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74 猫は重い

74 猫は重い


 あれから一ヶ月。

 いよいよ待ちに待った婚約式が行われる。


 魔術開放式の一週間後に行う予定だったのが、遅れに遅れて、一ヶ月も経ってしまった。

 でも、ミュリエルが元気になるためなんだから必要な事だもんな。

 それに、事件の後処理も忙しかったようで、父上は毎日のように遅くまで仕事していたようだった。


 ミュリエルと他の令嬢達は、カトリーナのお屋敷に二週間ほど滞在してから医者の許可を得て、それぞれ家に帰っていった。

 でもミュリエルだけは命の危険があったせいか、家に帰ってもしばらく医者の往診を受けていたし、ベイツの問診もあったらしい。


 なんでも、俺があげたブレスレットの効果を解析したいんだそうだ。


 別に、至ってフツーのブレスレットなんだけどな。

 ちょっと違うと言えば、魔力開放式の鑑定で生み出した水晶を使ってるって事くらいか。

 そこに、白のヤツが住み込みでミュリエルを癒してたみたいだけど。


 うん、白には感謝しかねえ。

 ありがとう、頑張ったな。えらいえらい。



 ――わーい、えらいー。あのね、あのね。みんなも頑張ったんだよ。まわりからいっぱい魔力を集めてくれたのー。



 そうか。みんなもありがとうな。



 ――偉いぜ偉いぜ。

 ――えらいー。

 ――いー。

 ――♪



 そういや、黄色は?

 さっきから話に参加してないみたいだけど。


 黄色のヤツには、ミュリエルのヒヨコに金を埋め込めって、夜中に頭をつつかれたから、俺用のペンダントから少し削ってつけてやったのに。

 首のあたりに蝶ネクタイのように小さなリボン型を埋め込んでみたのだ。

 そしたら、思いの外喜んでくれた。なのに、一体どうしたんだろう?



 ――きいちゃん、お腹痛いんだって。だからお休み中なの。


 ――腹痛(はらいた)腹痛(はらいた)

 ――はらいたー。

 ――たー。

 ――#


 ――うるせぇ! 黙れ!



 今になって、お腹壊すとか、潜伏期間長すぎだろ。

 大丈夫なのか?

 薬とかいるか? ……魔力に薬って効くの?



 ――心配はいらん。それより魔力(エサ)をくれ。思った以上に厄介な魔力が混じっていたから、消化に時間がかかる。



 厄介って……本当に大丈夫か?

 俺のならいくらでも食べていいけど、ちゃんと寝て休んでおけよ?

 了承の意思が伝わってくると、魔力達は大人しくなった。

 寝たのかもしれない。


 魔力でも腹痛って起こるんだなぁ。

 もう、こいつらなら何でもアリな気がしてきた。

 やっぱりこれって、普通じゃないんだろうな。

 父上に相談してみようかな。

 なんか、頭抱える姿しか想像できないんだけど。


「テオドール様、どうされました?」


 向かい側に座っているミュリエルが、机の上で寝そべっている仔猫を撫でながら尋ねた。

 うん、ごめん。

 デートしている時に、魔力達の事を考えているのは失礼だったな。

 久々に会ったから、魔力達も喜んで話ししてくれたので無視できなかったんだ、ごめんよ。

 せっかくの猫カフェだ。堪能しないと。


 俺達は婚約式前に、前から約束していた猫カフェに来ていた。

 王都の中心部から少し離れたところだけど、古い街並みが残る雰囲気の良い場所で、貴族も庶民も気軽に来れる地区だ。


 カフェだったそこは、店主が猫好きで、野良猫にエサをやるもんだから、たくさん集まっていて、ご近所から苦情がちらほら出ていた。

 なので、猫カフェにしてみないかと、店主に相談したところ、ノリノリで了承してくれた。

 猫好きなウエイトレスさんをご近所から雇って、店舗の一部を猫用の風呂に改装し、店の猫には緑髮(ルーク)と共同開発した蚤よけの首輪をつけさせた。


 頑張って、父上に企画をプレゼンして、出資してもらって、古い街並みに合うカフェの外観も内装もそのままにして、建物自体は補強などのリフォームをした。その際、風呂はもちろん、キャットウォークや猫扉もつけて貰った。

 せっかくだから、経営してみなさいとも言われて、今は一応、オーナーをしている。

 経理って難しいぜ、ちくしょう。

 でも、ミュリエルの笑顔のためなら頑張るしかない。


 それで元気になったミュリエルを連れて来た。

 喜んでいるみたいで良かった。


「大丈夫。ブレスレットに不具合がないか、見ていたんだ」


「そうですか。ベイツ様が魔導具かもしれないと仰っていたんですけど、このブレスレットって魔導具なのですか?」


 だから不具合がないか見たのかと言われてしまった。


「違うよ。俺に魔導具を作る技術はないよ。ルークもこんな魔導具は見た事ないって言ってただろ。ベイツはアレだ。変な人だから興味持ってるだけだ」


「まぁ。でもそんな事言ってはダメですよ。ベイツ様は私達の先生ですもの」


 そう言ってクスクス笑う。


「それに、このブレスレットが奇跡を起こしたのは確かですわ。救ってくださって本当にありがとうございます」


「俺のおかげじゃないよ。ミュリエルもみんなも頑張ったからだよ。それに――」


 魔力達も。きっとこいつら、神様の一部だったりするかもな。


「精霊の――聖女と六騎神の加護があったからだよ。祈りが通じたんだ」


「はい。テオドール様の祈りが通じたのですね。ありがとうございます」


 改めて言われると、照れるな。


「このブレスレットは一生、大事に致します。私の大切な、大切な宝物です」


 にっこり微笑むミュリエルは、世界で一番綺麗だった。

 うん、超絶可愛い。


「俺もヒヨコを大事にするよ。こいつも奇跡を起こしたんだ。俺の宝物だよ」


 ポケットにいたヒヨコを取り出す。


「まあ、リボンがついてますね。つけられたんですか」


「うん。可愛いかと思って。あと――これ、俺が鑑定で生み出した金なんだ。ミュリエルを救ってくれた感謝の印のつもり」


 後半は声をひそめて耳打ちする。

 ミュリエルは驚いたみたいだけど、良かったね、と、ヒヨコに話しかけていた。


「じゃあ、私もプレゼントです。救ってくれてありがとう」


 ちょん、と、ミュリエルがリボンの中央に触れた。

 そうしてヒヨコを返してくれる。


 リボンの中央には小さな黒い石があった。


「オニキスです。魔除けの石ですわ。邪を祓ってくれたこの子に似合うかと思って。内緒にしてくださいね」


 そっと耳を打つミュリエルの声は、柔らかくて心地いい。


「いいの?」


「もちろんです。テオドール様も、でしょう?」


 ブレスレットを見せながら、ミュリエルがナイショだと、自分の唇の前に人差し指を立てている。

 花の中央に水晶があるのに気付いていたようだ。


 ほんと、可愛いな。

 店中の猫達も、ミュリエルの女神っぷりに感化されたのか、すり寄ってくる。

 猫まみれになったミュリエルも眩しすぎた。


 ――つか、お前らミュリエルに寄りすぎだ。

 俺のミュリエルはお前らには絶対にやらんからな。

 何、喉をゴロゴロさせてんだ。

 俺にはちっとも寄ってこないくせに。

 撫でようとしたら、唸って威嚇するなんて、いい度胸じゃねえか。

 お前らを雇ってるのは、俺だぞ。

 オーナー様に歯向かったら、エサ抜きになるんだぞ、それでもいいんだな。


「ぶにゃぁ」


 俺の不穏な空気を感じたのか、一匹のブタ猫がヨタヨタ寄ってきた。

 ふてぶてしい表情で、俺をジッと見つめると、椅子に飛び乗って膝の上で丸くなる。

 ちょ、めっちゃ重いんだけど!

 大きくなったら大丈夫かもしれないけど、十歳にはめっちゃ重すぎるから!


「ぶにぃ」


 これで満足だろ、と、言われた気がした。


「満足できるわけねーだろ、このブタ猫! 降りろよ、重いから!」


 黙れというように、尻尾で膝をペシペシ叩いて、ブタ猫は寝てしまった。

 ちょ、寝たらますます重くなってしまうだろ!

 膝を揺らしても、腹にちょっかいかけても、ブタ猫は動かない。

 結局、小一時間くらい、寝てやがった。



 ◇



「ごめんな、ミュリエル。せっかくのデートなのに、何処にも行けなくて」


 店先で、プルプル震えてる足を叱咤しながら、ミュリエルに謝った。

 くそっ、絶対、鍛えてやる。

 あのブタ猫が何時間寝ても痺れないくらい、鍛えてやるからな!


「いいえ。テオドール様とたくさんお話しできて、楽しかったです。猫達も可愛かったですわ」


 それに、とミュリエルが続ける。


「あの大きな猫さんを、邪険にしないで、起きるまでずっと寝かせてあげたのは、すごいと思いました。私じゃ、すぐに起こして降りてもらっています。気の済むまで猫さんのやりたいようにやらせてあげるなんて、テオドール様はやっぱりお優しいんだなって思いました」


「ミュリエル……ありがとう。俺は大丈夫だから。こう見えても鍛えてるからね」


 背後にいるケヴィン達が苦笑している気がするが、気のせいだ。


「はい。頼もしいです。さすがテオドール様ですね」


 にっこにこで、言ってくれるミュリエル。

 ごめんな、次は絶対、鍛えておくから。

 本当になんてことないって、言えるようにするから。


 そうして今回のデートは終わった。

 何度も何度も馬車の窓から手を振るミュリエルに、俺も何度も何度も手を振った。


「訓練、増やしますか?」


「もちろんだ!」


 ミュリエルの馬車が見えなくなってから尋ねてきたケヴィンに、即答した。


「……でも、明日からにしてくれ。今日はもう無理」


 足がもう、限界なんだよ。

 その後、パッタリ倒れてしまった俺は、ケヴィンに抱えられて家に帰った。


 くそう。

 今度はあのブタ猫に勝ってやる!

遅くなってすみません。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

レビューありがとうございます。

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