33 父上は厳しい
33 父上は厳しい
甘かった。
何が前世知識だ、たった七歳でもう置いて行かれてるじゃねーか。
高校生のアドバンテージなんて、この世界じゃ、たかが知れてる。無いも同然だ。
権力が近くにあるのに、権力と向き合って来なかった。この武器の使い方こそ、勉強しなきゃならなかったのに。
前世知識だけ持ってても何の意味もなかった。これをどう活かすかが問われていたのに。
その上、情報戦を積極的にやってなかった。
ルークの言う通り、俺は異母兄側の意見しか聞いていなかった。王太子側の立場から見たあいつも見なきゃいけなかった。周囲からどう見られているのかも。
忠告までされていたのに、利用する、と面と向かって言われていたのに、その意味すら考えてなかった。
ここは日本じゃない。
俺は、侯爵家嫡男、テオドール・ゴルドバーグだ。領内の人々を守る義務がある。国を守る義務がある。
だけど。
だからと言って、フレドリックを切れるかというと、切れない。切りたくは無い。
確かに、あいつは俺を利用してたんだろう。俺といることによって、父上が、ゴルドバーグ家が異母兄側に着いたと見せていたんだろう。
でも、何くれとなく忠告してくれていた。
俺の無頓着を注意していた。
ボッチになるのが嫌なくせに近づいて来た馬鹿を利用しきれない、馬鹿で優しい奴だ。
「ケヴィン。父上から、俺の事で何か聞いてるか?」
「いいえ。坊ちゃんのやりたいように、とだけ」
そうか。
父上は以前、言っていた。フレドリックと友達になったのはいい事だと。
けど、パーティーとかで、俺とフレドリックのふたりぼっちでいる時は、ジッとこっちを見てた。
「――俺が、仲を取り持たなきゃならなかったのか」
切る事は簡単だ。だけど、それは問題の先送りだ。
いずれ王太子に反感を持った奴が出るかもしれない。そいつは簡単に異母兄を旗頭にするだろう。それを回避するためには、異母兄が王太子に忠誠を誓っている姿を見せなければならない。
フレドリックもわかっているだろうけど、エリオットとの溝が深い。エリオットはいつもフレドリックを一人にさせようとするから。
エリオットはおそらく、警戒しているのだろう。だから近づかせないし、近くにいる俺を敵視している。
二人を仲良くさせる為には、フレドリックがボッチのままじゃ孤立するばかりだ。第三者の介入が必要だろう。
だから、父上は俺に期待した。
フレドリックが初めて受け入れた友達だから。
その期待を裏切って、俺は異母兄側で考えなしに動きすぎた。ウチの家が異母兄派に付いてしまったと思われてしまうくらいに。
単純に友達と遊んでいる感覚で付き合っちゃいけなかった。
そりゃ、アンバー子爵も見限るわけだ。俺に対する視線が厳しかったのも頷ける。
結局、俺自身が招いたことじゃねーか。
ああ、もう、全然、成長してねー!
本当に馬鹿なんだよ、俺は!
「申し訳ありません、テオドール様」
リチャードが謝った。謝る必要なんてないのに。
「父上に、止められてたのか?」
「こればかりは、ご自身で気づかなければならないと。次期当主としての責任を自覚して頂くために必要な事だと、仰ってました」
優しいと思ってた父上は、かなり厳しかった。
ごめん、父上。気付くのが遅くて。
「そうか。やきもきさせて、悪かったな。相当イラついただろ。馬鹿すぎて」
「いいえ。お気付きになられましたから。それに、ご当主様は必ず気付くから大丈夫だと」
期待が大きすぎるよ、パパン。
でも。
お陰で目が覚めた。
「今度、ルークにもお礼を言わないとな。面と向かって言ってくれて助かった」
パンッと両頬を叩いて気合を入れた。
「よし、まずは魔導具について聞いてみよう。せっかく来たんだ。こっちも何か収穫しないとな。宮廷魔法省はなんとかならない事はわかった。でも、魔導具研究所方向からなら、何かわかる事があるかもだしな。わからないという結果でもいい」
リチャードもケヴィンも力強く頷いてくれる。
うん、まだ見捨てられていない。
「じゃ、まずは腹拵えだな。――おばちゃん、お勧め定食三つ!」
「テオドール様!?」
何でだと、リチャードが叫び、ケヴィンが爆笑する。
お腹が空いたのだから、仕方がない。
◇
お勧め定食は、竜田揚げのタルタルソース掛けだった。うん、美味い。
「――でさ、おばちゃん。おばちゃんは魔導具に詳しかったりするの?」
食堂は古い造りで年季が入っていた。長い事ここで商売しているんだろうなと思って、ちょっと聞いてみた。いいお店とか教えてもらえないかと思って。
恰幅のいいおばちゃんは、呵々と笑って、
「そんなこと、あるわけないじゃないですか、ぼっちゃん。ここで商売をしているからって、詳しいってわけじゃあ、ないんですよ。そうですねぇ。ぼっちゃんはどんな魔導具を探しに来られたんですか。それぞれの店の傾向なら、あたしでも教えて差し上げられるかも知れません」
「んー、どんな、って言われると困るんだよな。……普通の家庭魔導具じゃない魔導具ってのを見てみたかった、という感じかな。どんなのがあるか、わかんないし。――あ、飲み物三つお代わり」
「はいはい、今お持ちしますね。――ああ、普通じゃない、変わった物をお探しですか。ここは、そんな物ばかりですからねぇ……。ベイツの店なんかどうですかね? 偏屈な男でね、何か弄っているようなんですが、あたしはもちろん、他の連中もわからない物を作っているようですよ。そこ以外じゃあ、あとは似たり寄ったりって感じですね。どの店も変わった物を置いてますから、ぼっちゃんのお気に召す物が見つかると思いますよ」
「そっか。ありがとう。覗いてみるよ。――あとさ、そこに書いてある揚げ菓子って、どんなの? それもちょうだい」
「ドーナツですよ、穴は空いてませんがね。――そうそう、そのベイツって、男。昔魔法省だか、研究所だかにいたとか何とか……ナイショですよ」
「ありがとう。ドーナツ一袋、お土産にも包んでよ」
言うと、機嫌よくドーナツを包んでくれて、ベイツの店が駄目だったら、また来るように言われた。
うん、こういうのって、通用するんだな。
「どこで覚えて来るんだか……」
ケヴィンが呆れたように言ってるけど、目が笑ってる。
リチャードは逆に頭を押さえてた。
ともかく、行ってみよう。
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日刊1位だと……
((((;゜Д゜)))))))
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