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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第二十五章 派閥の領袖の会合

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第116話 宿敵同士の会見の場

 苦虫を噛み潰したと言う表情、その典型を見るような顔つきで醍醐文隆陸軍大臣は嵯峨惟基の隣に座っていた。


 その表情が生まれた原因は醍醐のアメリカ陸軍との共同作戦によるバルキスタンの政権転覆の作戦が反政府勢力の武装強化により頓挫したと言うこともあったが、それ以上に彼らがいるのが政敵とされる『官派』の根城である九条家屋敷の座敷の上座に座らされていると言う居心地の悪さもあってのことだった。


 醍醐が暴きたいと思っていた『近藤資金』の流れに連なると思われる『官派』の政府高官も九条家の被官という名目でこの場に呼び出されてきていた。隣の嵯峨が悠然と彼らを眺めている有様を見て、さらに醍醐の顔は歪んだ。


「醍醐さん、そんなに渋い顔する必要ないじゃないですか。せっかくいつもはあまりお会いできない方々とこうしてご一緒させていただいているんですから。笑顔を作らないと。お話し合いにならないでしょ?」 


 この会合を提案した張本人である嵯峨惟基は笑っていた。隣に控えるこの屋敷の主、若干28歳の女大公九条響子も嵯峨の笑みの理由が分からず黙って彼を見つめていた。


 そんな響子に醍醐は少しばかり安心していた。下級貴族や士族達の支持が厚く、西園寺首相の彼らに辛く当たる政策の中で彼女が頭角を現しているのは甲武の安定と言うことを考えれば必要なことだと醍醐は思っていた。そんな自分の思いが無ければ隣に座るかつての主君を殴り飛ばしてこの場を去ることすら醍醐の考えのうちには入っていた。


「内府殿には多少臣下の気持ちを勉強していただく必要がありそうですわね。はじめからバルキスタンの混乱を分かっていたのなら醍醐様に諫言するくらいの気遣いはしていただかないと。そのようなことですからいつでも内府殿は悪人呼ばわりされるのですよ」 


 その清楚な声色に乗せて放たれる響子の言葉に嵯峨は思わず自分の頭を叩いた。本来ならば当主になるはずも無く、分家の気楽な暮らしを送れた彼女がこの場所にいることの辛さを嵯峨は察していた


「さすがに苦労人はできてらっしゃる。まあ、米帝が最初から裏切ることは想定していなかったと言う醍醐さんの間抜けぶりには呆れましたが。まあ、人を信じている家臣の鏡だと思えば理解できない話でもないことです。それを教えてやらなかった自分の未熟には、唯々恥じ入るばかりで……今後は気をつけるつもりですよ」 


 嵯峨の言葉に醍醐は明らかに白々しい以前の主君に乾いた笑みを送った。下座に並ぶ人影が嵯峨と響子を見比べているのが醍醐にも分かった。嵯峨には『悪内府』の異名を持つほどの切れ者としての実績があった。一方、分家から本家を継いだ上にまだ若い響子には『官派』に属する誰もが頼りなさを感じていた。


 九条家の被官や響子を支えている貴族主義の政治家の姿を見るたびに醍醐は明らかにこの場に自分がいることがふさわしくないとでも言うように、右側に控える西園寺派の政府高官達をに目をやった。


 醍醐には彼等の視線がアメリカの遼州不安定化政策の罠にまんまとはまり込んで事態を悪化させた自分を責めているように感じられた。その責任はすべて自分が負う。醍醐は彼等に向けてそう言ってやりたい衝動に駆られていた。


「では内府殿が直々に今回のバルキスタンでの混乱の収拾を行われると言うことを公言してもよろしいわけですね。司法局実働部隊は『絶対に』失敗をすることが無い部隊だと認識してもよろしいと」 


 念を押すように九条家の被官の一人が口を開いた。そこにはここ甲武にさえ響いてきている『特殊な部隊』の悪評を今回の作戦で固定化することが出来るのではないかと言う皮肉めいた期待がにじみ出ていた。


「だからそう思ってくれてもかまわないって言ったじゃないですか。なんなら血判状でも差し出しましょうか?失敗の暁には俺が腹を切るってことを書いて。今回の私のシナリオは完璧です。一部の隙も無い。これまでで最高の代物です。『近藤事件』の時の比でもない完璧な自信作ですよ」 


 いつものように嵯峨はにやけた顔をさらしている。九条家側の下座の一隅から小声で話し合う言葉が嵯峨にも漏れ聞こえていた。その多くは『官派』に属する貴族達のもので、嵯峨の失敗の際の責任の取らせ方について話し合うものだった。


 一方、嵯峨家と西園寺家の高位の被官達は沈黙を続けていた。嵯峨が提案した司法局実働部隊を投入してバルキスタン反政府勢力を無能力化し政府軍に選挙期間中の停戦を確約させると言う言葉がどれほど無理のあることかは分かっていたからだった。


 だが嵯峨にしろその兄の西園寺義基にしろ人の話をはぐらかすことに関しては天下に聞こえた人物だった。


 失敗自体があり得ないことと言ってのける嵯峨に何を聞いても無駄なことは誰もが理解していた。それだけに今回の出動が失敗に終われば、現内閣の致命傷になりかねないと考え、今後の身の振り方をそれぞれに思いめぐらせていた。



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