表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/147

71 とある公爵令嬢の呟き その10

71 とある公爵令嬢の呟き その10


 そろそろお茶会をお開きにしようかとしたとき、エリオット殿下の訪問が告げられた。

 なんでも、わたしと二人きりで話がしたいそうだ。


 何だろう?

 みんなが言っていたような、変な事を言い出すのかな?


 先に退出してしまう事を、令嬢達に詫びて、私はエリオットが待つ応接室へと向かった。


 部屋で待っていたエリオットの顔は陰鬱なものだった。

 思わず扉を閉めて帰りたくなるくらい、酷かった。


 ちょっと、一体どうしたの。


「お待たせ致しました、エリオット殿下。ご機嫌は――お悪いようですが、いかがなされましたか?」


「――人払いを」


 不機嫌を隠そうともせず、用件だけ言うのは相当だ。取り繕う事も忘れてる。

 侍女のメリエルに合図してお茶を用意してもらってから、エリオットの侍従とともに出て行ってもらった。


「お茶をどうぞ。最近は私も上手に入れられるようになりましたのよ」


 はっきり言って、カップに注いだだけだけれども。

 ソーサーを両手で持って、エリオットの前まで運んであげた。

 でも、無反応だ。

 本当にどうしたんだろう。

 少しも反応しないのは変だ。最近は少しは会話できていたのに。


「あの……」


「――陛下から、君をきちんと愛するようにと、言われた」


 唐突に話し出した。


「なので、君も僕を愛してほしい。フレドリック(あにうえ)ではなく」


「な……なにを、仰るんですか……?」


 手を掴まれた。目もギラギラしていて、なんか、怖いんだけど、どうしたの。


「シミオンが言っていただろう。婚約者を愛する努力をすべきだと。君は僕の婚約者だ。ならば、愛し合うべきだ。僕も愛する努力をする。だから、君も愛を返してほしい」


「それは――」


 その通りなんだろう。普通なら。

 でも、婚約破棄されるのがわかっていて、嫌われるのがわかっているのに、好きになんてなれないよ。

 だったら距離を置いて付き合っている方が、ダメージが少なくていいよね。

 嫁なんて、二次元で充分なんだから。


「嫌か? 嫌なのか? 僕は異母兄(あにうえ)じゃないから、愛せないのか!?」


「そんな事は思っておりません! 第一、私がフレドリック様を好きなどと、ありえない事です」


 激昂しかけたエリオットを押し留めて、反論した。

 フレドリックは好きだけど、二次元だけだ。どの道、結ばれないんだから期待したって無駄だもの。

 わたしが誰かを好きになるとしたら、生き延びられた事を実感できた時だろう。


「何故、そんな事を仰るのかわかりませんが、私はエリオット殿下の婚約者です。不義を働く気など毛頭ありません」


「なら、僕を愛してくれ。異母兄(あにうえ)じゃなく、僕に『真実の愛』を与えてくれ。君は聖女なのだから。六騎神の末裔である僕に奇跡を起こさせてほしい」


 真剣な表情で頼まれてしまったけれど、それは最短で六年後だ。

 セレンディア学園高等部に入学した後の話だ。

 今すぐは難しい。

 そして、与える役目を持つのはヒロインちゃんだ。望み薄だけど。


 あれ、ひょっとして、他の男の子達も、その為に婚約者である令嬢達に色々していたの?

 的外れな事をしていたみたいだけど。


 テオドールは例外中の例外だろうと思う。

 奇跡を起こしたのだって、きっと、相方のミュリエルが倒れてしまったから、修正力が働いたんじゃないかと思っている。

 ゲーム開始時にキャラ全員を揃えておくために。


 だけど、エリオットにはそんな事はわからない。


 それにもし本当に修正力が働いているんだとしたら、私はやっぱり死ぬ運命にあるのかもしれない。

 嫌だけど。


「それは――」


「は……、僕にくれる愛情なんてないか。そうだよな、君は異母兄(あにうえ)が好きなんだから。僕は聖女に見放された。王太子である資格も失った。聖女の愛を受けるのは、異母兄(あにうえ)か」


 ちょっと待って、エリオットが異常だ。

 自棄になっているような感じだ。

 いつからやさぐれているんだ、君は。


「仰っている意味がわかりません。私はフレドリック様をお慕い申し上げておりませんし、エリオット殿下を見放してもいません。ましてや、王太子はエリオット殿下以外にあり得ません」


 なのに、エリオットは胡乱げな目でわたしを見ている。


「だったら僕を愛して奇跡の力を与えてくれ。君なら出来るだろう、聖女なのだから!」


「私は聖女ではありません!」


 まじまじと見つめられた。

 変な生き物でも見るかのように。


「何を言っているんだ。予知の力で数々の危機を防いできたそうじゃないか。今回の事だって、陛下や公爵達は君を狙ったものだろうと予測したのに、君はあっさり、魔王復活のために生命力を集めていて、今回の事は魔族から見たら本意ではなかったと、看破しただろう。予言の書だって書いたと聞いている。それだけの力を持ちながら、聖女ではないなどと、よくそんな冗談を言えたものだな」


 両腕を掴まれ、ソファに押し付けられる。

 痛い。

 でも、それ以上にエリオットが怖い。


「冗談ではなく、本当の事です。私は聖女ではありません」


「僕を馬鹿にするのも、いい加減にしろ! 六属性の魔力を持ち、予知の力を持ち、古代語の予言書を書き、それらを持って、救われた命がある。これだけの事をしておきながら、聖女ではないと? 君が聖女でなければ何なんだ! いいか、君は聖女だ。これは揺るぎない事実だ。だからこそ、僕らは婚約したんだろう! そうでなければ、君が婚約者だなんて……」


 エリオットは急に口を噤んだ。

 言ってはいけない言葉だと、自覚しているみたいだ。


「とにかく、婚約者である以上、僕を愛してほしい。そして六騎神の末裔としての力を与えてほしい」


 頭を下げて頼まれた。


 そんなに思い詰めていたなんて、知らなかった。

 だけど、無理なんだよ。

 わたしじゃ与えられないんだ。

 わたしは聖女じゃないんだから。


 それに、君が好きなのはフレドリックでしょう。

 家族の、兄弟としての愛情をくれた、フレドリックだよね。


 そして、わたしの事は好きじゃないでしょう。

 それなのに、一方的に愛してほしいって言われて、できるわけないじゃない。

 わたしだって、同じだけの愛情を返してくれる人でないと、嫌だよ。


「――では、私がエリオット殿下を愛したら、エリオット殿下も私を愛してくださいますか?」


「もちろん」


「フレドリック様より、私を愛してくださいますか」


「……な……んで、異母兄(あにうえ)が出てくる」


「フレドリック様を愛していらっしゃるのは、私ではなく、エリオット殿下でしょう? だからこそ、ご兄弟お二人が仲良く過ごされるよう、取り持っていたのですが。違いましたか?」


 エリオットが目をそらす。

 指摘されるとは思ってなかったみたいだ。


「……君が、異母兄(あにうえ)を好きなんだと思ってた」


「エリオット殿下が、フレドリック様をお好きなのでしょう?」


 エリオットが驚いた様子でわたしを見つめた後、ゆっくりと腕を離してくれた。

 そうして、隣に座る。


「……小さい頃、頑張っている事を褒めてくださった。みんな……陛下も母上も、教師も侍従達も頑張って当然だと、王になるのだから努力しろと言われるのが嫌で、逃げた。そこで、異母兄(あにうえ)が褒めてくれた。嬉しかった。だから、また褒めてほしかったから頑張った。異母兄(あにうえ)だけいればいいと思ってた」


「フレドリック様に、その事をお話になればよろしいと思いますわ」


「嫌われないだろうか」


「大丈夫ですわよ。フレドリック様はエリオット殿下の努力をご存知ですし、私も存じてます」


 そう言うと、エリオットは嬉しそうに笑った。


 ようやく、機嫌が直ったか。


「――正直、私は愛とかそういうのは、わかりません。テオドール様とミュリエル様のような愛情表現は、私には難しいと思います。恥ずかしいですし。でも、私の両親のように、仲の良い愛情ならわかります。私が示せる、理解できる愛情は両親のようなものになりますが、それでもよろしいでしょうか」


 家族愛になるかもしれないけれど。

 でも、放っておけないと思ってしまったんだ。


 抑えてた感情が爆発すると、こんなにも怖くなるなんて知らなかった。

 だから、エリオットに本当に好きな人ができるまで、頑張ってみようと思う。


 愛情に飢えているエリオットに、これ以上、闇が広がらないように。


「それで構わない。僕も――愛情というのはわからない。それでも君を愛せるよう、努力しようと思う」


 やっぱり、お互い様だね。

 でも、これしかできないのもわかってる。

 頑張って愛情を示す努力をしよう。


 君に本当に好きな人ができるまで。


 ……仕方ないかなぁ。

 放っておくのは可哀想だもの。

 わたし、死にたくなかったんだけどな。


 シナリオ強制力って抗えないんだね。


遅くなってすみません。

やっぱり厄介だった。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【イケメンに転生したけど、チートはできませんでした。】
第1巻2018/12/17発売
第2巻2019/08/31発売
第3巻2020/06/18発売
コミカライズ【WEBコミックガンマぷらす】
1巻2021/04/30発売
2巻2021/07/26発売
3巻2021/12/23発売
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ