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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第三十六章 二日酔いと日常

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第168話 未熟者の無茶飲み

 誠にまず襲ってきたのは激しい頭痛だった。そして吐き気だが、こちらは『もんじゃ焼き製造マシン』体質の誠には慣れたものだった。いつものように嘔吐するがもはや胃袋の中に吐くものは無かった。そして目が見開かれた。


「おお、起きたぞ。姐御も姐御だ。こんなになるまで神前の馬鹿に飲ませやがって。コイツがそう言うの断れねえって知っててやってるんだ。そのうちあの姐御、コイツを飲み殺すぞ」 


 苦しみの中、誠が目を開けるとタレ目のかなめが誠の顔を覗き込んでいた。すぐにアメリアとひよこの顔が目に飛び込んでくる。口の中には吐しゃ物の残滓が残り、気分が悪い。普通の人なら不快感に耐えられないところだが、誠は『もんじゃ焼き製造マシン』と呼ばれた男なのでこのようなことは日常茶飯事だった。


「水は……こういう時は水を飲むと良いって体験上分かってるんです。水を下さい」


 誠にとっては吐瀉などへの対処方法は慣れたものだった。 


「誠さんとりあえずこれを飲んでください。ただの水よりはマシだと思うので」 


 そう看護師であるひよこに言われてゆっくりと上体を起こした。ひよこはさすがにナースらしく気を利かせて誠を支えた。かなめは色のついた液体を誠の口の前に運んだ。かなめから手渡されたぬるくてすっぱい黄色い液体を誠は静かに飲み始めた。


 まずい液体を飲み下して、ようやくここが『ふさ』の医務室であると言うことが分かると誠は恥ずかしさで顔を赤く染めた。


「まったく無茶な飲み方しやがって。ランの姐御に飲みで付き合う必要なんかねえんだよ。あれは蟒蛇(うわばみ)だ。お前が倒れてからもまだ飲んでいやがった。あの小さな体のどこに酒が入るんだ……って、まあ、あっちよりはかなりオメエの方がマシだろうからな」 


 笑いながらかなめは隣のカーテンで仕切られたベッドを眺めた。時々うなり声がするので誰かがそこにいるのは間違いなかった。


「誠さん……飲むときはゆっくり自分の体調を考えながら飲みましょうね……これで何回目でしたっけ?西園寺さん。クバルカ中佐の事は言えませんよ。西園寺さんも何度も誠さんを潰したって聞いてます。誠さん。ビールを飲むみたいに焼酎を飲んだらこうなるんですよ。分かりましたか?」 


 誠が急性アルコール中毒でひよこの手を煩わせるのはもう何回目になるかわからなかった。隊で酒盛りをするとなると必ずと言っていいほどかなめが隊に常備してあるウォッカやジンのケースを持ってきて、隊員達に配って回るものだからいつも急性アルコール中毒患者が数人出るのが『特殊な部隊』の日常だった。


「僕は大丈夫ですよ。乗り物酔いをするので物を吐くことには慣れてますし、体調の方もなんとかなりましたから。それより隣の方の方が重症なんでしょ?そちらを診てあげてください」


 実際、肝臓は比較的健康な誠なので吐くものを吐いてしまえば、あとは多少の頭痛が残る程度だった。 


「大丈夫だ?寝言は寝て言え。顔が青いぞ。しばらく寝てろ」 


 かなめの言葉に艦船運航部、通称『釣り部』付の軍医の大尉は呆れたというように誠の飲み干した液体のコップを受け取りながら頷いた。


「急性アルコール中毒。それはもうひどかったんだぜ、かなり。瞳孔は開いてるし、時々痙攣まで起こすし……お前達どんな飲み方してたんだ?ってクバルカ中佐か。あの人と付き合うとみんな倒れる。診察するこちらの身にもなって欲しいものだな」 


 全員を見回す軍医は明らかに嫌な顔をしていた。


「すみませんねえ、先生。ランちゃんにはしっかり伝えておきますので。今後はこういうことが無いように努めます」


 アメリアが『特殊な部隊』の本部ではなく運航艦『ふさ』の母港の多賀城に勤務している艦船運航部所属の軍医に頭を下げた。


「そうしてください。神前曹長の宇宙酔い体質は防ぎようがありませんが急性アルコール中毒は未然に防止できます。これは人災です」


 そう言い切る軍医にアメリアが静かに頭を下げた。



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