34 変人は大人気ない
34 変人は大人気ない
ベイツの店は、路地裏の入り組んだわかりにくい場所にあった。
入り口には看板もなく、教えてもらわなければ見つけられなかったと思う。
……なんか、雑居ビルの一角にある、常連しか知っていない店みたいだ。
そーいや、トレーディングカードを扱ってる店って、何故かこういうひっそりとした場所にあったよなぁ。
そんな事を思い出しながら、扉をノックしてみる。
「はぁい、どちら様でしょう。今、センセーは研究中で、話なんか聞きませんよ」
面倒臭そうに出てきたのは、中学生くらいの兄ちゃんだった。うおお、背がちっこいと、みんな大人に見えてしまうな。
兄ちゃんは、頭にバンダナ巻いてて、掛けたエプロンからは工具が覗いてる格好だ。指先が油で汚れてるから、機械いじりでもやってたのかな。あー、やっぱこの歳ぐらいから仕事すんのが普通か。
ジロジロと俺達を不躾に見てた兄ちゃんは、何か思い当たったように聞いてきた。
「うん? んー、いいトコの坊ちゃんですか? んー、ひょっとして、ルーク坊ちゃんのお知り合い?」
「ルークを知ってるのか?」
あいつ、こんな所に出入りしてたのか。
「ええ、今も来てらっしゃいますよ。えーと、入ります? 汚い場所ですけど」
「もちろん。お邪魔しま~す」
バンダナ兄ちゃんに案内されて、中へ入る。
カウンターがある狭いロビーを抜けると、棚が整然と並ぶ部屋があった。倉庫なのかな。
並んでいる棚には、ボックスの引き出しくらいの木箱が置いてあって、ちゃんと何を入れているのかわかるように名札が付いていた。意外と整理されている。
変わった人だと聞いていたし、汚いなんて言ってたから、もっとごちゃごちゃしてるかと思ってた。
だが、その倉庫を抜けると、机と低い棚で間仕切りされた空間は、カオスになってた。
あちこち物が無造作に置かれ、大きな紙がそこらに広げられ、丸められた紙屑が散らばっている。
ルークの護衛二人がこっちに気づいて会釈してくれたので、返す。
そして、中央の机を挟んで、ルークと白衣を着た無精髭のおっさんが言い争っていた。その間に挟まれて困っているのが、眼鏡を掛けた細面の兄ちゃんだ。
「だから、魔力がなくて起動しないのであれば、より高出力の回路と魔晶石を用意して試せばいいんです。ボクが持って来た魔晶石なら、きっと――」
「ルーク、知っているだろう。これは当時の研究者達が試した事だ。どれだけ高品質の魔晶石でも聖杖は反応しなかった。魔晶石の問題じゃないんだ。それよりも魔力残滓の推移に着目してみると――」
「そんなの、研究が始まってから、ほとんど変化がないじゃないですか。しかも、少しずつ減っているだけでしょう。このままだと魔力残滓が無くなってしまいますよ! ただの物に成り下がる前に、何とかするべきです!」
「まぁまぁ、落ち着きなよ、二人とも。まだ聖女の聖杖には魔力残滓が残っている。先ずは聖杖に刻まれている古代文字の解読を――」
「トレヴァーさんは、悠長過ぎます!」
うわー、なんか凄く白熱してるなぁ。
「凄いだろ、ルーク坊ちゃんが来るといつもこんな感じなんだ。――坊ちゃん、お友達が来られましたー」
バンダナ兄ちゃんが声を掛けると、ルークが振り返って、物凄く嫌な顔をした。
とりあえず、手を振ってみる。
「何で、ここにいるんだ」
「えっと、ここなら変わった魔導具を見せてもらえるって聞いたんだ。お前がいるなんて知らなかった。ベイツさんが忙しいなら、また日を改めるけど、できたら話を聞いてみたいなと思ってる」
「帰れ」
「俺の客に、なんて事を言うんだ。ルーク、お前が帰れ」
白衣のおっさんがルークの頭を叩く。
ちょ、いいのか!? 一応、伯爵子息だぞ。なのに護衛は顔を逸らしていた。
当のルークは口を尖らせるだけで文句言わなかったし、白衣は気にした様子もない。眼鏡もそうだ。バンダナ兄ちゃんは笑ってる。
えーと、ここにいる間は無礼講って事になってんのか?
「ようこそ、俺の店へ。何を聞きたいんだ、少年よ」
手を差し出してきて、ぶんぶんと握手された。
よく見ると、そんなおっさんでもなかった。頭がボサボサで小汚いけど、二十代後半くらいか。顔立ちは整ってるから、きちんとすれば、それなりの見た目になるんじゃないかな。
「ええと、初めまして。テオドール・ゴルドバーグです。ここには――」
「ゴルドバーグだって! あの、ゴルドバーグかい!? ティアラの!」
「あ、はい。そのゴルドバーグです」
「ははっ、君のお父上は、凄いね! あの宝物を惜しげも無く返すなんて、ホント凄いよ! お陰でティアラも調査できるようになった。ありがとう!」
抱きしめられた。うう、埃っぽいし、臭い。この人、風呂に入ってんの!?
すぐに解放されたけど、ちょっと勘弁してほしい。
「ベイツ・スフェーンだ。よろしく。元魔導具研究所職員だけど、君のお父上の英断には感服してる。本当に凄いよ。先王から賜ったからって、後生大事にしまい込んでる他の家とは大違いだ。魔導具の未来に貢献してくれた功績は讃えられるべきだよ。あの人には何でそんな事がわかんないんだろうね」
「……それはボクの父上に対する侮辱ですか?」
プルプルと震えながら、ルークが呻く。
「そうだって言ったら、どうする?」
挑発するように、ルークを見やる白衣。
ちょ、この人、大人気ないよ!?
「ベイツ、そこまでにしておこうか。お客様が驚いてるよ。僕はトレヴァー。宮廷魔法省に勤めてる。ここには出向って形かな。この変人のお守りが主な仕事だけど。あのゴルドバーグ卿のご子息にご挨拶できて光栄だよ。よろしくね」
眼鏡がベイツをやんわり止めて、目線でルークを宥める。
知性が滲み出てる感じの優等生みたいだ。握手をした手は、意外とゴツゴツしてる。やっぱり魔導具弄りしてるのかな。
騒がしいけど、面白そうな人達だ。
読んでくださってありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
評価ありがとうございます。
キャラクター一覧って、こんなのでいいのでしょうか。
普段使ってるキャラ表はこれです。
これ以上、何を書けばいいんだろう?
キャラクター 一覧?
テオドール・ゴルドバーグ
主人公。転生者。前世は男子高校生。黄色。ティアラ。
◆ゴルドバーグ家
オーウェン・ゴルドバーグ
父上。侯爵。
セリーナ・ゴルドバーグ
母上。侯爵夫人。
ウェンディ・ゴルドバーグ
妹。侯爵令嬢。
ケヴィン
テオの護衛。警備小隊長。
リチャード
テオの従者。テオの一つ年上。
マーサ
テオの乳母。
セバス
ゴルドバーグ家の侍従長。
ロウヴェル
ゴルドバーグ家の警備隊長。
マリア
ゴルドバーグ家の侍女頭。
ホレス
ゴルドバーグ家の魔導具研究所所長。
◆友人
ミュリエル・アンバー
黄色。婚約者。子爵令嬢。食いしん坊。ヒヨコ娘。
フレドリック・セレンディアス
王太子の異母兄。ふたつ年上。笑い上戸。白兄。ボッチ。
カトリーナ・ライラック
公爵令嬢。悪役令嬢。ドリル。紫。神童。前世女子高生。
◆攻略対象者
エリオット・セレンディアス
王太子。白。指輪。兄スキー。
ルーク・グリーンウェル
攻略対象者。緑。聖杖。伯爵子息。嫌味。
◆その他
セレンディアス王
王太子とボッチの父親。
セレンディアス王妃
王太子の母親。
ライラック公爵
ドリルの父親。
メリエル
ドリルの侍女。
エヴァン・アンバー
ヒヨコ娘の父。
シーラ
ヒヨコ娘の乳母。
◆その他2
ターラ
占い師。詐欺師。
ミラ
ターラの侍女。詐欺師共犯。
ネイト・ゲイソン
男爵。魔導具研究者。詐欺師。ガチムチ系。
◆ヒロイン()
アイリーン・プラム
ヒロイン()。ピンク。前世JK。




