145 属性よりも脳筋が強い気がする
コミカライズ第2話前半がニコニコ静画でも公開されています。
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145 属性よりも脳筋が強い気がする
「貴重なサンプルだ! 無事に保護してくれ!」
叫んだのは、ベイツだ。
珍しい魔物を前に、目がらんらんと輝いている。
ケヴィンに、小隊のみんな。ヴィンスとラモーナ。騎士たち。そして、警備兵たちが火蜥蜴を包囲する。
『な……なんなのよ、あんたたち。ちょっとは恐れたり、怖がったりしなさいよ。こんな化け物、見たことないでしょう!? さっさと、尻尾を巻いて逃げなさいよ!』
火蜥蜴はなんだか戸惑っていた。
いやいや。
恐れろって言われても、こんな格好いい火蜥蜴を前に、恐れるなんてとんでもない。
できれば、ティムしたいって思うのが人情だろ。
『近づかないで! この、変態どもがぁっ!』
火蜥蜴が俺に向かって、ブレスを吐く。
「変態じゃねえ!」
慌てて、土壁でガードしながら、逃げた。
土は魔素で充満していたときよりも、素直にこっちの意思を反映してくれた。
よし、これなら大丈夫。どんとこいだ。逃げ回るなら、任せろ!
「うおおおぉ!」
ヴィンスが剣に炎を纏わせて、火蜥蜴の足に叩き付ける。
『痛いわね! なにすんのよ!』
尻尾をヴィンスに叩き付けた。
それを、ヴィンスの騎士たちが構えていた盾で受け流した。
火蜥蜴は痛いと言いながらも、傷ついた様子はない。
ヴィンスの炎は火蜥蜴が纏っている炎と相殺されたようで、刃は固い皮膚に弾かれたようだった。
「大盾と槍を持ってこい! 荷車も空にして、馬を外せ!」
ケヴィンがすかさず指示する。
警備兵たちがすぐさま後方へ走り、準備を始めた。
「すみませんが、無事に保護ってぇのは無理そうなんで、生きてればそれでいいことにしてもらえませんかね?」
ケヴィンはベイツに確認を取った。
だが、有無を言わさぬ口調だ。
「仕方がない。戦闘は門外漢だからね。それでいいよ」
「助かります。どうも相性が悪そうなんで」
「相性?」
首を傾げていると、ラモーナが答えてくれた。
「そうね。私もヴィンスも、水属性は得意じゃないもの。捕獲は難しいと思うわ」
ラモーナも、ケヴィンの意見に賛成のようだ。
そうか。
あの蜥蜴はどう見ても火属性だ。
火属性同士だと、相殺することが多い。それに、耐性もありそうだ。
現に、ヴィンスの炎も相殺されていた。
「ここにコバルト司教がいないのが悔やまれるな。あの人の氷なら、すぐに決着が着いただろうに」
ベイツがぼやく。
「俺は風属性が得意だが、中途半端な威力だと煽るだけだろうしな。せめて、シミオンがいてくれたら、かなり楽になったんじゃないか?」
「シミオン様は、当てにならないわ。いまは……」
ラモーナが顔を曇らせる。
「いない奴のことや、得意じゃない属性のことを言っても、仕方がないだろう」
そう言う俺は土属性だし、あんまり戦いの役に立たなさそうだ。
防御の壁を作れても、範囲はそんなに大きくないしな。
そうなると――。
「ジン」
「嫌だ。面倒くさい。お前くらいは守ってやる。だが、守るだけだ。期待するな」
「――だそうだ」
先手を打たれた。
そんなに嫌がらなくてもいいだろうに。
「構いませんよ。精霊や魔剣使いに頼りっぱなしじゃあ、俺たちのいる意味がない。魔素溜まりはどうにもならなかったから、頼るしかなかったが、こっちはまだできることがあるんでね」
ケヴィンは事もなげに言うと、
「荷車で取り囲め! 近づきすぎるなよ! 間から、槍で牽制しろ! ヴィンス様の邪魔をしないようにな! 素早いから、気をつけろよ! 特に、尻尾!」
兵士たちが、火蜥蜴と戦うヴィンスと騎士たちを囲むように、荷車を配置する。
おおう。やっぱりケヴィンは頼りになるな。
それに、今回は人数が多いうえに、きちんと訓練をした兵士ばかりだ。
この前みたいに、苦戦することはないだろう。
『ちょっ! いたいけな女性を取り囲んでなぶろうだなんて、あんたたち、それでも紳士!?』
火蜥蜴は取り囲んだ兵士たちを牽制するように、ブレスを吐き、尻尾を振り回す。
だが、ブレスは俺の土壁でなんとか止められるし、尻尾も届かないところで牽制しているから、土埃を巻き上げるだけだった。
どうも、素人くさいんだよな。この火蜥蜴。
なんか、戦うことに慣れていないみたいだ。
雌だからだろうか。
そのことにとっくに気づいている兵士たちが、じわじわと包囲網を狭め始めると、火蜥蜴もジリジリと後退し始める。
「おとなしく投降してくれたら、手荒な真似はしねぇよ」
『信じられるわけないでしょ。人間ってのは裏切るものよ』
ケヴィンが降伏を呼びかけるが、火蜥蜴は突っぱねた。
『第一、こんな大人数で取り囲むなんて、卑怯なのはあんたたちでしょう』
「そいつはどうかな。あんたみたいな大型の生物相手じゃあ、妥当だと思うがな」
ヴィンスやラモーナは火蜥蜴の言葉に思うところがあったのか、言葉に詰まったみたいだけど、ケヴィンや兵士たちには効果がなかったようだ。
顔色も変えずに、淡々と包囲を狭めていく。
「待て」
ヴィンスだった。
なんか、決意したような表情をしている。
うん。なにを考えているのかわかるけど、やめとけ?
「お前の言うとおりだ。大勢でよってたかって一方的に追い詰めるのは、騎士道に反する」
「そうね。私もそう思うわ」
「いやいやいや。勝てるときに勝っておくほうがいいだろうが!」
思わずツッコんだ。
だが、ヴィンスとラモーナの決意は固い。
「俺が代表で戦う。勝負しろ!」
「いいえ。私とヴィンス、ふたりで戦うわ」
「なにを考えているんだ、君は。これは、決闘だろう」
「いや、決闘じゃねぇええ! 魔物の捕獲。できなければ、退治だって、さっき話しただろうが!」
叫ぶが、ヴィンスとラモーナは睨み合っていて、俺の言葉なんて聞いていない。
ケヴィンは頭を抱えていた。
ちなみに、ヴィンスの連れてきた騎士たちもだ。
「ヴィ、ヴィンス様。ここはケヴィン殿の仰るとおり、全員でかかるのが一番です」
「そうですよ。決闘は思いとどまってください。ラモーナ様もお願いします」
「いや。一騎討ちを求めてきた者に、応えないなど、騎士道に反する」
「そうよ。果たし合いには応じないといけないわ」
「一騎討ちも果たし合いも、あいつはそんなこと言ってねぇぞ!」
脳筋の脳内変換、どうなってんだよ!
「ともかく、俺が戦う」
「私も一緒だって言っているでしょう」
そして、ヴィンスとラモーナの睨み合いが再び始まる。
さっきまで、捕獲すら難しいと言っていただろうが。
ちょいちょいと、ジンが俺の肩を叩く。
「なんだよ?」
「いいのか? 逃げたぞ」
ジンが示した先、岩山の向こうに消えていく尻尾が見えた。
ヴィンスたちに気を取られている隙に、火蜥蜴が包囲網から脱出していた。
「待てこらー!」
全員で追いかける。
ヴィンスとラモーナは反省していた。
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