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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第二十四章 戦地への出撃の時

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第111話 見切り発車の『新兵器』

「そういうわけだ。命は取らずに意識を奪う兵器。どうせゲリラの機動兵器は対法術装備なんて積んでいない旧型ばかりだ。こんな場面にはうってつけだろ?菰田!電算室を借りるぞ」 


 そう言うとランは誠達の返事も待たずに歩き出す。カウラはその後に続いた。


「ですが、中佐。あの兵器の実用のめどはまだ立っていないように思えるのですが……たった一度の成功で実戦投入なんて無謀すぎます」 


 カウラもたった一度の実験に成功した程度で『新兵器』の実戦投入を行うことに無茶を感じてランに向ってそう言った。


「あれで十分だ。アタシが保障するぜ。出力は上がることはあっても下がらねーはずだからな。神前は『近藤事件』の時だってアタシが跳べと言ったら跳んだし『光の(つるぎ)』を使えと言ったらちゃんと使えた。今回だって同じことだ。実戦は待ってくれねーんだ。悠長なことを言ってる余裕はねー」 


 小さな上司ランが余裕たっぷりの表情で振り返る。


「あんな実験だけでそのままの実力が出せるかどうかなんて。本当にあてになるのか?アレ」 


 そうこぼすかなめをランがいつもの睨んでいるとしか思えない視線で見つめる。かなめは気おされるようにそのまま黙り込んだ。ハンガーの階段を上り、誰もいない管理部と実働部隊の部屋を通り過ぎる。隊長室は留守だった。だが、先ほど見た嵯峨の映像が誠の脳裏に写り、いつもは感じない隊長である嵯峨への控えめな敬意が芽生えていることに気づいた。


「アメリア。ついて来てるか?」 


 その声に誠が振り向くとそこにはアメリアとパーラがいた。


「当たり前じゃないの。それより今回の作戦の成功は……」 


 セキュリティーを解除して振り返るランの視線に迷いは無かった。


「失敗すると分かって動く馬鹿は珍しいんじゃねーの?アタシとしては任務成功の確立は八割は堅てーと思うがね」 


 そう言ってランはコンピュータルームの扉をくぐった。


「おい、ベルガー。ちとそのディスク貸せよ」 


 ランはカウラから手渡されたディスクを起動した端末のスロットに差し込む。明らかに椅子が幼く見える体のランにあっていない様は滑稽に見えた。


「笑うんじゃねーぞ」 


 振り向いたランはかなめを一睨みしてからディスクを端末が読みこんだのを確認した。現れたのは現在のバルキスタンの勢力地図だった。


「現在のバルキスタンは反政府勢力の攻勢で戦線が入り組んで敵味方入り乱れてのとんでもないことになっているわけだ」 


 そう言ってランは中央盆地にカーソルを合わせ拡大する。画面にはその中に一筋のラインと緑の勢力圏を点線で覆う紺色の淡い斜線の引かれた部位が目を引いた。


「今回の作戦はこの主戦場である中央盆地の武装勢力の戦闘継続能力の粉砕が目的だ。この盆地が反政府側の手に堕ちれば政府軍を支援するという名目で米軍が動く可能性がある。実際、同盟機構の一部には出兵に積極的なアメリカ陸軍派遣の要請を検討している勢力もある。それが実現すれば同盟機構の政治的権威はおしまいだ」 


 そう言うとランは再び中央盆地の入り口に当たるカンデラ山脈の北部を拡大する。


「進入ルートはカンデラ山脈を越えてと言うことになるな。それを抜けたらすぐに神前の乙型とベルガーと西園寺は降下、そして12キロ北上して島田が出張してる東和陸軍の特殊部隊の連中と合流する」 


 誠には東和陸軍の特殊部隊まですでに用意していると言うのは初耳だった。島田の出張はただの選挙管理部隊の機動兵器のメンテナンスだとばかり思っていた。


「東和陸軍の特殊部隊ですか……停戦監視任務じゃないと出動許可が出ねえと思うぞ、あそこは。連中の装備は限られてる。戦力になるのかよ」


 かなめはこういった緊急出動には慣れているらしく冷静にそう分析した。


「西園寺。言うだろ?敵をだますにはまず味方からってな。東和陸軍があそこに行ったのは現在神前の制圧兵器の射撃範囲を指定するビーコンを設置する為だ。さっき連絡したがさすがにアタシの出身部隊だ。予定時刻ぴったりで状況は進行している」


 ランはそこまで言うと誠の方を向いた。合流地点と言われたところから広大としか思えない範囲にかけてが赤く染められる。そこでランの教え子の精鋭部隊が任務行動中だったという事実に誠は驚いていた。


「今回は範囲指定ビーコンは部隊が設置済みだ。照準もつける必要はねーんだ。射撃の苦手なお前さんでも簡単だろ?」 


 あっさりとそう言うランに誠は自分の額に光る汗を感じていた。


「確かにこの範囲の敵を駆逐すれば反政府勢力の攻勢は頓挫するのは分かるんだけどな。このあたりには停戦監視や治安維持目的で同盟軍の部隊が展開してるんじゃねえのか?」 


 素朴な疑問をぶつけるかなめにランは狙いすましたような笑顔で答える。


「だから、非殺傷設定のアレの効果が生きるんだ。思念反応型兵器とか意思機能阻害兵器とか呼ばれているわけだが、アレに撃たれると人間なら二日は昏睡状態に陥ると言う効果があるが死にはしねーからな。今回はその特性を生かして戦闘能力を削いでしまおうって作戦なんだ」 


 ランが無い胸を張る。


「そんなにうまく行くんでしょうか?」 


 そう言うカウラにランは立ち上がって背伸びして彼女の肩に手をやった。


「うまく仕切って作戦成功に導くのが……ベルガー、オメーの仕事だ。それとクラウゼ!」 


「は!」 


 切り替えの早いアメリアは真面目モードでランに敬礼する。


「東和宇宙軍が飛行禁止区域を設定しているが、低空で侵入されると結構面倒なことになるからな。特に、07式クラスだと正直、対地攻撃での撃破は難しい。そこを見極めて管制よろしく頼むぞ」 


 遼州の戦場には必ずと言っていいほど東和宇宙軍の部隊が上空で待機していた。彼らは強力な電磁妨害電波発生装置を搭載した機体を常に用意し、『東和共和国』へ火の粉が落ちないように戦場を監視している。そこに第三勢力が出現すればあらゆる勢力が彼等の敵と認識された。


「了解しました!」 


 そんなアメリアの気合の入った声に笑みを浮かべたランはそのままコンピュータルームを出ていった。


「さてと、カウラ。進入ルートの選定は私達に任せて頂戴よ。とりあえず出撃命令が出るまで休んでいていいわよ」 


 アメリアはすぐさま椅子に腰掛けて端末のキーボードを叩き始めた。パーラも隣の席で同じように仕事を始める。


「じゃあ、よろしく頼む」 


 カウラはそう言うとアメリア達に視線を送るかなめと誠を促してコンピュータルームを後にした。


「ちっちゃい姐御にあれほど確信を抱かせるってのはたいした奴だぜオメエは」 


 かなめはそう言うとタバコを取り出して誠の肩を叩く。


「廊下は禁煙だぞ」 


 いつものようにカウラがとがめるが、その表情は誠には相棒を気にするカウラの思いやりが見て取れた。


「わあってんよ!しばらくヤニ吸ってるから何かあったら呼んでくれよ」 


 そう言うとかなめはハンガーへと歩き出す。誠とカウラはそのまま実働部隊の控え室に戻った。


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