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[一]

人は・・・

あっけないものなんだね。。。。。


昨日まで

隣にいた

陸は・・・・・


もう・・・

どこにも

いないんだもの・・・・


なんでもない道

直線の何もない道・・・

バイクでこけて

逝っちゃった。。。。。


なんだか・・・

現実味がない・・・


線香の匂いと

上辺だけの

心に何にも響いてこないお経・・・


喪服の黒い・・


背中

背中

背中・・・・


わたしは




まだ・・・・・




泣けない。。。。。




現実味がない。。。。


初夏の5月にしては今日は妙に暑い。。。

その暑さだけが

私には

リアル・・・・


後は現実味がない。。。。


祭壇も

遺影も・・・


ふいに・・・・


視線を小さな窓に

うつす・・・・


切り取られた空・・・・



現実味のない空・・・・




ここには・・・

陸は・・・

いない





ここには陸は・・・

いない・・・・







・・・・・ここには陸はいない・・・!








『ここには陸がいるはずがない!!!』

心の声が言葉になって

その反動で私は立ち上がる・・・!


『菜生????』

私は振り返らず・・

裸足のまま外に出た・・・・


町の中

喪服のまま

裸足で・・・・・


少しづつ・・・

気持ちが

加速する・・・・・


私が

加速する・・・・・・・・・


走り抜ける・・・・


ひりひりとした

足に伝わる

感触・・・


首から胸元へと

ゆっくりと

つたう・・・・

汗。。。。。


少しずつ

少しずつ・・・・


現実味を帯びてくる・・・



あそこ・・・

あそこに

きっと・・・・・


陸がいる。。。。。。


あの・・・

丘の上の公園の・・・

あの桜の木の下に・・・・・・


ただ広い

グラウンド以外何もない

公園の・・・・・・


隠れ家みたいな丘の上・・・


大きな桜の木がこの町を見守る場所・・・

その場所で

いつもみたいに・・・・


いつもみたいに。。。。。。


その場所に

よく・・・・・


私と陸は二人でいた・・・・・



『私といると、退屈ですかぁ?』

陸はこの場所に来ると

よく

居眠りをしてて・・・・・

『・・ん・・?そんなことはない・・』

必ずこう答えて

すぐまた眠る


あんまりにもよく眠るから・・・

『もう!いい!一人でいつまでも寝てろ!』

そういうと・・・

『・・・ん?・・あぁ・・・』

珍しく目を開けて・・

私に向き直った

小首を傾げると

覗き込むように・・・

『・・・いいか?今から言うこと絶対信じ

るか・・・?』

いつもと態度が違う陸。。。。。

私は頷くと・・・

陸は芝生の上に、

また・・・

仰向けに寝そべる・・・

『ここで。。。こうやって目を静かに閉じ

ると・・・』

陸が静かに目を閉じる。。。

『・・・・見えてくるんだよ・・たくさん

の映像が・・』

陸は目を開けると瞳を輝かせて・・・


『夢が降ってくるんだよ!』


そう言った。。。。


私はあまりのかわいらしさに

思わず

吹き出した

『笑うなよ!本当に見えるんだって!』

けして陸は怒った様子もなく・・・・

『馬鹿にするなら。。わかったよ。。』

やさしく・・・

『いつか菜生にも、必ず見せてやる』

微笑みながら

『どんなにきれいなものを見ていたか、映

画にして見せてやるからな!』

約束したっけ・・・・・


こんな天気のいい日に

陸が・・・・・・


あんな場所にいるわけがない・・・・


陸がいるとしたら

あの丘の上・・・


あと少し

もう少し・・・

この階段

こんなにきつかったっけ???


ふぅ・・・・・・・・


丘の上につくと

大きな

リアルな

空が広がっていて・・・・


そこには・・・・

やっぱり・・・・・

陸はいなくて・・・・・・・


『陸!!!!!どこにいるの!!!!!!!』

思い切り

この町のすべてに届くように

そう叫ぶと・・・・・









やっと・・・・・



涙が・・・



やってきた。。。。











涙が・・・



とまらない。。。。









嘘つき・・・・!

約束したのに!


映画

見せてくれるって言ったじゃない・・!


嘘つき・・・・!

嘘つき・・・

嘘つき・・


・・・・・・・・・


嘘つきでも

いいから

出てきてよ・・・・


ここで

いつまでも

寝てていいから・・・・



あなたの

見てた

映像が・・・・

どんなに

素敵だったか

知らないけれど・・・・


私は

あなたがいる

ここの

景色が・・・・・


あなたと見る

この景色が・・・・!



・・・世界で一番好きだったんだよ・・・・!



退屈なんて

嘘・・・

陸がそばにいれば

それでよかったの・・・・


そばにいるだけでよかったの・・・・






そばにいられるだけで・・・


わたしは


よかったの・・・・・・






ねぇ。。。。


きれいな景色も

素敵な景色も

もうひとつもいらない・・・・・


陸・・・

お願い・・

戻ってきて・・・・


そばにいて・・・


そばに来て。。。。。。。


お願い・・・・・







芝生の上寝転んで・・・・

青すぎる空に

ぼんやりと

目を向ける・・・・







そして・・・










祈るような気持ちで

目を静かに閉じて・・・・・


陸を・・


懸命に・・・・


思い浮かべた・・・・・







陸・・・やっぱり嘘つきだ・・・

なんにも

見えないよ・・・


何にも・・・

いつもの陸さえも

見えないよ・・・・・



涙が・・・

目を閉じても

溢れて・・・

とまらない・・・・




お願い・・・・・!


全部・・・

全部・・・・・・・

夢になって。。。。。。。。



起きたら・・・

いつもの

朝で・・・

何も変わらない・・・

何一つ変わらない・・・・

夢になって・・・・・!


今の

全部

夢になって・・・・


現実なんて・・・・・


思いたくない・・・

思いたくない・・・・・・



思えない。。。。。。。。




お願い。。。。。。。。。



お願い・・・・・・・・・!!!!!











・・・・・・その時・・・・・・・・・・




頬の涙を拭うように

風が吹いた・・・・


『・・・・え・・・・・・?』


目の前には・・・







・・・・黄金色の麦秋が広がっていた・・・・・







『なにこれ・・・・・??』

365度映画のスクリーンになっているような感覚・・

臨場感・・・

というより・・・・

私ここにいる・・・・・???



私など気づかないように・・

若い男女が二人・・・夕暮れの麦秋の中で

抱き合っている・・・




『ねぇ。。。今年も・・こんな風に・・・

麦の穂の海原を・・・あなたと見つめられて

・・・わたしは幸せよ・・・』

『来年も・・・きっと見られるさ・・!』

『そうね・・・』

抱き合っているのではなかった・・・

今にも倒れそうな女を男が支えていた・・・


『どうして・・・泣くの・・・?』

女が男の頬を伝う涙を白い繊細な指で拭い

ながら微笑みかけた

『私は・・ここにいるわ・・・どこにも行ったりしない・・・』

女の息使いだけが

すこしずつ

荒くなる・・・・

『私たちはずっと・・一緒・・私からあなたを消せないように・・・あなたから・・・・私を・・消せはしないわ・・・・』

女の瞳から一筋・・・・涙が伝う・・・

『この麦秋が・・胸に焼き付いてしまったから・・・』

声が少しずつ・・・小さくなる・・・・

『・・・あなたを見失っても・・わたしは・・』

すこしづつ・・・

『・・今日・・胸に・・焼きつけた・・・この同じ焼き跡を目印に・・・』

『あなたを・・探し・・・出して・・見せるわ・・・』

男の涙が女の頬に落ちる・・

『あなたとの・・日々の・・すべてが・・・・・私の・・』

女は・・


ふんわりと・・・


微笑んだ・・・・・・・


        







        『・・・目印だから・・・・』










麦の海原から・・一斉に鳥たちが羽ばたく・・・・

夕暮れの麦の海原の上を・・・・


私は

それに

目を

奪われる・・・・


そして・・その光景を存分に目に焼きつけ・・・

視線を戻すと・・


・・・もう・・・・女は・・・色あせていた・・・・









私は・・・目を静かに開けると・・

夕暮れの丘の上・・

一人・・・

桜の木の枝葉が・・・

やさしくやさしくゆれていた・・・・


『・・・あいつが・・見せてくれたのかな・・』

そんなことを感じると

少しだけ

胸が

熱くなった・・・


なんだか・・・・

あいつが・・・・


陸が・・・・


まだ・・・・

近くにいるような気がして・・・


一人ではないような気がして・・・・


心が

ふんわりと

また・・・・・


温かくなった・・・・・・・



[二]へ続く


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