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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第二十六章 『駄目人間』の予想通りに展開する情勢

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第120話 居住性の悪い輸送機

 誠達の乗る輸送機は東和領空を出ようとしていた。輸送機中の居住性の悪いP23輸送機のキャビンに設けられた臨時司令室で黙ってモニターを眺めているアメリアが見えた。その流れるような紺色の長い髪を備え付けのシートに座って誠はぼんやりと眺めていた。


「どうしたの誠ちゃん。もしかして……私にラブ?」 


 アメリアがそこまで言ったところでトイレにつながる自動ドアから出てきたかなめがアメリアの後頭部に手刀を叩き込む。


「アメリア!くだらねえこと言ってないでモニターでも見てろ!今は任務中だ!余計なことなんか考えるんじゃねえ!」 


 不機嫌なかなめに振り向いたアメリアは鼻をつまんだ。


「またトイレでタバコ?トイレが詰まったらどうするのよそれに前から思ってたけどかなめちゃんのタバコ。匂いが凄いわよ。いくら自分には良い香りでも周りの事少しは考えなさいよ」 


 アメリアはここぞとばかりにかなめを指弾する。かなめはと言えばまるでこれを無視するとアメリア前に立ちはだかり、わざと口から息を吐いてアメリアに吹きかけた。


「携帯灰皿持ってるよ!それにタバコの事は余計なお世話だ。アタシはタバコはキューバって決めてんの!他のタバコなんか吸えるか!葉っぱを育ててる土が違うんだよ土が!」 


 かなめはそう言うと誠の隣の席に体を倒す。サイボーグの体の重さにぎしりと椅子がきしんだ。


「アメリア。作戦開始時刻が伸びているのはどういう訳だ。クバルカ中佐の言う通りこの作戦は時間との戦いになるはずだぞ」 


 後部格納庫に連なるハッチから出てきたカウラが叫んだ。


「状況が変わってるのよ。ちょっとこのデータ……分かったわ。誠ちゃんとカウラちゃんこっち来て。ああ、かなめちゃんは来なくていいわよ。そのまま後部ハッチから飛び降りて。臭いから」 


 いつものようにかなめはアメリアの挑発にのせられそうになって右手を振り上げた。それを制止してカウラは仮眠を取っているパーラのオペレーター席に腰をかけてアメリアの前に展開しているモニターをのぞきこんだ。そこには作戦空域大気圏外の様子が画面が映し出されている。そしてそこには重巡洋艦を旗艦とした甲武の艦隊が表示されていた。


「甲武の連中。大気圏外に艦隊を展開か。ゲリラと二線級の軍隊相手にずいぶん大げさな話だな。いったい何をそんなに大げさに構えてるやら……どこかの地球圏の国にでも頼まれたのか?」 


 かなめは脳内にアメリアの前に展開している画像と同じものを見ているようだった。


「現在バルキスタンへの超高度降下作戦を展開可能な宙域に甲武の重巡洋艦『妙高』を旗艦とした艦隊が所定位置に移動中ってことらしいわね。大気圏外からの降下作戦。費用対効果の低い作戦をわざわざするとはかなめちゃんの指摘も合ってるかもね。甲武は地球圏内の資産を凍結されてるから。それの解除でもチラつかされたんでしょ。所詮世の中お金ってことよ」

 

「『妙高』……甲武第三艦隊か。赤松のオヤジの手のものだな。甲武第三艦隊は甲武海軍の精鋭部隊だ。甲武は本気でアタシ等が失敗したら降下作戦を実施するつもりだ。これはかなりヤバい状況だな。神前、失敗は出来ねえぞ」 


 空いた席に足を伸ばしていたかなめがつぶやいた。


 カウラも緊張した面持ちで意外なギャラリーの登場に不安を感じたように指揮を執るアメリアの顔を見つめた。


 赤松忠満中将。嵯峨の無二の親友である第三艦隊提督である。その人柄は『駄目人間』の隊長、嵯峨惟基曰く臨機応変、常に先を見て動く人物だった。


「この作戦。失敗は許されないわね。甲武の乱入なんてことになったら西モスレムは遼州同盟を離脱して同盟はお終いよ。頼むわよ、誠ちゃん」


 三人を見ながら誠はより重くなっていく自分に与えられた責務に耐えられなくなって吐きそうになる胃をなんとか抑え込むのに必死だった。


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