


 それだけ言ってアメリアは髪を手櫛でとかしていた。誠は少しばかり失望した。


「そんな突撃なんて、作戦じゃないじゃないですか!もっと迂回するとか何かに隠れるとか何かあるでしょ?それが作戦でしょ?違います?」 


 そう言う誠を宥めるようにアメリアは口を開く。


『クバルカ中佐に小手先で何とかなるわけないじゃないの。まずどんな策でも私達の技量じゃ考えるだけ無駄。それにあの人の教導はその素質を伸ばすと言うのがモットーよ。誠ちゃんのどこが伸びるところなのか見極めるには下手に作戦を立てるより、今ある全力を見せるのが一番だと思うの』


 珍しく正論を言うアメリアを誠は呆然と見つめる。


『どうしたの?もしかして私に惚れたの?』 


「そう言うわけでは……」 


『えー!やっぱり私じゃあだめ?』 


 そう言ってアメリアは目の辺りを拭う。誠はこれがいつもの彼女だとわかりなぜかほっとする。


『おい!いつまで会議してんだ!ぐだぐだしてねえでさっさと終わらすぞ!』 


 画面に向けてランが怒鳴りつけている。


『じゃあ、がんばりましょう!』


 アメリアはそう言うと通信を切った。


『よし、それじゃあ開始!』 


 そう言うとランも通信を切った。


 誠もすでに部隊に来て三ヶ月、作戦開始時には状況の把握を優先するだけの余裕ができていた。


『近くにデブリは無し。機影も無し。クバルカ中佐、これは決闘のつもりか?』 


 アメリア機が後ろにいる以外、レーダーもセンサーにも反応は無かった。


『油断しちゃ駄目よ!05式のステルス性能は天下一品だから。おそらく索敵範囲ぎりぎりに……!』 


 そう言った瞬間、長距離レールガンの狙撃でアメリアの機体の右腕が吹き飛んでいた。


「嘘だろ!レーダー……!」 


 誠はようやく気付いた。ランはレーダーやセンサーなどあてにはしていない。法術師の干渉空間展開能力をフルに活動させ空間に干渉を開始、同時にこちらの精神反応を確認してマニュアルで望遠射撃をしてきている。


「ならこちらも!」 


 誠も感覚を集中させる。展開する干渉空間。


「ビンゴ!アメリアさん!僕の感覚データそちらに送ります!」 


 そう言うとそのまま誠は異質な干渉空間の発生源へと進撃した。


『片手が無くても支援ぐらいはできるわよ』 


 そう言いながら誠に付き従うアメリアの目は笑っている。ロックオンされた時のような痛みにも似た感覚が、誠があたりをつけた宙域から感じられた。


『感覚を掴むんだ、そこんところは理屈じゃあ説明できねーから』


 以前ランがシミュレーターから降りたときに言った言葉が誠の心に響いた。閃光、そして弾道。すべてが誠の思い通りに進むかに見えた。もうレーダーもランの機体を確認している。オートでロックオンすることも可能だが、ランは動かない。


 そして有視界。ランの機体に230mmカービンを背中に背負い、サーベルを抜く格好をしていた。


『切削空間反応!飛ぶつもりよ!』 


 アメリアの声が響く。銀色の壁がランの機体を隠した。だが、誠は動じることなく230mmカービンを構えたままランの機体へ突入する。


「そして上!」 


 銀色の壁の直前で誠は機体に急制動をかけると230mmカービンカービンの銃口を真上に向けた。壁、切削空間は消え、誠の撃った230mmカービンの先に切削空間を展開するランの機体が現れる。


「アメリアさん!」 


 誠の叫びを聞いて、アメリア機は残った左腕の70mm榴弾砲を発射する。しかし、誠の弾は切削空間に飲み込まれ、アメリアの攻撃はすべて紙一重でかわされた。


「全弾回避?」 


 そう誠がつぶやいた時、今度は誠の真下に銀色の平面が現れ、伸びたサーベルが誠機の左足を切り落とした。


「こなくそ!」 


 叫びながら誠はレールガンをランに投げつける。ランはそれを半分に切り分けるとさらに突き進む。だが、誠もすでにダンビラを抜いていた。


『動きを止めればアメリアさんが何とかしてくれる』 


 そう心に浮かんだ言葉をアメリアへの指示にしようとしたときには、すでにランは切削空間を展開していた。誠のダンビラが空を切る。ランはすでに誠にかまっていない。


『ごめん!誠ちゃん!』 


 そんなアメリアの通信が途切れた。振り返れば誠についてきていたアメリアの機体が爆縮をはじめていた。


「得物は?」 


 ダンビラを使うには距離があった。左足を失ったことによる重力バランスの再計算が行われている為に運動性も極端に落ち込んでいる。ランは無情に再び230mmカービンを構える。切削空間を展開しようとしたが、誠はいつもの訓練からそれが無駄であることを知っていた。視界が途切れれば必ずランは切削空間を使用した転移を行って回りこんで来た。


 とりあえず干渉空間をいつでも展開できる体勢でランの機体を見つめた。ランは発砲しなかった。そのままダンビラを右手に引っ掛け、左手で230mmカービンを構えながら突入してくる。

擲榴弾を放った。誠の読み通り、ランが切削空間を展開する。投擲榴弾の散弾が散らばり、視界が途切れた。誠はわざと動きを止めた。


 ランは誠の投擲榴弾が目くらましであることぐらいわかっていると誠は読んだ。そうなれば必ずこちらが切削空間を展開していた以上、転移を行うと読んでくるはずだ。その裏をかく。


 誠はサーベルを握り締めて爆発地点を中心にランの気配を探った。背中に直撃弾。そして撃墜を知らせる画面が全周囲モニターに映し出される。


「どうして?」 


『馬鹿だろ、オメー。アタシがお前と同じ行動を取ったらどうなるかぐらい頭がまわらねーのか?まったく、第一小隊は役立たずぞろいだなあ。第二小隊の設立が早まらねえとヤベーことになるぞ』 


 ランはそう言うと素早く通信を切った。開くコックピットと装甲板。誠は呆然としながら、こちらを見上げているかなめとカウラの姿を見ていた。



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