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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第八章 小さな姐御の本配属

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第37話 監視者の目を嫌がるかなめ

「それより叔父貴。管理部に背広組のキャリアが来るって噂、本当なのか?司法局の偉いさんに監視されるのは御免だぜ」 


 かなめのその言葉を黙って聞きながら嵯峨は口に肉を放り込む。


「ったくどこで聞いてきたんやら……まあ、監視って訳じゃないよ。菰田じゃ予算編成会議とかに出られないから代わりに俺が出てるんだけど、俺は経済感覚があまり無いもんだから、予算の分捕りあいでどうも負け続きでね。その道の専門家を引っ張ろうって話なわけ。これで次の出動の時の予備費もその新しい部長様のおかげで司法局から出るようになる。良いことずくめじゃないの」 


 嵯峨は口の中で肉の香を確かめるようにかみ締めながらつぶやいた。


「本当にそうよね。隊長は予算の分捕りあいには本当に弱いんだから。これまでも予算取りの関係で東和軍とパイプが欲しいところだったから、『代理』と言うことで司法局本部の会議に出られない菰田君の代わりに腕の立つ背広組の人材が欲しいって言ったらそれに適した人材がいるって話が来たのよ」 


 静かに肉をかみ締めていたアメリアがあっさりとした口調でそう答えた。


「背広組?マジかよ……東和の背広組は信用置けないからな。東和の背広組のエリートは金を握ってるからと言ってアタシ等制服組を見下してやがる。気に入らねえな」 


 かなめはそう言いながら一人、肉に箸を伸ばさない。それを気遣うかのように嵯峨は良く焼けた牛タンをかなめの左手にある皿に乗せてやった。かなめはそれを見ると遠慮なく牛タンを口に放り込んだ。


「かなめ坊よ。お前さんのエリート嫌いは知ってるが、下士官の菰田じゃできることなんて限界が有るんだよ。だから今回はそう決まったの。決まったことに文句言っても仕方ないでしょ?かなめ坊、残念だな」 


 それだけ言うと嵯峨は牛タンを口に放り込んだ。誠はかなめを見つめた。口の中の牛タンを呑み込んだかなめはようやくかなめも決心がついたように肉に箸を伸ばすが、ハラミに手を出すかカルビを選ぶかと躊躇しているところがある。


「迷い箸は縁起が悪いな。スナイパーなんだろ?狙った獲物は逃すなよ」 


 そう言う嵯峨は彼女が取ろうとしたハラミを奪って七輪に乗せた。かなめは恨めしそうにその様子を見つめていた。


「でも、本当に美味いな。西園寺ももっと食べろ。こういう時に遠慮する貴様では無いだろ?」 


 そう言ってカウラはいい具合に焼けてきたカルビをひっくり返した。焼き肉の香ばしい香りが部屋中に漂うのが誠をわくわくさせた。


「そう言えばクバルカ中佐はこれまではうちが兼務業務で教導部隊が本務だったんですね」 


 カウラが水を向けると、肉をかみ締めていた嵯峨が微笑みながら箸を置く。


「まあね、アイツには遼南内戦で何度煮え湯を飲まされたことか……央都攻防戦の頃からの付き合いだから、もう十二年の付き合いってことになるわけだ」 


 そう言いながら嵯峨は自分だけ手元にあった甲種焼酎を飲んで昔を懐かしむようにそう言った。


「隊長は遼南内戦に参加してるんですか?そんな話初めて聞きました」 


 誠は牛タンを頬張りながらそう水を向けてみた。嵯峨は遼南内戦の最中も誠の実家の剣道場に顔を見せることがあった。そう考えると誠の記憶が間違っているのか、いちいち嵯峨が何かあるたびに遼大陸からここ東和まで往復していたかどちらかだったと言うことになる。


「まあね……俺は一軍閥の首領から初めて、最初は社会主義国家建設を目指す人民軍に味方して戦った。しかし、その人民軍があまりにダメダメなんでその人民軍を乗っ取っって、東モスレムの有志とつるんで西遼軍と言うのを立ち上げて最終的にのさばってた遼南共和国の独裁者、ガルシア・ゴンザレス大統領をぶっ殺そうとしたわけだ。だけど……その手柄はランに持ってかれたんだ……一番信用していた『粛清者』と恐れられたランに殺されるとはゴンザレスの旦那も因果なもんだ。ランが言うには『利用されるのは』もうこりごりだってね。人でなしの独裁者の最期なんてもんはみんなそんなもんだ」


 そう言って嵯峨は足元の甲種焼酎を飲んだ。嵯峨の明るい口調の割に重い内容に一同はただひたすら沈黙した。


「『利用されるのは』こりごりって……確かクバルカ中佐は遼南共和国のエースだったんですよね。つまり、共和国に反乱を起こしたんですか?」


 誠は嵯峨の言葉の気になるところを繰り返しそう言った。


「そこんところは俺の口から言う訳にはいかないな。うちじゃあ他人の過去の話をするのはご法度だ……いずれ奴もお前さんにその時の心情を話すときが来るだろうからな」


 そう言って嵯峨はニヤリと笑った。その時、隊長室の扉が開いた。


「失礼します!」 


 そう言って入ってきたのはアメリアの仲間達。アメリア達の『おもり役』のパーラ・ラビロフ大尉と灰色の長い髪にいつも不織布のマスクをしている操舵手のルカ・ヘス中尉がが立っていた。手にはそれぞれ紙皿と割り箸を持っていた。


「なんでオメエ等が来るんだよ?肉の分け前が減るじゃねえか」 


 肉をかみ締めながらかなめがあからさまに嫌な顔をした。


「ああ、俺が呼んだ……この量だもん食べきれないよ。かなめ坊、肉の量の話なら大丈夫だ。……と言って全員を呼ぶには量が少ないしな。ああ、思い出した。神前。お前さんにプレゼントが有るんだ。いつまでも22口径のおもちゃ銃って訳にはいかないわな。うちは一応は武装警察。警察官はふさわしい威力の銃を持たないとね」


 嵯峨は立ち上がると、執務机の後ろから別の七輪を取り出した。


 中の炭は十分におきていて真っ赤に網を載せられた網を熱し続けていた。そして嵯峨はそのまま机に置かれた大型拳銃を手にして誠に手渡した。



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