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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第四十二章 庶民感覚と言う奴

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第191話 焼鳥屋が珍しいらしく

「それじゃあ始めようか」


 いつもの月島屋の二階。そこで酒の周り終わったタイミングを見計らって嵯峨はそう言って日本酒の入ったグラスを掲げた。


「ここが焼鳥屋ですか……想像していたより奇麗なのですね」


 豊川の庶民の住宅街や商店街が珍しいらしく、月島屋の前で立ち尽くすかえではひたすらため息ばかりをついていた。


「かえで、どんな想像してたんだ?オメエのよく出入りしている甲武の岡場所の飲み屋でも想像してたのか?あんな掃きだめみたいなところ、東和じゃ探す方が難しいや」


 妹の言葉に明らかに不機嫌そうにかなめはそう言いながら乾杯も待たずに愛飲するラム『レモンハート』を口に運んでいた。


「ささ、焼鳥盛り合わせが着きましたよ!」


 今にもかなめとかえでが口喧嘩を始めそうな勢いだったので、誠はそう言うとこの店の看板娘の家村小夏が運んできた盆から焼鳥盛り合わせを取って嵯峨の座る上座のテーブルから順番に配り始めた。


「これが焼鳥か……甲武じゃこんなもの貴族でも相当荘園を持っているクラスでは無いと食べられないぞ」


 かえでは目の前に回って来た焼鳥を見て思わずそう口走っていた。


「あそこは貧乏人は肉と言えば合成肉ばかりだからな。本物の肉なんてそれこそ貴族の下っ端がようやく食えるくらいだ。まあ、アタシ等くらいの上流階級になると鶏肉なんてあまり口にしねえがな」


 いつものように貴族風を吹かせつつかなめはトリ皮串に手を伸ばした。


「西園寺家は質素で売ってるんだ。お前さんも喜んで食ってたじゃないか、鶏のから揚げ」


 そうツッコミを入れたのは嵯峨だった。


「西園寺さんは鶏のから揚げが好物なんですか?」


 誠の言葉にかなめの表情が怒りの色に染まるのを見て誠はそれ以上の追及をやめた。


「でもまあ、おいしいですよ。この肉は。鶏肉はあまり口にしたことは無いのですが、リン。これからは我が家でも鶏肉をたくさん食べることにしよう」


 かえでは焼鳥が大層気に入ったようで、一気に一串平らげて次のネギまに手を伸ばした。


「承知いたしました。早速手配させるようにいたします」


 かえでとリンが東和に来て何を食べていたのか不思議に思いながら誠はビールを傾けた。


「そう言えば、かえでちゃんは以前からこちらの屋敷に住んでるのよね?あれ?例の『マリア・テレジア』計画がバレて甲武がごたごたしてたから?」


 不用意にそんなことを聞いてくるのはアメリア以外に居なかった。


「はい、この半年ほど近くに屋敷を購入いたしましてそこで暮らしています。まあ、クラウゼ中佐の指摘の通り、父から『今は身を隠しておけ』と言われまして」


 かえではネギまを食べ終えて、次はレバーに手を伸ばしていた。


「じゃあ、あれ?こっちに来てからは何を食べてたのかしら?外食とかしないの?」


 フランクな調子で語り掛けるアメリアと堅苦しく話すかえでを見比べながら誠はアメリアの度胸に感心していた。


「銀座で働いていた料理人を雇いました。主にフランス料理ですね。あと、外食もしますよ。大使館付武官に知り合いがいるものですから、その紹介でレストランとかを教えてもらって通っています」


 さすがに貴族趣味のかえでらしい答えに誠は言葉が無かった。


「おいおいおい、食いもんの話をアタシ抜きでしようってのか?」


 そこに入ってきたのは食通として知られるランだった。彼女も豊川市近郊にいくつもの隠れた名店を知っている根っからの食道楽の人だった。


「日野。アタシが良い店を教えてやる。フランス料理……はアタシの口には合わねーが、寿司とか、蕎麦とか、うどんとかの良い店を教えてやる。全部アタシのおごりだ。好きに食っていいぞ」


 ランはビールを飲みながら上機嫌でそう言った。


「ありがとうございます。ここまで気を使っていただけるとは、僕は幸せ者です。良かったな、リン」


「はい、かえで様」


 二人は自分達の幸福を喜び合うようにそうささやきあった。



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