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40 とある公爵令嬢の呟き その4

40 とある公爵令嬢の呟き その4


 ヒロインちゃんが最悪のケースだとわかってから、わたしは方針をちょっと変える事にした。


 乙女ゲーム『聖女伝説~六騎神の末裔~』では、ハードモードを設定する事ができた。

 このモード、ちょっとした選択間違いで、好感度が泣きそうになる程、下がる。好感度が下がらないはずのテオドールの好感度ですら下がったりする。そのくせ、好感度アップには多大な労力を強いられるのだ。

 さらに特徴として、ライバル令嬢が聖女になったりもする。一応イージーモードでもなるんだけど、ならせるのが難しいくらい、こっちはテオドールの好感度が下がらなかったりした。


 ハードモードでは、ライバル令嬢より成績が下だったり、好感度を上げられなかったりすると、それぞれの色のカップルが成立する。一応、システム上、一組だけだけど。

 一番成績の良い令嬢が聖女になると、その令嬢と同じ色の攻略対象者が令嬢に『真実の愛』を捧げ、『聖女の装飾品』を装備して魔王を倒すスチルになる。

 この場合、ヒロインは普通の男爵令嬢として、色カプを祝福するスチルで終わる。

 ただし、ライバル令嬢の成績も悪いと、バッドエンドだ。


 これだろう。これしかないだろう。


 なんたって、今現在、テオドールのヒロインちゃんに対する好感度は最悪だ。

 マジで、口に出すのも汚らわしいって感じだもの。ミュリエルの話だと。

 なので、令嬢達には頑張ってもらう方向でお願いしよう。


 わたし? カトリーナ(わたし)は悪役令嬢だもの。これは揺るがない。

 それに色カプにもならないしね。

 だいたい、カトリーナ(わたし)に『真実の愛』をくれる攻略対象者はいないもの。

 ……自分で言ってて、悲しくなってきた。

 いいもん。エンディング終わってから、素敵な人を見つけるさ!


 本当なら、ヒロインが積極的に授業に出たり、ライバル令嬢と交流したりするとお互いに能力値が上がって行くのだけれど、ミュリエルに聞いた話だと、悪いけど、出来そうもないんだよね、そのヒロインちゃん。

 なので、みんなでお勉強会とかして、今からみんなの能力アップを図ろうと思う。

 誰かが聖女になればいいんだから。


 こっちの方が楽なんじゃないかと思うでしょう。

 でも、こっちも大変なのよ。


 問題は、攻略対象者達のお悩み解決だ。それと『聖女の装飾品』。

 ハードモードでも、攻略対象者のお悩み解決をしたら、ヒロインは装飾品を基本的に貰える。好感度が七割以下で、ライバル令嬢に渡され、三割を切ると誰にも渡されない。


 そう、ヒロインちゃんには好感度を三割は回復して頂かないと、テオドールのティアラがミュリエルに行ってくれない。

 しかも、王家に返してる。


 ……あれ、これって、詰んでる?


 め、めげちゃ駄目だ。良い方に考えよう。

 だって、これもう現実だもの。わたしはここに生きてるし、お父様もお母様も生きている。みんなみんな、生きてるんだから、脅威があったらそれに対応するよね。

 その時はきっと陛下だって、聖女になった令嬢に『聖女の装飾品』をあげるでしょ。


 だいたい、宝物をホイホイとヒロインにあげる攻略対象者が変なんだよ。

 と言うか、ゲームシステムの問題だよね。

 ゲームでは問題解決して、感謝されて、ピロリンと鳴ってアイテムを貰いました。ってなるけど、公式小説とかではちゃんとその辺りの事情が描かれてるもの。王様が許可して与えたって事になってるもの。

 その辺の辻褄はきっと合わせてくれるさ! たぶん。


 うん、その為にも、令嬢達の能力アップを推進していこう。

 そして、令嬢達とみんなで問題解決をすれば、きっと誰かが聖女になってくれる……ハズ。

 色カプ達だって仲が良いしね。

 黄色カップルなんかの馬鹿ップルぶりは、群を抜いてるし。

 あの子達って、今は幼いから微笑ましく見てられるけど、十代半ばまでこんなイチャイチャされたら、きっとウザいだろうなぁ。もう少し周りの目を気にするようになって欲しいとは思うけど。


 ともかく、能力アップと問題解決に向けて頑張ろう!




 で、その問題解決の最難関が、隣にいます。

 エリオット……フレドリックがテオドールと仲良く話してるからって、不機嫌を撒き散らさないで、お願い。

 子供達メインのパーティーが行われるたびに、こっちは機嫌が悪くなるのを止められない。

 一応、誘ってはいるのよ? フレドリックに、こっちでみんなでいましょうって。それだけでエリオットの機嫌が良くなるのに、フレドリックはテオドールといたがるし、テオドールはこっちに寄り付こうとしない。


 もうね、わかるよ? 自分を嫌っている人の側になんかいたくないって気持ちは。

 でもね、世界の危機なのよ。お願いだから仲良くしてってば!

 そんなことは言えないので、ストレス溜まりまくりだわ。誰か癒して、プリーズ。


 他の攻略対象者達は、まだ大丈夫そうなので、問題が起きそうな時期に介入すればいいかな。

 ともかく、全員が仲良く出来るように頑張ろう。



 ◇



 そんな風に努力をし続けていたけれど、まるで成果はなく虚しい毎日が続き、わたしは七歳になっていた。


 今日はわたしの家で晩餐会がある。

 もうみんな、朝から慌ただしい。まぁ、わたしは参加出来ないから、見てるだけなんだけど。

 聞いた話によると、今夜はゴルドバーグ侯爵夫妻が揃って参加するらしい。

 昨日、夫人の参加が急遽決まったそうだ。

 見てみたいな。

 ほらだって、テオドールの両親は、ゲームだと仲が冷えてたっていう設定じゃない。でも噂だと仲の良い夫婦だってよく聞くし、夫人はあんまりパーティー出ないからどんな人なのか見たいんだよね。


 なので、乳母のメリエルに頼み込んで、夜会に潜入してみました。

 ダンスホールで踊る夫妻は、凄く素敵だった。

 穏やかなゴルドバーグ卿に、たおやかな夫人。もうね、周りの空気が癒されて行くの。この所ストレス溜まってたわたしの心も癒されるくらい、ふんわりと穏やかで優美なダンスだった。

 もう、何で写真撮れないの!? 録画したい。毎日見て癒されたい。

 そんな魔導具作ってる所、ないのかしら。

 ……アイテム一覧にはなかったな。悲しい。


 ぼうっとしてると、


「どうしました、カトリーナ嬢。このような所にいてはいけませんよ」


 当のゴルドバーグ卿から声を掛けられた。

 うっきゃー! ちょ、ちょっと待って、イケボ待って。イケメン間近、待ってー!


「す、すみません、ゴルドバーグ卿。少し、見ておきたかったもので。はしたない真似をしました」


 ドキドキしながら、謝る。もう、破壊力大きいよ、この人。


「カトリーナ、こんな所で何をしている。もう寝る時間だろう。早く寝なさい」


 お父様も気付いて、こっちに来てしまった。

 ああう、見つかる前に帰るつもりだったのに。


「はい、お父様」


 お辞儀をして、大人しく帰ろう。もうちょっと見たかったなぁ。


「ゴルドバーグ卿、ベイツ殿、娘が失礼した」


 お父様が、ゴルドバーグ卿と、側にいた冴えない感じの男性に謝る。あれ?


「――ベイツ?」


 ええと、何処かで見た名前なんだけど、何処だっけ。


「はい、カトリーナ嬢。初めまして、ベイツ・スフェーンと申します」


 冴えない男性が自己紹介してくれる。

 ベイツ・スフェーン……。ああ、緑子オリアーナ・スフェーンの叔父さん。公式ファンブックで、書かれていた。

 確か、魔導具研究してて、ルーク・グリーンウェルが尊敬してる人物だった。

 ルークが幼い頃、魔導具実験の暴発で亡くなるんだよね。ルークはベイツの形見の白衣を大事にしてて、学園でも制服の上に着ていた。

 で、ルークはベイツのお店によく行っていて、死亡シーンを目撃してた。彼が刃物のようなもので殺されたのに、魔導具実験の暴発って処理されたのを不満に思ってたのだ。

 その鑑定をしたのがお父さんのグリーンウェル伯爵とオリアーナのお父さんのスフェーン伯爵。

 だから、オリアーナとはちょっと拗れた状態からスタートするのだ。

 ヒロインは、ルークと共に真犯人を見つけ、魔族が犯人だって気付くイベントになる。そして、お父さん達との関係を改善し、オリアーナとの確執を解消する。


 でも、ヒロインちゃんが当てにならない以上、拗らせちゃうのを黙って見てるわけにはいかないよね。

 それに、設定では、稀代の魔導具研究者って紹介だったもの。

 なにより、死ぬのがわかっているのに、そのまま放置って、気が重くなる。きっと後悔すると思う。だって、ルークもオリアーナも悲しむのわかってて、友達付合いが出来るのか。駄目だ、考えただけで胃が痛い。


 かと言って、わたしが何か出来るかというと、何も出来ない。

 だから、忠告しておこう。警備を強化したりして、阻止してください。お願いします。


「ベイツ・スフェーン……。あの、魔導具の暴発とか、刃物とか、その、身辺にお気をつけください。特に、お店では」


 あれ? みんなの顔色が変わった? どうしたの?


「カトリーナ……それは、どういう事かな」


 お父様、顔が怖いよ? ここは……逃げよう。


「えっと、あの、申し訳ありません。何となく思っただけですので、他意はございません。失礼します!」


 ペコリとお辞儀して、慌てて部屋に戻る。あ、そうだ。


「あの、ゴルドバーグ卿。奥様とのダンス、素敵でした」


「あ、ああ、ありがとうございます」


 ポカンとした様子でゴルドバーグ卿が答えた。

 うん、癒されたお礼は言っておかないとね。



 ◇



 翌日、お父様から何か言われるかなと思ったけど、何も言われなかった。

 ただ、いつもよりも早くに登城して行った。


 お母様からは、ミュリエルのお見舞いに行って貰えないかと頼まれた。

 何か、ショックな事があったらしい。

 ミュリエルのお母様から、わたしに相談に乗ってあげて欲しいと頼まれたようだ。

 なんだろう。


 お見舞いに行くと、ミュリエルは泣き腫らした目で出迎えてくれた。

 何? 何があったの!?

 詳しく聞くと、テオドールとの婚約が破談になったらしい。


 ……マジですか。

 ちょ、黄色カップル破談なんて聞いた事ないんだけど!?

 しかも理由が噂話で政治が関わっているって、どうしろって言うのよ!?


「でもね、ザカライアお兄様がゴルドバーグ卿からご伝言を預かってきてくれたの」


『テオドール殿は諦めていないそうだよ。父上に納得して頂けるように頑張っているって。だからね、ミュリエルは元気でいて欲しいって仰ったよ。元気な姿で再会できるようにきちんと食事を取るようにって。ミュリエルは痩せ細ったみっともない姿で彼に会いたくないだろう? だから食事を抜くなんて事、やめなさい。父上ともちゃんと話し合おう。いいね?』


 そっか、よかった。

 ええとつまりは愛を育むための障害の一つって感じなのかな?


 ……何だろう。なんだか惚気られているように聞こえるのは、気のせいかな?

 まぁ、いいか。深刻でもなさそうだし。

 後でお父様にもそれとなく聞いてみよう。

 きっとお父様なら、いい方向へ持っていけるかもしれないし。


 じゃあ、そのために。


「ミュリエル様も、テオドール様にふさわしい令嬢になっておかないとね」


「ふ、ふええ?」


 顔を真っ赤にして可愛いなぁ。


「お勉強会しませんか? みなさんで素敵な令嬢を目指しましょうよ」


「はいっ! 私、きっと、テオドール様にふさわしい令嬢になってみせますわ!」


 うん、一緒に黄色は当て馬なんて評判を覆そう。

読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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