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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第三十四章 恒例となった祝杯

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第158話 誠が見せた『力』について

 司法局実働部隊運用艦であるその他の追随を許さない巡航速度だけが取り柄の重巡洋艦『ふさ』は、バルキスタン内陸の荒涼とした山岳地帯上空を北上していた。眼下には誠の攻撃で意識を失うか全身麻痺の症状を起こしている政府軍、反政府軍、そして難民達が時が止まったように動かないでいるのが見えた。そしてその救援の為に派遣された同盟加盟国の軍や警察、医療機関スタッフの車両走り回る様を見ることが出来た。


 誠は一人格納庫の小さな窓から自分が発した非破壊兵器の威力には恐ろしさと戦闘を未然に防いだという誇りを共に感じながらたたずんでいた。すべての作業を一段落させた艦の整備班員達は焼酎を回し飲みし、戦勝気分を味わっているが誠にはその輪に入る勇気が無かった。


「おい、『ヒーロー』。オメエもビールくらい飲むだろ?」 


 かなめはパイロットスーツの上をはだけてアンダースーツを見せるようにして、手にしたビールの缶を誠に渡した。誠はそれを受け取りながらダークグリーンの作業服の襟を整えた。


「これだけの地域の制圧を一人でやったんですね……我ながら……なんと言うか……凄すぎて困りますね」 


 誠は自分が成し遂げた戦闘の拡大を防ぐと言う任務を完遂したことに達成感を抱いていた。


 それはあの『近藤事件』の時の意識が途切れていく時に感じたそれとは少し違った。


 実績に裏付けられた自信。誠にはそう言うものが芽生えつつあった。


「オメエがやったんだ。すべてはオメエの手柄だ。良くやった……何かプレゼントでもしてえくらいだが、今ここじゃあアタシが喰わなかった生八つ橋くらいしかやるもんがねえ。でも良くやった」


 かなめはそう言いながら誠の肩を叩いた。


「もう生八つ橋は良いです。みんな僕に『良くやった』とか『今回のヒーローだ』とか言って一個くれるんですよ。もうお腹いっぱいです。食べるのだけが取り柄な僕ですがもう限界ですよ」


 褒め称えられることにあまり慣れていない誠は、誰もがくれる生八つ橋をすべてたいらげていた。さすがにその体格から想像されるとおりの大食漢の誠も五十個近い生八つ橋はさすがに手に余った。


「人の好意を無にするのは良くねえな。でもまあ、アタシも甘いものは駄目だからな……分からねえでもない。断りたい時は断りな。それができるのが大人ってもんだぜ」


 自分一人生八つ橋を口にしなかったかなめは誠に向けてそう言った。


「でも、これからこの国はどうなるんでしょうか?大規模な反政府軍の攻勢は止めましたけど、カント将軍の政府は反政府勢力の停戦協定無視を理由に選挙自体を延期することを決めたんでしょ?」


 誠もこのバルキスタンの独裁者、カント将軍が今回の件を口実に権力に居座り続けるこの国の未来を案じた。


「そんなもん、この国の国民が決めることだ。アタシ等の口出しすることじゃねえ。それにその肝心のカント将軍が今ご存命かどうか……アタシが聞いた話じゃ公安が将軍様の寝首を掻いたらしいや。なんとも仕事が早い。うちと違って司法局の上層部の覚えがめでたいのも頷けるってもんだ」


 かなめは吐き捨てるようにそう言った。


「そんなの無責任ですよ!カント将軍が死んでもキリスト教民兵組織とイスラム教民兵組織は健在なんでしょ?いつまた内戦を始めるか分からないじゃないですか!」


 誠はかなめの口調に違和感を感じてそう叫んでいた。


「いいか?正義だ平和だいろいろ言って他国に口出しするのは大概『偽善者』のすることだ。実際、ここに利権を持ってる西モスレムが早速停戦協議会の設置と軍の増派を提案してきた。連中の狙いはこの国の安定でもなんでもねえ。この国の地下に眠るレアメタルだ。世の中そんなもんだ。オメエは出来ることをやった。それ以上の事は考えるんじゃねえ。時間の無駄と職務権限の逸脱だ」


 非情にも聞こえるかなめの言葉に誠は返す言葉を持たなかった。


 艦船の他国上空での運行にかかわる条約の遵守の為に低速で飛行している『ふさ』だが、すでに07式を回収した地点からは30分も同じような光景が眼下に繰り広げられている。上空を行く『ふさ』に手を振る兵士の姿が見えた。


「この国がこれからどうなるかは別の話よ。誠ちゃんは一国を動かすような大それたことをやってのけたってことよ。それ以上の責任まで背負う必要なんて誠ちゃんには無いのよ」 


 アメリアの声が聞こえて誠は振り返った。そこにはパーラと二人でよたよたとクーラーボックスを運んでくる紺色の長い髪の女性、アメリアの姿が見えた。



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