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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第三十一章 野望の『廃帝ハド』の視察

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第145話 『駄目人間』の思惑を見切る男

「今回はとりあえず嵯峨君を褒めておこう。この兵器の対処法などすぐに開発されることは確実なんだ。おそらく嵯峨君はそれを見込んでこの事件にあの兵器を投入したんだろうね。切るべきタイミングで思い切りよくカードを切れる。彼は優秀なギャンブラーになれるかもしれないな……いや、彼はすでにかなりのギャンブル通らしいね。なあ、北川君」


 長髪の男は背後に控える北川公平に声をかけた。


「ええ、『陛下』あの男は月三万円の小遣いで生活していますが、その生活費は十万円前後になるようです。その多くはオートレースの勝ちにより捻出されているようです。あの男には洞察力とツキがあります」


 砂漠には似合わないアロハシャツを着た北川公平はそう言うと静かに『陛下』と呼んだ男に尊敬の念を込めて首を垂れた。 


 かつての因縁にとらわれている桐野は北川にまでこういわれてしまうと桐野は何も言い返すことができなかった。


「ですが、わざわざ嵯峨に手柄を与えて奴の提唱する遼州同盟の権威が向上すれば厄介なことになるんじゃないですか?同盟が我々の意図の気づけば必ず先頭に立ってくるのはあの連中ですよ。自信をつけてきた素人ほど厄介な敵はいませんから」 


 そう言ってみる桐野だが、『陛下』と呼ばれた長髪の男はそんな言葉を鼻で笑い振り向くこともせず話し始めた。


「同盟の権威向上?良いじゃないか。私もこの星で生まれた存在だ。その権威が向上していつかは地球と伍していけると考えるとそれは素晴らしいことだと思うよ。まあ、嵯峨君と私の考えの違うところは彼が地球と同格の存在にこの星をしようとしているのに対して、私はそんなことでは不十分だと感じていると言うところだ」 


 そう言って男は笑っている。明らかに自分のような暴力馬鹿を軽蔑しているような調子で話す男に桐野は面白いはずが無かった。だが、彼は見てしまっていた。


 07式が司法局実働部隊三番機に捨て身の攻撃を仕掛けた時、この男は遥かに離れた距離にある高速で移動中の07式のコックピットの内部に干渉空間を展開させそれを炎上させた。おそらくパイロットは自分が燃え尽きようとしていることを気づく時間も無く消し炭になったに違いない。


 その正確無比な力の制御と空間干渉と炎熱の二つの力を極力押さえつけながら目的を達成する判断力。確かにこの男はあの桐野にとっては軽蔑すべき転向者である嵯峨以上の力を持っているのは間違いなかった。


「『陛下』ほどの力をお持ちなら、上空に待機している甲武第三艦隊の背後の米帝の艦隊を消し去ることなど容易なのでは?そうすれば、地球人は自分達の無力さを自分の精鋭部隊の壊滅と言う事実によって思い知らされることになる。そうすれば『陛下』の理想実現に一歩近づくことになる……違いますか?」


 嵯峨とともに先の大戦で地球軍と戦った経験を持つ桐野はそう言って目の前の男の実力がどれほどのものか図ってみた。


「それくらい私の力をもってすれば不可能ではないね。だが、今はその時期ではない。それにだ、今の遼州と地球の関係は私の理想実現には適した環境にある。『近藤事件』で法術の存在が公になった今、私の力は使い放題だ。そこで桐野君に忠告しておこう。法術師の戦いでは実力の限界を示した方が負ける。君の実力の限界は嵯峨君に見切られているんだ。恐らく嵯峨君と君が戦ったとしても万が一にも君には勝ち目はない」


 恨みを持つ嵯峨に勝ち目はないと言われて桐野の表情は鬼のように歪んだ。


「あの男は『最弱の法術師』ですよ。近距離の空間転移と不死身の身体。それがあの男の力のすべてのはずです。そんな男になんで私が負けると?」


 桐野は長髪の男の言うことが理解できずにそう反論した。


「嵯峨君の前に君が立てばきっと分かる。今はそれだけ言っておこうか」


 そう言って長髪の男は視線を桐野に向けた。その自信と狂気に満たされた目に桐野は身体に緊張が走り、刀を抜くべきかもしれないと思うほどの恐怖を感じた。



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