表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/147

147 とある侍女の呟き

コミカライズ【WEBコミックガンマぷらす】にて第3話前半が公開されました。

ぜひ、ご覧ください。

147 とある侍女の呟き



「なんなのよ! なにがどうなっているの!?」


 人気のない林に逃げ込んで、私は変化を解いた。


 あの巨体ではすぐに見つかるため、岩山を越えたらすぐに体を小さくした。普通の蜥蜴と比べると大きかったが、岩陰に身を隠せば、追っ手には気づかれなかった。


 追っ手を撒いたあとは、こうして人気のないところで人間の姿に戻れば、あの蜥蜴が私だとわかる者はいないだろう。


 だが、安心はできないでいた。


 魔素溜まりを浄化するような相手だ。用心に超したことはないだろう。


『ヴィオラ、大丈夫?』


 私と同化した蜥蜴の魔物が、心の中に問いかける。


 レイヴンのように抵抗したわけでもないのだが、なぜか私と蜥蜴の意識は同化しなかった。


 そのかわり、こうやって時折話しかけてくる。


『あいつら、怖かったよねぇ』


 幼さの残る口調で、蜥蜴が話す。


 実際、この蜥蜴は同化したときから子供のようだった。数百年経っても、それは変わらない。


『でも、どうしよう。浄化されちゃったねぇ。どうしたらいいかなぁ?』


「どうもこうも、そのまま報告する以外ないでしょう」


 ヴィンスとラモーナが学園を出たことに疑問を持って追いかけてみたら、結界石が破壊されて、魔素溜まりが浄化された。


 報告をするなら、そう言う以外にない。ほかにどう言えというのか。


 そもそも、伝令役のレイヴンはどうしたのだろう。


 なにか変わったことがあるなら、あいつが報告しなければならないのに。


「だいたい、どうして人間如きが魔素溜まりを浄化できるのよ」


 できないはずだ。


 あれはあの憎たらしい小娘――アイリーンの闇の魔力を変化させ、凝縮した結界石を要としている。さらには人間たちの恨みや憎しみをありったけ詰め込んだ。怨嗟の声は極上の呪いに変化し、王国を滅ぼす毒となる。


 さらには太古では魔力の流れの要とされていた場所――いまでは忘れ去られている場所を選んで設置した。


 六年をかけて設置したそこは、〝黒い稲妻〟の合図で発動し、魔素溜まりを生み出し、王国全土を覆い尽くす。


 そして影たちは魔物の体を得て、魔王様の国となった王国で幸せに暮らすのだ。


 たとえ気づかれたとしても、ただの人間には対処できない。


 魔素溜まりはただの魔力ではない。


 安らぎを与えるはずの闇の魔力は、闇に葬られた恨みや憎しみ、人間の負の感情を与えられ

、恐ろしい闇へと変じたものだ。


 もともとアイリーンの魔力はそういった負の感情と馴染みやすく、また、強い。


 並みの人間以上の魔力は、魔王様の魔力に匹敵し、そう簡単に破れるものではない。


 そのはずだ。


 それこそ、聖女でもなければ、打ち払うことなどできないだろう。


 今代の聖女カトリーナは学園にいる。まだ、聖女として覚醒はしていないはずだ。


 だが、あの短剣で魔素溜まりを浄化したのは、男だった。


 たった一撃。しかも短剣で結界石を破壊し浄化するなんて。


 魔素溜まりを利用して、影たちを呼び出すこともできなかった。


 いまだ影としてしかこちらに現れることができないが、それこそ、あいつらに恐怖と混乱を与えて蹴散らせるはずだったのに。


『あたしもヴィオラも戦えないものねぇ』


「元踊り子だった私に、そんなもの期待しないで。それこそ、あんたの領分でしょう」


『あたしも炎のブレスを吐くだけしかできないもん。はぁ……蛇を連れてくればよかったねぇ』


 それは言っても仕方がない。


 ヴィンスとラモーナの動向を探るだけのつもりだったのだから。


 アイリーンと離れられないはずのヴィンスの様子も気になるが、まずはあの短剣を持つ男だ。


 あの男、今度会ったら、絶対に殺さなければ。


 罠でもなんでも使って捕まえてやるわ。


 そして、あの綺麗な顔をズタズタにして、輝く金髪を切り刻んで――金髪ですって!?。


「まさか、テオドール!?」


 私はテオドールの姿を知らない。


 学園では寮に籠もっていたし、姿を見る必要を感じなかった。


 呪いで精神を殺したはずだったし、その後も周囲に忘れ去られたあと、魔王様の身代わりとして人間どもに追い回され、処刑する予定だった。


『テオドールなの? まだ死んでなかったんだ。〝黒い稲妻〟のあとに立ち上った、光の柱が原因なのかなぁ? どうりで、レイヴンからテオドールの死亡報告がなかったわけだねぇ。さすが六騎神の末裔って感じかなぁ?』


 まだ生きているのだ、あいつは。


 わずか三歳で母ターラの計画を見破り、追い詰めたあいつが。


 なんらかの方法で、呪いを避け、魔素溜まりを浄化する手段を手に入れたのだ。


「ほんと、しぶといったら……!」


 毎度毎度、悉く邪魔してくれるわね。


『だけど、それならそれで、鴉の奴、テオドールが生きているって報告をしてくれればよかったのにねぇ』


「役立たずの無能なんか、どうだっていいわ」


『そうだねぇ。あいつ、魔王様に反抗的だったし。逃げちゃったのかも』


「予定変更よ。先にテオドールを殺すわ。報告はそれからよ」


 早く殺しておかないと。


 これ以上、予定を狂わされるのはごめんだわ。


『うん。そうしよう。殺したあとなら、怒られないよ』



すみません遅れました。


読んでくださって、ありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


1巻〜3巻発売中です。

コミカライズもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【イケメンに転生したけど、チートはできませんでした。】
第1巻2018/12/17発売
第2巻2019/08/31発売
第3巻2020/06/18発売
コミカライズ【WEBコミックガンマぷらす】
1巻2021/04/30発売
2巻2021/07/26発売
3巻2021/12/23発売
― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みしました。 メチャクチャ面白かったです!
[一言] ここまで一気に見ました。 面白い作品を作ってくださったことに感謝します。 可能であれば続きをよみたいです。
[良い点] 書籍発売当初、数多い作品の中でイチオシで読んでました。 最近ようやくこちらでタイトルを見かけ、147話で留まってしまっていることを知り、 毎日とても惜しく、この続きを請いたい思いでいます。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ