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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第四章 『実験』にあまり期待しない機動部隊長

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第19話 秘密の血縁関係

「それに甲武国の西園寺首相は兄さんにとっては戸籍上は義理の兄、血縁上は叔父に当たるわけですし、外惑星のゲルパルトのシュトルベルグ大統領は亡くなられた奥さんの兄というわけですしね。現場も背広組もとりあえず両国首脳部に媚を売りたいんでしょうね。西園寺首相もシュトルベルグ首相も血縁者を優遇されて心が動くような軟弱な人ではない。そのことは周知の事実だと言うのに」 


 高梨はそう言うと茶をすすった。


「そうだったな……高梨さん。アンタは隊長の……」


「僕は腹違いの弟ですよ……56番目の弟です。まあそのことはできるだけ内密にしておいてください……兄さんと遼帝家とのことは一応、秘密ってことになってるんで。このことは兄さんから強く脅されているんで。『俺の自由が利かなくなると色々面倒なことが起きる』って」


 普通の人ならば56番目の弟と言う言葉に驚くところだろうが、ランは嵯峨の出自を知っていたので驚くことなく聞き流した。


「そうか……56番目か……全部で分かってるだけで326人兄弟か。そのうち生存しているのが10人。『遼帝家』に産まれるってことは残酷なことなんだな。まあその326人のうち311人を遼南共和国建国の時の混乱に乗じて殺したのが他でもないアタシなんだけどな」


 そう言って笑う高梨と嵯峨に共通点をあまり見いだせないランはただ苦笑いを浮かべるだけだった。


「話は戻りますけど、ここ東和じゃ『特殊な部隊』に西園寺一門なんかの身内を司法局という場所に固めているのはどうかって批判はかなり有るんですが……、まああの大国甲武国が貴族制を廃止でもしない限りは人材の配置が身内ばかりになるのは仕方ないでしょうね……それ以前に兄さん……いや、嵯峨大佐の部下が務まる人材が東和にいるかって言うと疑問ですが」 


 静かに高梨は手にした茶碗をテーブルに置いた。湯飲みで茶を啜りながらランは高梨を観察していた。それなりの大男の嵯峨と小柄な高梨が腹違いとはいえ兄弟とはとても思えない。ただ体格はかなり違うがその独特の他人の干渉を許さない雰囲気は確かに二人が血縁にあることを示しているように思えた。


「お茶をお持ちしました」


 開かれた扉からランの留守を預かっている長身の女性大尉がお盆を持って現れた。彼女はものおじすることなくそのままランと高梨の前に湯呑を置いて行いた。彼女はかわいらしいランの頭を今にも撫でかねないような好意的な視線で見つめていた。 


「隊長。このまま里帰りってのもアリなんじゃないですか?あの『特殊な部隊』も『近藤事件』で法術の公開と言う一つの役割を終えた訳ですし。しばらくは甲武の貴族主義者達も大人しくしているでしょう。それに法術関連の捜査は司法局法術特捜の任務です。むしろそちらに予算を割いて、その予算の一部をうちに……」


 美女とは言えないものの愛嬌のある若い女性大尉の言葉にランは苦笑を浮かべた。


「バカ言え……あんな問題児どもほっとけるかよ。それに法術の存在が公開されたこれからがうちの本領発揮の舞台だ。今、後に引くわけにはいかねーよ。『近藤事件』はあくまで法術を表ざたにするためのうちの『駄目人間』が打った『猿芝居』だ。これからが本番だ。敵は今度は法術を使って攻撃してくるかもしれねー。そーなったら、うちの希望の星、神前誠曹長の出番だ。まー心もとねーにーちゃんだがな。アタシが鍛えてなんとかする。それに第二小隊の事もある。これからはあちらが忙しくなるんだ」


 明らかに茶を運ぶ人選としては切れ者すぎるように見える女性大尉から茶を受け取ったランは微笑んでいた。隣の高梨も苦笑いを浮かべた。


「まーこれもあのおっさん一流の布石なのかも知れねーな。汚れ仕事の軍事警察部隊に覚醒法術師五名……さすがに予算をケチる理由が少なくなる……はず……ですよね?高梨参事」 


 そう言ってランは鋭い目つきで高梨を睨んだ。とぼけるように高梨は目を逸らして天井を見上げる。そのいかにも背広組のやりそうな予算を握っている人間独特の動作を見ながら茶を飲み終わったランの目の前にモニターが開いた。


 そこには硬い表情のひよこの姿が映っていた。


『実験準備完了しました!クバルカ中佐、観測室までお願いします』 


 ひよこの一言にランは腰を上げた。


「じゃー行くぞ。これもまたあの『ビックブラザーの加護』と同じで一回こっきりしか使えねえ兵器だ。高梨さんには悪いがこれも予算の無駄かな?」 


 そう言うとランは教導官室を出ようとする。高梨もその後に続いた。


「しかし……あの神前誠と言う青年……本当にクバルカ中佐を超える逸材なんでしょうか……」


 高梨は立ち上がりつつそう言って笑いかけた。


「素質は認める……だが……これからだな……アイツがアタシを超えられるかどうか……まー楽しみが増えてうれしいこった」


 ランはそう言って観測室に急ぐ高梨に続いて教導部隊部隊長の部屋を後にした。



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