52 二つ名は黒歴史?
52 二つ名は黒歴史?
個別で属性鑑定が行われた。
まず最初は、やはり王太子であるエリオットからだ。
聖女と六騎神の神像を祀る台座にそれぞれ七つの扉があり、そこの聖女像の真下の扉へと案内されていた。
しばらくすると、エリオットはニコニコ顔で出て来た。
よっぽど良い結果だったようだ。
俺を一瞥すると、勝ち誇った表情を見せて席に戻った。
次に聖女像の扉に入って行ったのは、カトリーナだ。
そして出て来たカトリーナの顔色はあからさまに青ざめていた。
一体どうしたんだ?
「どうしたカトリーナ。悪い事でも言われたのか?」
普段、カトリーナにあんまり関心を見せないエリオットも、思わず訊ねるくらいだった。
「いいえ、大丈夫ですわ。殿下にはご心配頂きましてありがとうございます。少し魔力が身体に馴染んでいないせいかもしれませんわね。ですが、大した事はございませんので、お気になさらないでくださいませ」
「ならば早々に休むといい。神官を呼んでくれ」
「はい、殿下」
黒髪が応え、青髪が素早く神官を呼びつけた。二人がカトリーナを看るよう、告げる。
カトリーナの顔色は悪いままだ。
「本当に大丈夫なのか?」
俺も心配になって、声を掛けた。
「ええ、本当に大丈夫ですのよ。皆様、お騒がせしまして申し訳ありませんわ」
ミュリエルをはじめとする美少女戦士達も寄って来て、心配そうに声を掛けている。
カトリーナの侍女も石舞台に来て、神官と共にカトリーナを連れていく。
観客席で心配そうに見ていたライラック公爵夫妻と連れ立って、会場を出て行った。
大丈夫なんだろうか。
そんなトラブルがあったものの、個別属性鑑定は順調に行われた。
エリオットとカトリーナの鑑定が終わってからは、七人呼ばれるようになり、神像の台座にそれぞれついている扉へと入って行く。
俺はレックスの次に呼ばれた。
◇
中へ入ると、待っていたのは、コバルト司教と二人の神官だった。
そして父上と母上が揃って待っていた。
「父上に母上……?」
「ご両親は知っておくべき事ですからね」
答えたのはコバルト司教だ。
どうやら観客席からそれぞれの鑑定部屋へ案内されて来たらしい。
そうだよな。親なら子供の能力を知っておくべきだろう。
三者面談のように、机を挟んでコバルト司教の対面に、俺を間にして父上と母上が座席についた。
うう、ドキドキする。
「では、この盤面の上に両手を載せてください」
言われた通り、黒光りする円盤の上に手を載せる。
すると、円盤の中央に小さな光が灯った。
「そのまま目を瞑って、魔力の流れを感じてください。そうしてその魔力を指先に集めましょう」
魔力の流れを感じるって、どうすればいいんだろう。
目を瞑って、定番の血液の循環を思ってみる。
血の流れに沿って、何かが動いているのが感じられた。
これが魔力なんだろうか。
それを指先に流れていくよう、思い描く。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。
なんか黄色のオーラみたいなイメージだ。
これが俺の魔力なのかな。
他に、赤と青、緑のオーラも感じる。白もあるけどなんかちっこい。
黄色のオーラが指先に集まり、形を成そうとしている。
ついでに赤と青と緑も集めてみた。ちっこい白はあんまり動けないみたいなので、そのままそこにいるよう言い聞かせた。
なんだか不満そうだったけど、動けないんだから仕方ない。
動けるようになったら、出てくればいいさと宥めてみる。納得したようだ。
大量に出て来ようとする黄色を少しだけ抑えて、他の三色も出て来られるよう道を作ってみた。
同じ太さの道にしたつもりだけど、赤が多くて、次に青、そして緑は赤の半分くらいだった。
でもみんな喜んで出てくるので、嬉しくなる。
黄色はちょっと不満げだ。
なので、赤の倍は出てもいいよと許可した。もうちょっと出たいようだったけど、我慢しような。緑が出れなくなっちゃうから。
そうして指先から魔力が出たと感じた頃、
「よろしいですよ。目を開けてください」
コバルト司教から声が掛かった。
目を開けたら、円盤の上に、金とルビーとサファイア、エメラルドの石がころんと置いてあった。
金がビー玉くらいの大きさで、ルビーがその半分くらい。サファイアがルビーより一回り小さくて、エメラルドはルビーの半分、金の四分の一だった。爪の先くらいかな。
これは一体どういう事なんだろうと、解説を求めてコバルト司教を見る。
「まさか、四属性とは……」
驚きのような、残念なような様子でコバルト司教が呟いた。どちらかというと、残念なように聞こえたのは気のせいだろうか。
「テオドール、体調は大丈夫なの?」
「はい。なんともありません。大丈夫です」
母上が心配そうに聞くけど、全然、なんともない。
「そう、良かったわ。鑑定直後は体調が悪くなる人が多いから。でも、四属性なんてすごいわ!」
心配がなくなった母上は大喜びだ。父上は……なんか顔が怖い……?
「コバルト司教。失礼を承知でお尋ねします。王太子殿下は……」
「お教えできません……と、言いたいところですが、複数属性ともなるとお教えしない訳にはいきません。後々、問題が起こりますからね。ですが、属性はお教え出来ませんのでご了承ください」
「それはもちろん」
父上が頷くと、ひとつため息をついてコバルト司教が話す。
「殿下とブラックカラント公爵子息は五属性です。ライラック公爵令嬢に至っては六属性です。そして貴方のご子息は四属性。ですから御懸念には及びません」
「ありがとうございます」
ほっとした様子で、父上が胸を撫で下ろしていた。
……うん、王太子より能力が高いと睨まれるもんな。父上の心配はわかるよ。
エリオットが勝ち誇った様子だったのもわかる。
なるべく睨まれないようにしないとな。
気をつけよう。
でも、カトリーナは大丈夫だろうか。
ひょっとしたら、六属性なんて、エリオットよりもすごい属性持ちになった事で、気分が悪くなったのかもしれない。
ミュリエルと見舞いに行こうかな。前にお見舞いに来てもらった事だし。
「いやはや、これはおめでたい事ですね。ここまで複数属性を持った者達が四人も現れるとは思っておりませんでした。素晴らしい事です。これでこの国の未来は安泰ですね」
「ええ、頼もしいです」
父上とコバルト司教が笑い合う。
なんか白々しい感じがするけれど、喜ばしい事に変わりはない。……と思う。
ともかく、終わりそうな雰囲気だったので、慌ててコバルト司教に聞いた。
「すみません、コバルト司教様。四属性と仰いますが、この宝石? が、属性を表しているのでしょうか? そして、私の属性は一体何になるんでしょう?」
父上達はわかっているのかも知れないけれど、俺にはわかんないんだよ。
せめて、俺がどんな属性を持っているのかだけは教えてくれ。
「これは失礼しました。説明がまだでしたね。複数属性に驚いて、忘れていました。申し訳ありません。では、説明をさせて頂きます」
そもそも魔術には属性が存在する。
【火】、【水】、【風】、【土】の四属性に、【光】、【闇】の二属性を合わせて、六属性が魔術の基本属性になる。
コバルト司教の説明によると、俺の魔力で生み出された宝石――つまり鉱石で出てきたという事は、主属性が【土】であるという事。
そして、色が示すのは副属性にあたり、赤が【火】青が【水】そして緑が【風】を司る。
大きさはそれぞれの属性との相性を示しているらしい。
つまりは、主属性である土属性の次に火属性との相性が良く、次に水属性、風属性とは相性が悪いという事になるらしい。
なるほど。
なんか、ゲームみたいだ。
わかりやすくていいけど。
「ゴルドバーグ家は土属性の方が多いですからね。血筋というのもあるのでしょう。オーウェンも昔は『鋼鉄の微笑』と称えられたものです」
「モーリスも水属性の熟練者として『氷の貴公子』と呼ばれていましたよね」
二人ともにっこりと笑う。
守秘義務と情報漏洩云々はどうした。
血筋って事は、ある程度、家の系統で発現する魔術の属性も決まってくるのか?
ともかく、何故か周囲の温度が下がっていっている気がするんですが。
厨二病的な二つ名が嫌なんだろうか。
……嫌なんだろうな。
二人ともマジで怖いもん。
補佐している神官達が怯えているよ?
「ふふっ、オーウェンとモーリス様、それはもう格好良かったのよ。学園時代なんて『炎の魔剣士』と呼ばれたデクスター様……クリムゾン伯爵と三人揃って女生徒の憧れの的だったの」
昔を思い出しながらだろう、母上が無邪気に燃料をブッ込んだ。
ちょ、母上。二人の顔が歪んでいるんですが。
昔、何があったんだろう。聞いちゃいけない類の話だろうという事だけは予想できる。
「セリーナ、子供の前で昔話はやめよう」
「あらごめんなさい。懐かしくなって、つい。申し訳ありませんでしたわ、モーリス様」
父上が疲れたように、母上を止めた。
母上は悪戯っぽく笑って謝った。あれ? わかってて言ったのかな。
「いえ、こちらこそ。テオドール殿の魔術四属性の発現をお祝い申し上げます」
「ありがとうございます」
お祝いの言葉を口にしたコバルト司教にお礼を言って、部屋を出る。
俺は石舞台へ。父上達は観客席へと。
俺が生み出した宝石は持って帰っていいという事だったので、持って帰った。
◇
そうして儀式は順次滞りなく終了した。
ちなみに、後で聞いた話だと、複数属性持ち主は俺で終わる事なく、次々と現れ、合計十二人になった。
つまりは戦隊モノ達と美少女戦士モノ達全員である。
後日、複数属性者全員に、それぞれの属性数だけは知らされたようだった。属性そのものは伝えられなかったけれど。
うん、トラブルはみんな避けたいもんな。
神殿は騒然としていたらしい。
なにせ、属性は一人ひとつが当然で、複数属性者は滅多にいないのだそうだ。
さらには総じて魔力量が多い上に、複数属性者の中で不調を訴えたのがカトリーナだけというのも珍しかったらしい。
何故なら、俺達以外の連中は不調を訴える者ばかりだったからだ。
魔力の放出量の調整が効かず、大抵、鑑定に全魔力を注いでしまうのが原因らしい。
コバルト司教が言っていた『盛況』とはこの事を言っていたようだった。
ぽつりと、「こんなにも不調者がいないのは、つまらないですね」と呟いたのが聞こえたのは幻聴じゃなかったんだ。
だからこそあれだけ脅したのだろう。
この人、マジで黒い。
遅くなってすみません。
読んでくださってありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
評価ありがとうございます。




