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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第三十九章 怪しい魅力の『男装の麗人』

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第180話 かえでの母、誠の母

『なんだか怖いよ』 


 冷や汗が誠の額を伝う。


 駅のロータリーを抜け、そのまま商店街裏のわき道に入る。ちらちらと誠はバックミラーを見てみるが、そこでは黙って誠を見つめるかえでの姿が映し出されていた。まるで会話が始まるような雰囲気ではない。しかもかえでも連れの大尉も話をするようなそぶりも見せない。


 沈黙に押し切られるように誠はそのまま住宅街の抜け道に車を走らせた。


 商業高校の脇を抜けても、産業道路に割り込む道で5分も待たされても、菱川重工豊川の工場の入り口で警備員に止められても、かえで達は一言もしゃべらずに誠を見つめていた。


「あの、僕は何か失礼なことをしましたか?」 


 大型トレーラーが戦闘機の翼を搬出する作業を始めて車が止められたとき、誠は恐る恐る振り向いてそうたずねた。


「なぜそう思う?」 


 逆にそう言うかえでに、誠はただ照れ笑いを浮かべながら正面を向くしかなかった。とりあえず怒っているわけではない、それが確認できただけでも誠にとっては儲けものだった。


 突然かえでが何かに耐えられないとでもいうように噴出して笑い始めた。誠は訳も分からず、危うく急ブレーキを踏みそうになった。


「実は母さんから君の事を聞いていてね。神前君の母君と私の母さんは古い親友なんだ。それで君が小さいころから写真とかで君の事は知っているんだ」


 かえでは自分が突然笑い出した理由をそう説明した。


「え!なんでうちの母さんが甲武のファーストレディーの友人なんですか?そんな話初めて聞きましたよ!」


 驚いたのは誠だった。誠の母神前薫(しんぜんかおる)は都内の下町で剣道場を営む普通の主婦である。誠が思いつくどんな接点をたどっても甲武の貴族に知り合いなどできそうに無い。


「そうか、君の母さんはそのことを君には秘密にしているんだね。でも、時々君の母さんは長電話をする習慣は無かったかな?」


 かえでの指摘で確かに夕食の支度が遅いと思って部屋を出てお勝手に言ったら、薫はだれかと楽しそうに電話をしている姿をたびたび見る事が有ったのは事実だった。


「確かに……時々誰か女の人から電話がかかってきて長く話していました。誰と話していたのかは個人情報なんで聞かなかったんですが……でもうちは普通の高校教師の家庭ですよ。そんな星間電話で長電話ができるほどの財力はうちにはありません」


 誇るべきことではないのは分かっていたが、何度か見た誠の家に送られてくる電話料金の請求書に不審な金額は記されていなかった。


「それは僕のお母様が気を利かせて電話代は自分持ちにしていたんだろうね。そのくらいの気遣いは僕の母さんはやってみせるさ」


 かえでの説明で甲武一の貴族にとってその程度の出費は大したことではないことは誠にも分かった。



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