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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第四十章 かなめとかえで

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第184話 モードチェンジ

「げ!」 


 突然の女性の絶望を帯びた叫び声に自分の作業に集中して話を聞かないようにしていた誠は驚いて顔を上げた。


 そこでは机に置いた銃に向けていた視線を上げたかなめが部屋に入ってきたかえでの姿を見つけたところだった。


 誠はかえでの顔がそれまでの退屈したような無表情から感激に満ちたものへと変わっているのを見つけた。かえでがかなめのところまで飛ぶような速度で走っていくと胸に手を伸ばそうとするのをかなめはかえでの頬に平手を食らわすことでかわした。


「テメエ!何しやがんだ」 


 そう叫ぶかなめにかえでは打たれた頬を押さえながら歓喜に満ちた表情を浮かべる。


「この痛み、やはりかなめお姉さまなんですね!」 


 ぶたれた痛みで相手を認識するというかえでの認知方式に誠は頭痛がしてくるのを感じていた。かなめの隣に立っていたカウラは何が起きているのかわからないという表情を浮かべていた。


「これよ!これこそがかえでさんよ!」


 かえでの一言がツボに入ったのかかえでを隊長室から機動部隊の詰め所まで案内してきたアメリアが感動に打ち震えていた。


 そんな人々の視線を気にしてなどいないというように、かえではそのままかなめの手を握り締めるとひきつけられるようにかなめの胸に飛び込もうとする。


「おい!やめろ!気持ち悪りい!」 


 まとわりつくかえでをなんとか引きはがそうとするかなめだが、サイボーグのかなめの腕力を知り尽くしているかえでは上手くその腕を交わしつつかなめに抱き着き続けた。


「ああ、お姉さま!もっと罵ってください!いけない僕を!さあ!」 


 そのかえでの言葉に誠は頭を抱えていた。誠の前で見せた高貴な若武者のような凛々しい姿の片鱗はそこには欠片も残ってはいなかった。カウラはそんなかえでとかなめのやり取りを汚いものを見るような視線で見つめている。かなめは自分の行動がただかえでを喜ばせるだけと悟ったように、口元を引きつらせながら誠に助けを求めるように視線を送っていた。


 誠もさすがにアブノーマルな雰囲気をたぎらせるかえでを見て、すぐにアメリアに向けた。アメリアはと言えば、完全に他人事と言うようにこの状況を楽しんでいた。


 その様子を今にも火が付きそうな表情で見つめる視線が有った。


 この部屋の主、クバルカ・ラン中佐である。彼女の新しい部下が日常的にこのようなセクハラを姉に対して繰り返すことになることを想像するとランの腸は煮えくり返りそうになった。


 それを察したようにアメリアがかえでに向き直った。


「日野かえで少佐。もう少しお静かになさった方がよろしいのでは?あくまでもここは職場ですので、愛し合うならホテルでも押さえておきましょうか?」


 アメリアの気の利いた提案に、かえでは我に返って再び誠が最初に出会った時の凛々しい青年士官のそれに戻った。 


「そうだな。今は勤務中だ……お姉さま、勤務が終わったら是非……お姉さま……」


「断る!断固としてだ!」


 妹に振り回されるのは御免だと言うようにかえでは即答した。 


「かなめちゃんはつれないのね。では私が隊の施設をご案内しましょう。それと……茜ちゃん!逃げないでよ!」 


 アメリアが笑顔でドアのところに立っていた茜に視線を向けた。茜は明らかにドアの陰で部屋の中から見つからないようにしていた。その表情は誰から見てもかえでのセクハラを不愉快に感じていることがありありと分かるほどこめかみに青筋を浮かべながら茜は従姉妹を見つめていた。


「これはこれは茜様!お久しぶりです!」 


 笑みを浮かべながらかえでがいかにも型通りの敬礼をする。一方茜はしぶしぶ敬礼をしてそのまま隊長室に入ってきた。


「かえでさん、言っておきますがここは甲武国ではなく東和共和国ですからね。それに今のあなたは殿上嵯峨家当主でもあるのですから。その自覚をお持ちになって行動してくださいね……くれぐれもセクハラはしないように。ここは甲武ではありません。東和共和国です」 


 棘のある上に何度も念を押す茜の言葉にかえでは喜びをみなぎらせた表情でアメリアに案内されてリンを連れて出て行く。廊下に響くれしそうな声を上げるかえでをアメリアがなだめている声が聞こえた。


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