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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第三十四章 恒例となった祝杯

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第162話 遠い平和への道

 ランがご自慢の日本酒を取りに行くのを見送りながら、誠は不安に襲われている自分を感じた。


「蒸し返すようで悪いですけど。これで……終わりなんでしょうか」 


 次々とベストからライフルのマガジンを取り出しては担当兵士に渡していく技術部の兵士達を見ながら誠がつぶやいた。


「カント将軍が死んだとしてもキリスト教民兵組織が解体されたわけじゃねえからな……西モスレムもこの国の資源に目が眩んでる。ただじゃあ終わらねえだろうな」


 ラムを飲みながら一人だけ素面に近いかなめはそう言って悪い笑みを浮かべた。 


「しばらくは両軍ともにどうすることもできないでしょうね。主力部隊はほぼ壊滅状態……そんな中でいまさら何ができるのよ……西モスレムも遼州同盟加盟国。同盟は加盟国の独走は許さないはずよ」 


 かなめとアメリアの言葉に誠はこの戦場の跡地の主の名前を思い出していた。


 缶ビールをちびちび飲むカウラを呆れた視線で眺めながらアメリアは冷えた両手をこすって暖めている誠の背中を押すようにしてエレベータに乗り込んだ。


 エレベータに無理やり誠が体を押し込むと扉が閉じた。居住区を同型艦よりも広く取ってあるとはいえ、エレベータまで大きくしたわけでは無かった。さらにビールの入った大きなクーラーボックスがあるだけに全員は壁に張り付くようにして食堂のフロアーに着くのを待った。


 ドアが開いて誠がよたよたとクーラーボックスを運ぼうとするがアメリアを押しのけて飛び出していくかなめに思わず手を放しそうになって誠がうなり声を上げた。


「ちんたらしてるんじゃねえよ!早くしろ!いつだって時間が大事なんだ。そのことをよく覚えておけ!」 


 かなめの言葉に苦笑しながら誠とアメリアはクーラーボックスを運び続ける。目の前には『ふさ』自慢の格段に広い食堂の入口が目に入ってきた。


「おい!先に行くからな」 


 そう言いながら新しいラムの瓶を手に入れるべくかなめは走り出した。


「神前!」 


 食堂の入口に立つと先ほどまで以前の部下と談笑していたクバルカ・ラン中佐が声をかけてきた。


「今回の作戦の最大の殊勲者はテメーだ。とりあえずこれを」 


 そう言うとランは誠に小さなグラスを渡す。そこにはきつい匂いを放つ芋焼酎がなみなみと注がれていた。


「なんで焼酎?クバルカ中佐の日本酒じゃないんですか?」


 誠は焼酎は父親との晩酌で飲みなれているものの、ラン秘蔵の伏見の辛口の方に興味があった。


「これはまだオメーには早ーんだ。もっと強くなれ!そーしたらこのうまい酒を飲ませてやる。この焼酎も隊長が飲んでる甲種焼酎なんかじゃねー。本格焼酎の高級品だ。アタシも飲んだが、焼酎とは思えねー仕上がりだ。安心して飲め」


 一方ランはと言えば巨大な杯に一升瓶の日本酒を注いで飲んでいた。


「でかいですね、その杯。どのくらい入るんですか?と言うか、それ全部中佐が飲むつもりですか?」


 焼酎をちびちびやりながら誠はランに尋ねた。


「この杯には酒が一升丸々入る。いわゆる『武蔵野(むさしの)』って奴だ。『野見尽(のみつ)くさず』を『飲み尽くさず』に掛けて、こういう杯を『武蔵野』って言うんだ。アタシは一升くらいなんてことないからお代わりするけど……テメーは真似すんなよ。死ぬから」


「誰が真似しますか!クバルカ中佐の身体のどこにそんな量の酒が入るんですか!」


 ランの酒うんちくを聞きながら誠はランの酒豪ぶりにただひたすらにあきれるばかりだった。



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