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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第三十章 掌の上で転がされて

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第140話 『新兵器』発動の時

 法術兵器の出力ゲージが臨界点に近づいていく。だが、これで三度目と言う射撃の効果範囲は最大300kmと言う範囲である。演習場での範囲が30kmだったところから考えればそれは明らかに広すぎる範囲だった。


 ただ、誠には理由は無いがこのくらいの事は誤差に過ぎないように感じていた。あの策士が誠の能力を過大評価しているとは考えられない。自分にはできる。誠はそう思いながら作業を続けた。


「ひよこちゃんも認めてくれたんだ。行ける!いや、やるんだ!隊長が仕組んだ策なんだ!これまでだって一度も失敗したことは無いじゃないか!出来る!出来るんだ!」 


 誠は心の思いを超え一杯に張り上げて叫んだ。足元では東和陸軍の特殊部隊員に紛れて『特殊な部隊』のバックアップメンバーの見慣れた隊員達が向かい側の稜線に向けて射撃を開始していた。


『すまない神前。また渓谷沿いに待機していた敵シュツルム・パンツァーが起動したとの連絡だ……』 


 カウラの敵新戦力の投入など、覚悟を決めた誠にとってはもう気になるものでは無かった。


「大丈夫ですよ、カウラさん。僕は一人でやれますから。ここまで来たんでしょ!やれますよ」 


 レーダーを見る余裕も誠にはなかった。それどころか次第に全身から力が吸い取られていく感じに誠は戸惑っていた。それは目の前で赤く輝き始めた法術兵器の銃身に命が吸い取られていくような感覚だった。


 カウラは東和陸軍特殊部隊が射撃を続けている山並みから現れたシュツルム・パンツァーに向かってエンジンを吹かした。


『やばいわよ、あれは遼帝国軍の機体!おそらく反政府軍に寝返った機体よ!まったく本当に役に立たないどころか邪魔以外の何者でもないわね、遼は!』 


 アメリアの言葉で新戦力のシュツルム・パンツァーがパルチザン化した遼帝国の新鋭機であることが誠にも分かった。


『そんなことははじめから分かってたことだろ?アメリア!降伏した遼軍のデータをよこせ!遼帝国軍はあの国としては二線級の部隊をこの選挙監視任務に当たらせていたはずだ!しかし、場合によっては最悪の事態も想定できる!』 


 アメリアとかなめのやり取りも、今の誠には他人事のように感じられた。遼軍の弱さは誠も知っている遼州ジョークのひとつだった。だがそんなことを考える余裕は誠には無かった。


 目の前の制圧兵器の砲身が赤く輝き始める。そこから発射される思念介入粒子にすべてをかける。誠に今できるのはそれだけのことだった。


「エーテル波正常。アストラルリンク、第四段階までクリアー!」 


 誠はただ何も見えない空間に伸びる銃身だけに神経を集中する。カウラの表情が誠のモニターの中で歪んでいるのがわかる。彼女を苦戦させる敵に誠は一瞬レーダーに目をやった。そこに光るのは遼軍のシュツルム・パンツァーの識別信号を出している敵機だった。


『パルチザン化か!まったく遼軍にはプライドが無いのか?』 


『いまさら何を言っても仕方が無い!あと少し……』 


 カウラの刺のある言葉、かなめが祈るようにつぶやく。誠の視線は臨界点に近づきつつある法力ゲージに視線を移した。


「カウント!テン!ナイン!エイト!セブン!……」 


 誠はカウントを開始する。機体と自分が一体になっていることを感じていた。砲身は血を思わせる暗い赤色から次第に灼熱の鋼のようなまぶしい赤に色を変えつつあった。もう止められない。


 誠はそう思いながら精神を集中した。それ以外、今誠にできることは何もなかった。


『範囲指定は完璧よ!行け!神前誠!』 


 アメリアの言葉に誠は目の前の地図に浮かぶビーコンの位置を確認すると精神をさらに高揚させる。次第に目の前の空間が桃色に光り始め、そこからあわ立つように金色に光る粒が地面からあふれ出てくる。


 そこに突然光りだす地表から生えてきたとでも言うように黒いシュツルム・パンツァーが姿を現したのに誠は叫びを上げるところだった。先ほど起動したと言う遼から反政府軍に寝返った機体。法術対応型の証の様に干渉空間を展開しながら一気に誠の機体に距離を詰めていく。司法局実働部隊の05式とは違った見慣れないフォルムが見て取れた。そして動きは明らかに二線級部隊のモノとは思えない最新世代のシュツルム・パンツァーの動きだった。


 さらに近づくたびに肉眼でも見える干渉空間を展開している敵は、『近藤事件』で遭遇した火龍などを改造した取ってつけた法術対応型のなどではなく、遼正規軍配備の最新の機体であることを示していた。



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