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39 とある侯爵の呟き その5

39 とある侯爵の呟き その5


 場所を移し、ライラック公爵が用意した部屋は、ダンスホールから離れた、人目のつかない場所だった。

 ライラック公爵はここで待つようにと、私とベイツ殿を部屋に残し、侍従に指示していた。

 しばらくすると、スフェーン伯爵とグリーンウェル伯爵が案内されて来た。

 確かに、この二人も当事者だ。


「どのようなご用ですかな、ライラック公爵。突然に呼び出されるとは」


 グリーンウェル伯爵は相変わらず、文句を言っているように聞こえる。


「何か重要な事のように、お聞きしましたが」


 スフェーン伯爵が心配そうに訊ねる。


「まずは座ってくれたまえ」


 公爵が席を勧め、飲み物を用意させてから、侍従達を全員部屋の外へ追い出した。



 ◇



「何から話せば良いのかわからんが……。聖女のお告げがあった、という言い方が、この場合、一番合うのだろうな」


 そんな風に、公爵が切り出した。

 グリーンウェル伯の眉が上がり、スフェーン伯が確認するようベイツ殿を見た。


「本当ですよ。カトリーナお嬢様は俺の名前を聞くなり、『魔導具の暴発や刃物など、身辺に気をつけるように。特に、お店では』と、仰ったんです」


 二人の表情が驚愕に変わる。


「それは……。公爵、お嬢様に弟の研究のことは……」


 スフェーン伯が公爵に確認を取る。


「言っておらん。言えるわけなかろう。これは最重要機密だ。議会でも知っておる者は限られている」


「それに、カトリーナお嬢様は、ベイツ殿の顔を知らなかった様子でした。反応したのはベイツ殿の名前にです。公爵がベイツ殿の名を出すまでは普通にしていらっしゃいました」


 公爵がカトリーナ嬢に何も知らせていない事の裏付けに、私は見た事を説明した。


「娘はベイツ殿が魔導具研究者だと知らん。ましてや、聖女の装飾品を復活させようと研究しておる事もな」


「ルークから聞いたやも知れん」


 重く、グリーンウェル伯が呟いた。


「其方に出入りしているのだろう? 息子は」


「確かに出入りはしてますがね、ルークは絶対に言いません。俺が保証する。あの子は気軽に女の子に自分の研究内容をベラベラ喋るような、そんな馬鹿な子供じゃないです。それに、ルークは聖女の装飾品の復活させる本当の理由を知りません。あくまで返納されたチャンスに乗じて研究しているだけって事にしてます。当然、地下にも通してませんよ。ただ、俺があの子の意見を聞きたかっただけです」


「子供の意見など、大したものではあるまい。邪魔にしかならないだろう。明日から行くのはやめるように言っておく」


「――あんたは、なんでそうなんだ。俺が許してるんだ、来てもいいだろう。あの子は魔導具研究が大好きなんだぞ」


「重要な研究所に、子供が出入りしていては、示しがつかん」


「いい加減に……」


「落ち着いてください。話が逸れてます」


 思わず、私は仲裁に入った。冷静になって欲しい。


「ベイツ殿、グリーンウェル伯はご子息が貴方の所に行く事を禁止しているのではありません。危険から遠ざけようと、守ろうとしているだけです。わかってあげてください。聖女のお告げが本当なら、貴方の身辺で何かが起こる可能性がある。それを恐れているのです。息子の安否を気遣うのは、親として当然の事でしょう」


「……すみません。そうですね、俺が狙われている以上、ルークは来ない方がいいですね。申し訳ありません、グリーンウェル伯爵」


「いや、こちらも悪かった」


 深々と息を吐き出してベイツ殿が謝罪すると、グリーンウェル伯爵も謝った。


「ともかく、カトリーナ嬢は、ルークから話を聞いていないと見ていいですね」


 スフェーン伯爵が確認を取る。公爵が頷いた。


「では、お告げが正しいとして――ベイツ、今のところ、身辺に異常はあるのか?」


「――少し、引っかかっていることが」


 皆の表情が引き締まる。


「今日、ルークの友達のテオドール――ゴルドバーグ卿のご子息が店を訪ねて来ました。従者殿が帯剣しているにも関わらず、警報装置が作動しなかった。だから、てっきりゴルドバーグ卿がご子息に話を通しているものだと思って、装飾品の研究をしてる事を話してしまいました」


「それは……」


「もちろん、話したのは表面上の事だけのことですよ。彼もルークや他の三家と同様、いずれ知らなければならない事だから、つい」


 確かに、話をしなければならないが、まだ早いのではないだろうか。


「テオドールには、いつでも店に来ていいと言ってしまったけれど、これもルーク同様、やめさせた方がいいですね」


「息子に言い聞かせておきます。しばらくは行かないようにと」


 私はベイツ殿に頷いた。


「それで、警報装置は調べたのか?」


 スフェーン伯爵がベイツ殿に問う。が、ベイツ殿は首を横に振った。


「もちろん。だが、異常はなかった」


「どういう事なのだろうな」


 公爵が首を捻るが、ベイツ殿にわからない以上、私にもわからない。


「警護の者を増やすか」


 と、グリーンウェル伯爵。


「それ以外、方法はないでしょうな。出入りできる者も制限しなければなりません。当然、子供達には近付かないよう、言い含めておいてください」


 と、スフェーン伯爵。


「承知した」


「わかりました」


「少し、大袈裟すぎやしませんか。お告げと言っても、確証はない」


 ベイツが言う。疑ってはいないが、堅苦しくなるのが嫌なのだろう。


「――四年前、娘は突然、奇怪な行動をした。目の前に置いてあった宝石を奪い、石で壊した。私は気でも狂ったのかと、心配したが、その時以外は普通に過ごしていた。ゴルドバーグ卿が、ゲイソン男爵を違法魔導具取締法で検挙した時、初めて何が起こったのかを理解した」


 公爵はベイツ殿を見据え、四年前の出来事を語って聞かせた。


「卿らに調べてもらったように、その宝石には人の精神を蝕むような恐ろしい術式が組み込まれていた。娘に聞いてみると、そんな術式があった事などわかっていなかった。ただ、あれは駄目だと思ったそうだ。直感……とでも言うのか、そのような思いで行動したらしい。今回もそうかも知れん。親馬鹿とお思いかも知れないが、こういう時の娘の言葉は無視できん。警戒して然るべきだと、私は思う」


 公爵がジッとベイツ殿を見つめた。

 私も公爵と同意見だ。


「――四年前、私の家には詐欺師がおりました。詐欺師は妻を騙し、聖女のティアラを要求してきたのです。その際、人の生命力を根こそぎ魔力へと変換させる魔導具を使用していました。それは魔法事象の制限も掛けていない危険な代物でした。あの時、皆様が調べてくださった、あの魔導具です。私は、これが無関係であるとは思えません」


「それで各家に警戒を呼び掛けたのだったな。そして卿はティアラを返納し、各家は警戒を強めた」


 グリーンウェル伯爵が呟くので、頷き返した。


「詐欺師のお陰で、家の中が相当に混乱させられていたものですから。充分に守り切るのはできないと判断しました。そのせいで色々な憶測が飛び交った事については、申し訳なく思っております」


 その後に行った調査についても、合わせて話す。


「また、ゲイソンに出資していた者達は小物ばかりでした。あの様な規模の魔導具を扱っていたにも拘らず、多額の出資者がいなかったのです。裏に上級貴族のどなたかがいると踏んでいたのですが、影すら見えませんでした」


「おそらく、私を影武者に仕立て上げる予定だったのだろうな。私に持って来た魔導具を見る限りでは」


 公爵が苦々しそうに、呟いた。


「そして捕縛されたはずのゲイソンは、堅牢であるはずの城の牢から消えました。クリムゾン将軍の指揮の元、現在も調査が継続されておりますが、依然、行方は杳として不明のままです」


 そう、あの男は消えていた。

 どの様な手段を使ったのか見当もつかない。


「消えたり空間移動する魔法など、未だ発見されていない。現場を調査したが、まさしく文字通り消えて無くなったとしか思えなかった。その上、残されていた魔力痕は人ではあり得ない濃い魔素が残されていた。それこそ、伝承に残されていた(いにしえ)の記録にある魔族のような濃度の魔素が」


 悔しそうに、グリーンウェル伯爵が言う。


「人の精神を操る魔導具に、生命力を根こそぎ奪う魔導具。消えたゲイソン。そして、娘の行動。また、大神殿でも不吉な兆候があったと報告もあり、これらの情報から、陛下は魔王の復活が近いと判断され、ゲイソンを魔族と断定、娘を聖女とし、秘密裏に準備をせよと勅命を出された」


 と、公爵が続ける。


「娘が聖女だと、盲信はしないつもりだ。しかし、否定するだけの材料もない」


「伝説では、成長した聖女が神からの神託を受けるとあります。もしも、もしも、カトリーナ嬢が聖女であるなら――その時に、聖女の装飾品が使えない、などということがあってはなりません。だからこそ、陛下は装飾品の復活を命じられたのです。四年も経つのに、未だ手がかりすら見つけられませんが」


 スフェーン伯爵が研究結果を出せない現状を嘆いた。


「――今回もお告げであるなら、ベイツ殿が必ず装飾品を復活させられる、その為に守れという事でしょうか」


「待ってください。俺も未だ手がかりすら掴めておりません。兄貴やグリーンウェル伯爵も優秀です。俺だけという事はないと思います」


 確かにベイツ殿のいう通り、ベイツ殿だけでなく、グリーンウェル伯爵もスフェーン伯爵も失ってはならない人だ。三人とも現在のセレンディアス王国が誇る頭脳でもある。

 警護が必要なのは全員だ。


「ベイツ。私達の研究施設は城内にある。聖杖もティアラも宝物庫だ。一番警備の薄いのがお前の所だ。それにあの店は、この四年、今まで動きを見せない魔族を釣る為の施設でもあるが、だからと言って、お前を失うわけにはいかん」


「そういう事だ。三人とも警護を強化させる。私から陛下とクリムゾン将軍に進言しよう。ベイツ殿もそれでよろしいな」


 公爵の一言で全てが決まった。

 ベイツ殿は不満そうだったが、文句は言わなかった。


「――では、罠を用意しよう。魔族から我々の国を守る為に」



 ◇



 屋敷に帰ると、ケヴィンが待っていた。

 執務室で、今日のテオドールの報告を聞く。


 概ね、ベイツ殿から聞いた内容と同じだったが、ルーク殿にやり込められていたとは……。

 お陰で目が覚めたと、テオドールは言ったらしい。

 いやはや、めげない所は誰に似たのか。


 しかし、理解してくれたのは嬉しかった。本当に子供の成長は早いものだね。

 これから子供達には仲良くして貰いたいものだ。


 何しろ、聖女であるカトリーナ嬢を守る役目を担うのは、同じ年頃のこの子達になるのだろうから。

 もちろん、私達大人がそんなことにならないよう、頑張らないといけない。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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