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90 趣味は占い

90 趣味は占い


「見てみて、テオお兄様! 上手にできたでしょう!」


 キャロルが手作りのオーナメントを見せてくれた。

 木で作られた既製品の六芒星に、ボンドで花やビーズ、スパンコールやリボン、レースをくっつけたものだ。

 キャロルらしく、赤やピンクのバラを中心に華やかに飾ってある。


 昼食を挟んでオーナメント作りに勤しんでいたのだ、みんなのオーナメントはそれぞれ完成度が高かった。


「ほんとだ、上手にできたね」


 対して俺は、バラはあんまり好きじゃないのでレンゲやシロツメグサ、菜の花なんかの小さい花と俺が作ったレースを組み合わせて作ってみた。


「テオお兄様のは可愛らしいですわ」


「俺はこれくらいのが好きなんだ」


 そう言うとキャロルは自分のオーナメントを見て、バラの花を毟ろうとした。

 慌てて止める。


「何やってるんだよ。キャロルが頑張って作ったんだろ。台無しにしちゃダメじゃないか」


「でも、でも、テオお兄様は好きじゃないんでしょう?」


「これはこれで可愛いし、好きだよ。キャロルの好きなように作ったんだもの。キャロルらしさが出ていて、これでいいんだよ。俺と同じにする必要はないんだ」


「そうよ、キャロル。キャロルのオーナメントはとても可愛いわ。壊してしまうなんて可哀想よ」


 ウェンディがキャロルを抱きしめて慰める。


「だって、テオお兄様は……」


「可愛いって、好きだって仰ってくださったでしょう? お兄様と同じにする必要もないって。お揃いにしたいなら、もう一個作らない? 私もお兄様とおんなじオーナメントを作るわ。みんなでお揃いにしましょう?」


「……ええ! そうね、お姉様。お揃いのをもう一個作ってお部屋に飾るわ」


 ウェンディの提案に、泣きそうになっていたキャロルが笑う。

 よかった、機嫌が直ったみたいだ。


 ウェンディが作っていたオーナメントは、白い花々を中心に赤やピンク、黄色の花々がバランスよく飾られ、リボンもレースも花を引き立てるようにさりげなく飾られていた。

 ウェンディらしさが現れていて、これはこれで綺麗で好きだ。


「ほんと、キャロルはお兄様が好きだよね。僕はこれ一個でいいや」


 チェスターが呆れている。

 まぁ、気持ちはわかる。

 女の子の、なんでもお揃いにしたいという気持ちは、よくわからないからな。


「そう言うチェスターは器用だよな。こんな凝ったの作るなんて」


 花をあんまりつけずに、ビーズやリボンで幾何学模様のように編み込んで、六芒星の中に六芒星を作るという、凝ったオーナメントを作っていた。

 ほんと、マジで繊細に作っていてびっくりだ。

 去年はまだそんな凝っていなかったのに。


「兄様のレースの方が凝ってるよ。この前の正装だって襟カーラーや袖に兄様のレースがつけられていたでしょ。いつもより凝ってたよね」


「ちょうど新デザインの本を買ったばっかりだったからな。色々試してみたんだ。ちょっと派手すぎたか?」


「いいよ。なんか女の子達には好評だったし。……でも、姉様が作ったって思われてるんだよね。兄様が作ったって言っても、みんな信じてくれないんだ」


「そりゃそうだろうな。未だにルーク達には白い目で見られているし。ウェンディが作っているって思われた方がいいんじゃないか?」


「よくありません。私はお兄様ほどの腕はありませんのよ。皆様達と編み物をする時なんて、いつも変に期待されてしまって、大変なんです」


 ウェンディが口を挟んできた。


「でも、たいしたものは作ってないぞ? 本に編み方が乗っているのばかりだし。アレンジなんて俺には無理だしな」


「私はお兄様のように、編み目が綺麗に揃っていませんし、複雑な編み方もまだできません。お兄様は簡単に仰るけど、難しいのよ」


 ウェンディが口を尖らせる。

 そうかな? 書いてある通りにすればできるんだけど。

 首を捻っていると、チェスターがウェンディを慰めた。


「姉様。兄様ってばわかってないよ。言うだけ無駄だって」


 そうしてカードを並べて一人で遊び始める。


「そうね。ほんと、どうして凄い事をしているって理解してくれないのか不思議だわ」


 いやいや、俺はフツーだよ? マジで特技ないし。


「ふふっ、テオドールだもの。仕方ないわ」


 母上までそんなことを言う。


「そうよ、テオお兄様はすごいのよ!」


 なぜかキャロルが自信満々に胸を張って言い放った。

 みんなが一斉に吹き出して笑いが止まらなかった。

 なんか、納得いかない。




 しばらくしたら、キャロルが船を漕ぎだしたので、母上とウェンディがキャロルをお昼寝に連れて行った。

 俺もそろそろケヴィン達と稽古でもするかと立ち上がった時、チェスターに呼び止められた。


「兄様。兄様って、ミュリエル義姉様と喧嘩でもした?」


「いいや、してないぞ。仲が良すぎて、みんなからウザがられてる」


 チェスターを見ると、机の上に並べたカードを真剣に見つめている。

 チェスターの広げているカードはトランプより少し縦長のカードだ。トランプのように数字だけじゃなく、絵が描かれていた。

 チェスターの手には塔と雷が描かれたカードがある。


「仲が良いならいいんだ。ちょっと、嫌なカードが出たから」


「占いか? 父上も母上も嫌いだから、あんまり見ているところでするなよ」


 チェスターは占いが好きなようで、カードをよくいじっている。

 けれど、父上や母上が嫌いだと知ると、あんまり二人の前ではしなくなった。

 代わりに俺の側でするようになったけれど。


 最初はあんまり当たる事はなかったのだが、最近は当たるようになってきていた。


「うん、わかってる。でも、なんだかしなきゃいけない気分だったんだ。ねぇ、兄様。本祭は気をつけてね。良くない事が起こりそうな気がする」


 チェスターが真剣に俺を見つめる。

 瞳の奥に吸い込まれそうな、そんな目だった。

 こういう時の占いは、確実に当たる。


「わかった。気をつけるよ。――俺とミュリエルが喧嘩するのか?」


「わからない。けど、突然の別れがくるか……も。痛いよ、兄様」


 思わずチェスターの腕を掴んでいた。慌てて離す。


「悪い。でも、冗談でも言わないでほしい」


「冗談じゃないよ。だから言ってる。他にも『月』が出ているから、隠れた敵がいるかもしれない」


 チェスターの目は真剣だ。

 真剣に俺の身を案じてくれている。


「わかった。本当に気をつける。悪かったな、腕は大丈夫か?」


「うん、平気。ごめんね、兄様。なんか、言わなきゃいけないとって思ったんだ」


 バツが悪そうに俯くチェスターを抱きしめて、頭を撫でた。

 こんなにも心配してくれているのに、怒って悪かった。


「ありがとな。言ってくれて。ちゃんと気をつけるから。だから心配しなくていいぞ」


「うん」


「じゃあ、さっき稽古したばかりだけど、俺ともう一度、一緒に稽古でもするか?」


「する! 兄様、僕ね、ちゃんと型ができるようになったんだよ。上手だってケヴィンが褒めてくれた」


「そりゃすごい。だったら、ぜひ見せてもらわないとな」


 嬉しそうに準備するチェスターと一緒に、練兵場へと向かった。


 ……別れと、敵かぁ……。

 ダメだ、心当たりがまるでない。

 できればチェスターの占いが外れてくれると嬉しいんだが。




 ひとしきり稽古をした後、チェスターとシャワーを浴びて汗を流した。

 夕食には父上も帰ってきていて、久しぶりにみんなでご飯を食べる事ができた。

 やっぱりみんなで食べるのは楽しくて好きだ。


 夕食後に、父上の執務室で色々報告した。

 以前、手紙に書いたように、ピンクの事が中心になる。

 父上も、たとえピンクが本当にあの時のガキだったとしても、追求は難しいだろうと言っていた。

 それよりも、初等部中等部の報告と、現在の様子が全く違う事を気にしていた。


「初等部中等部では品行方正で通っていたらしいからね。君から聞いた話からは想像もできないよ。どちらかと言うと、神殿からの報告の方が君の意見に近いね。――どうも腑に落ちないな」


「男爵領の学園ですから、男爵令嬢に配慮したんじゃないですか?」


 ありえない話じゃない。

 そう思って父上に尋ねると、父上もその可能性はあると言ってくれた。


「だけど、それだけじゃあ説明できないこともあるんだ。男爵領からの報告では神殿の報告だけが違う意見なんだ。どれも同じような評価だから、神殿が唯一間違っているように見えるから不思議だよね」


「……何か、理由があるのでしょうか?」


「あるかもしれないし、ないかもしれない。調べようにも、まだ調査員を派遣したばかりだからね。なんとも言えないよ」


 父上は俺を見据えて、言った。


「――ともかく、君の方でも気をつけてくれるかな? あまりに馬鹿な事をしすぎて、周囲から危害を加えられるかもしれないしね」


「アレを守れって事ですか?」


 冗談じゃない。


「そう嫌がらないで。まだ何かをしたわけじゃない。ただ、高貴な方々に対する礼儀がなっていないだけだ。大きな子供だと思って扱うしかないよ。……プラム男爵夫妻は本当にどうしたんだろう。このような失態を許す方々ではなかったはずなのに」


 父上と考え込んでも、答えは出ない。


「わかりました。気をつけて見ておきます。ただ、アレが周囲に危害を加えようとするなら、止めます」


「それでいいと思うよ。悪いね。プラム男爵を差し置いて、こちらで何か対処はできないんだ。何かしら学校に損害を与えたり、生徒に危害を加えない限りはね。それ以外は男爵に躾けて貰うほかないから」


「そっかぁ……。わかりました」


 やっぱり、ただ常識がないだけでは退学処分は難しいようだ。

 しばらく今度の聖女祭の話などをして、父上の執務室を後にした。


遅くなってすみません。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


モーニングスター大賞、受賞作に入賞しました。

書籍化決定しました。

ひとえに皆様が応援してくださったおかげです。

ありがとうございます。

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