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63.……気まずいっ!

 



「―――はあ。お連れの方と当館の娼婦で、一緒に複数人で楽しまれたいと?まあ、うちは構いませんが……なかなか良いご趣味をお持ちのようで」

「ああ、部屋は"金鶏の間"で頼みたいんだが、空いているか?」

「き、"金鶏の間"!?え、ええ、もちろん!空いておりますともっ!」

「そりゃあ良かった。早速だが、案内してくれるかい?」



 王都歓楽街のとある娼館にて。

 一組の男女が受付の男に注文を付ける。

 内容については先述の通り、連れ合いと娼館の娼婦を交えて複数人で楽しみたいとのことだった。

 まあ金を払ってくれるのならば、特に断る理由は無い。ましてや男の指定した"金鶏の間"はこの娼館でも最高級の部屋だ。この御仁には、是非とも娼館の売上に協力してもらうとしよう。

 そんな思惑を作り笑いで覆い隠すと、男は目の前の黒髪(・・)の男と金髪の美女を部屋へと案内する。



「畏まりました。ささ、それではこちらへ」

「ああ、それと娼婦は俺達が部屋に入ってから、一時間程度経ってから寄越してくれ。まずはコレと楽しみたいんでな」

「ええ、承知致しました。"金鶏の間"は当館の中でも随一のお部屋ですので、お連れの方もきっとお気に入りになるでしょう」



 男はそう言うと、先程から憮然とした表情で押し黙っている金髪の美女へと視線を向ける。



「………………」

「……あー、すまん。気難しい奴でな。気を悪くしないでくれ」

「いえいえ、滅相もない。それにしても、このような美しい方を連れられている旦那様が、羨ましい限りですなあ」

「……そりゃどーも」



 腰まで届く流れるような美しく光沢のある金髪。


 柔らかさと瑞々しさを感じさせる陶器のように白い肌。


 触れれば壊れてしまいそうな、繊細な芸術品の様に華奢な身体。



 仕事柄、容姿の優れた女など腐るほど見てきた男ではあったが、それでも目の前の女性ほど美しい女は初めて見たと断言出来る。

 これから、この女の身体を好きに出来る黒髪の男に嫉妬すら感じてしまいそうだった。



「こちらが金鶏の間になります。それでは、ごゆっくり……」




 **********




「……で、誰がナニを楽しむって?」

「演技に決まってんだろうが。本当に勘弁してくれよ……」



 部屋の中央に置かれた巨大なベッドに腰掛けると、(リア)は眼の前の黒髪の男―――ジュウロウにジト目を向ける。

 ひとしきり情けない顔を浮かべたジュウロウを見つめた後で、僕は薄い笑みを浮かべて肩を竦める。



「ふふっ、冗談だよ。まあ、隣でプレイボーイみたいな顔してる君に、笑いを堪えるのは大変だったけどね?」

「そーかよ。……ヴィーリル、ガロガロ。こっちは指定の部屋に着いたぞ。外の動きは?」



 ジュウロウは短距離通信用の魔導具(マジックアイテム)を手に取ると、外―――この娼館の周辺で待機しているフェンリルエージェント達の様子を確認する。



『こちらヴィーリル。今のところ娼館周辺に異常は無し。向こうはまだジュウロウ達に気付いてないのかねぇ?』

『こちらガロガロ。娼館側として潜入しているエージェントからも、特に連絡は来ていないわ。このままヴォーデンの動きが無ければ、プラン通りこちらから仕掛けるけど、二人とも油断はしないようにね』

「了解。何もなければ10分後にまた連絡する」



 魔導具(マジックアイテム)からの声にジュウロウはそう応えると、僕に視線を向ける。



「聞こえたか?とりあえず状況に変化無し。まだ俺達に気づいていないのか、誘い込むブラフなのかは分からんがな」

「了解。……このまま交戦にならずに"ヴォーデンの使徒"を捕らえられればいいんだがな」



 ヴォーデンの使徒の一人が潜むこの娼館に潜入するにあたって、僕とジュウロウに与えられた役割は囮と()である。


 フィークズルから情報を抜いたことが発覚していなかったとしても、ここ最近の僕とジュウロウは些か派手に動きすぎた。フェンリルからの裏切り者―――ベイトの一件も有る。少なくとも僕の存在についてはある程度、向こうも把握している筈だ。


 そんな相手が自分の根城にやって来たのだ。

 もしも僕達の存在を察知したならば、逃げるにせよ応戦するにせよ、何かしら行動を起こす筈。それが無ければ向こうはこちらに対して無警戒だという証左にもなる。どちらに転んだとしても、向こうの動きを一手遅らせる事が出来るだろう。



「他所の支部からも腕利きが来てるらしいからな。そいつらに期待するとしようか」

「ああ。何にせよ、しばらくは大人しく待つと―――」




『―――あっ、あぁんっ♡』




「「っ!?」」



 突如、近隣から漏れ聞こえてきた甘ったるい嬌声に、僕とジュウロウの動きが止まる。



「…………そういえば、ここって娼館だったね」

「あー……そんな場所で大人しくしてれば、そりゃこうなるわな」



 ……一度気にしてしまうと、嫌でも耳に入ってきてしまう嬌声が、必要以上に大きく聞こえる気がしてしまう。不思議。



『あぁんっ♡もっとぉ♡』

『ひゃうんっ♡すごいよぉ♡』

『あっ♡あっ♡こわれちゃう~♡』




「「………………」」



 …………気まずいっ!!




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