50 司教はクセモノ?
50 司教はクセモノ?
とうとう十歳になったぜ、ひゃっほーい!
やっとだ。やっと、魔法が使えるようになるんだ。長かった。
魔法が存在する異世界転生ってわかってから、ずっと待ち望んでいたんだ。これが喜ばずにいられるか。
魔術開放式が今から待ち遠しいぜ。
フレドリックは二年前に終わってるし、俺の従者も去年済ませている。
二人に聞いた話だと、大して変わらないらしい。
そうかなぁ。魔法だぞ?
なんかこー、あるだろ? あるんじゃないの? あってほしい。
そう思って詰め寄ってみたけど、二人の意見は同じだった。
だったら魔法を見せて欲しいって言うと、二人とも笑うだけで見せてくれない。
ケヴィンやマーサ、他の大人達に見せてと頼んでも同じ反応だった。
そして決まってこう言うのだ。魔術開放式が終わればわかると。それまでのお楽しみだと。
うう、そんな事言われたらますます気になるじゃねーか。
父上も母上も笑って教えてくれないし。
そんなもやもやした気持ちを抱えたまま、俺は家族みんなで王都に向かった。
二歳になる弟のチェスターも一緒だ。
うん、生まれました。弟。
可愛いけどちょっと生意気だったりする。
そして六歳になったウェンディがお姉さんぶっているのが、可愛すぎる。
「いい、チェスター。馬車の中では騒いではいけないのよ」
「あい、ねーたま」
チェスターが母上の膝の上で神妙に頷く。本当に微笑ましい。
けれど、まだ二歳だ。窓の外を流れて行く景色を見ていたかと思えば、ばたばたと足を揺らしたり、父上の膝の上に登ったり、積み木で遊んだりと、好奇心の赴くままに動く。
その度にウェンディが注意するが、ちゃんと聞くのはその時だけで、また遊び出す。
「もう、チェスターったら」
「ウェンディ、あまり構わなくていいよ。お姉様に構って欲しいだけだもんな、チェスターは」
チェスターを抱き上げて、頰をプニプニしてやる。柔らかい。
「むー、にーたま、やぁめ!」
「だーめ。ちょっとはおとなしくしてろ。そろそろお昼寝の時間だろ。はしゃぎすぎて、寝れなくなったら大きくなれないぞ」
目を塞いで、背中を撫でてやる。視覚情報は一番刺激的だからな。物理的に遮断してやるのが一番だ。
しばらくすると寝息が聞こえてきた。
なので、侍女に預ける。
「テオドールはチェスターの扱いが上手いね。どこでそんな事を覚えてくるんだい?」
父上に訊ねられたけど、前世で甥っ子の面倒を見ていました、なんて言えないから、笑って誤魔化した。
そんな賑やかしい旅程を終えて、王都にたどり着いた俺は、リチャードとケヴィンを連れて早速大神殿へと行ってみた。
数日後に、魔術開放式が行われるからだ。
大神殿は王都の東地区にあった。
歴史を思わせる教会のイメージそのままの古い建物だった。
ただ一柱の神だけを祀っているわけじゃなく、こちらは聖女と六騎神を祀っており、その他に、創造神と大地母神も祀られている。
創造神が聖女に神託を与え、大地母神の御使が六騎神と云われているからだ。
でも創造神と大地母神は添え物扱いで、メインはやっぱり聖女と六騎神だ。
七体の像が中央にでーんと祀られており、その前に祭壇が設えられていた。
たくさんの参拝客に紛れて、俺も参拝してきた。
やっぱり神社仏閣に行ったらそこの神仏にご挨拶しておかないとな。
受付でお賽銭がわりの寄付金を渡して、祭壇で祈りを捧げる。
魔術開放式では失敗とかしませんように。
あと、ミュリエルとの婚約も無事にできますように。
よろしくお願いします。
よし。
「テオドール様。どうして手を二回も叩くのですか?」
リチャードが聞いてきた。
あれ、こっちはしないのか。参拝している人達を見ても、柏手を打っている人はいない。手を組んで祈っている。
ああ、手を合わせて拝むのもしてなかったか。
「なんとなく、だな。やってはいけないのなら、もうしないよ」
「そんな事はありませんよ」
帰ろうとする俺達の後ろから声を掛けてきたのは、青い髪の柔和な笑みを浮かべた神官だった。父上と同じ世代かなぁ。従者の神官を引き連れているから、神官より上かもしれない。
「コバルト司教様」
慌ててリチャードがその神官――じゃない、司教様か――に、頭を下げる。遅れて俺とケヴィンも頭を下げた。
「ああ、普通にしてください。神にはどのような祈り方でも想いが届きますからね。型にはめる必要はありませんよ。――確か、ゴルドバーグ卿のご子息でしたね。卿はお元気ですか?」
「はい。テオドール・ゴルドバーグと申します。父は元気です。今回は私の魔術開放式の為に、王都に来ております」
「そうでしたね。今回の式典は王太子殿下もおられますから、いつも以上に盛況になるでしょうね」
お祭り騒ぎになるんだろうか?
でも、フレドリックの時も、リチャードの時もそんな事は無かったように思うのだけど。
首をひねっていると、
「ふふっ、当日のお楽しみです」
コバルト司教からも言われた。何があるんだろう?
「ところで、テオドール殿。六騎神のようになるにはどうすればいいと思いますか?」
「へっ?」
いきなり何か言い出したぞ。
突然、何なんだ?
「ああ、気にしないでください。ただ、この神殿に仕える者として、六騎神の末裔である貴方に聞いてみたかっただけなんですよ。六騎神をどう思っているのか。どうすれば近づくことができるのか。意見を聞かせてもらえませんか?」
んー、司教なんてやっていると、そういうのも気になるのかな?
六騎神の末裔ってのは、三年前の実験の時に聞かされた。英雄の血筋だってのもなんとなく嬉しかった。
父上には六騎神のように、人々を救うような人になって欲しいって言われたしな。
コバルト司教を見ると、微笑んでいるけど、目が真剣だった。
三年前の魔族を捕らえたって噂と関係あるのかな?
「ええと、大した事は言えませんが。愛すべき人達を心から愛して守りたいと思う気持ちが大事なんじゃないかと思います。家族とか、家臣とか、友達とか、好きな人とか。みんなが大切で愛おしいから、六騎神達は色々な事を守り越えられたんじゃないかと思います」
「心から愛する……」
「はい。騎神ゴルディアスはきっとそうだったと思います」
俺が言うと、コバルト司教の周辺の空気が和らいだ気がした。
「貴方は、愛してますか?」
「はい。みんな大好きです。私の大切な人達です」
「それは良かった。その気持ちを大切に持っておくように。きっと貴方を助けてくれるでしょう」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。いいお話を聞かせていただきました」
お互い礼をし合って帰ろうとしたら、コバルト司教が足を止めた。
「そうそう、息子のシミオンとも仲良くしてあげてくださいね」
げ。青髪のお父上かよ!
先に言ってくれ!
俺、未だに嫌われてるんだけど。
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
それしか返せなかった。
ああ、もう、もうちょっとマシな事言うんだった。
また、脳内花畑かって言われちまう。
落ち込みながら、俺は王都の屋敷へと戻った。
遅くなってすみません。
読んでくださってありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
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