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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第四十三章 それぞれの過去のお話

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第197話 残酷な人造人間の定め

「春子さん。春子さんは普通の人間だから分からないかもしれないけど、私達ラスト・バタリオンの場合、物理的にちょっと複雑な事情があるのよ。だからそう単純には話は進まないの」


 黙ってビールを飲んでいたアメリアが春子に向ってそう言った。意外な人物が言葉を発したことに驚いたように春子はアメリアの顔をまじまじと見つめた。


「どこが違うの。アメリアさんもリンさんも人間扱いされるようになってるじゃないの。しかも今では立派な軍人さん……ちがうわね、『特殊な部隊』の皆さんは警察官だったわよね」


 春子はそう言って笑顔を浮かべた。


「さっきリンが言ってた『従属本能』って奴が厄介なのよ。戦後起動型、この場にいるカウラなんかにはそれは無いけど、密輸品だったリンや私みたいに戦後直後にロールアウトしたタイプにはその『従属本能』が植え付けられているの」


 アメリアの独白で、誠はアメリアがあの二十年前の第二次遼州戦争直後にロールアウトしたと言うことを初めて知った。


「『従属本能』って言うのは分かりやすく言うと、ある特定の人物の言うことをすべて肯定してしまうように思考が強制されてしまうものなのよ。私もそうだったけど、そうなると何が良くて何が悪いか分からなくなる。私も戦後も抵抗を続けたネオナチの施設で目覚めたんだけど……それはそれはひどい扱いを受けたわ。そこで受けた仕打ちはここに誠ちゃんが居るから言いたくないけど」


 アメリアはそう言ってビールを飲んだ。いつもの月島屋の明るい雰囲気はそこには無かった。どんよりとした宿命を背負った女が三人ここに居る。誠にはそのことだけは分かった。


「私も岡場所で十人の男達の相手をさせられて、その男に穴と言う穴を犯されてもそれを当然と受け入れていました。それが『従属本能』の持つ力です。その場にかえで様がお見えにならなかったらその男達に死ぬまで犯されていたでしょう。しかも、それに一切逆らうこともできずに」


 リンは改めてかえでの顔を見やった。かえでは悲しい笑みを浮かべながらそう語るリンを優しい目で見つめていた。


「そう、それが『従属本能』の恐ろしいところ。じゃあ、聞くけど誠ちゃん。なんでラスト・バタリオンが女ばかりなのはわかる?」


 誠は深刻な話の中でのアメリアからの突然の質問に言葉を発することもできなかった。


「分からないでしょうね。誠ちゃんは社会情勢に疎いから。ラスト・バタリオンが女ばかりなのは子供を産むため。『民族の純血を守る』ってのが当時ゲルパルト帝国を支配していたアーリア人民党のスローガンだもの。その為の兵隊の相手をさせられる『産む機械』。それがラスト・バタリオンの正体よ」


 アメリアの言ったことはあまりに衝撃的すぎて誠は言葉が無かった。同時に人間を機会として扱うネオナチのやり方に憤りと軽蔑を感じていた。


「私がネオナチの残党から救出された時、子供がお腹にいたらしいの。産んだわよその子供。訳も分からずにね。でもそれからは会ってない。会う気にも成れないわ。だって当時の私と今の私は別人だもの。今更母親面なんてできないわ」


 この告白も誠は初めて知るものだった。そしてアメリアの気持ちも分からないでは無かった。


「だからそんな国、こちらから捨ててやるって言ってこの東和に来たのよ。ああ、軍籍がなぜまだゲルパルトにあるかってこと?当時、ゲルパルトは戦うことしか知らないラスト・バタリオンの教育プログラムとして通信教育で士官学校の教育をすると言う制度を設けていたの。おかげで、東和の狭いアパートでバイトをしながら士官学校を出て将校になれた。それが今の私」


 誠は今の趣味人のアメリアからは想像がつかないような暗い過去が彼女にあることを知って衝撃を受けていた。


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