144 だって、男の子だもの
コミカライズ【WEBコミックガンマぷらす】にて第2話前半が公開されました。
ぜひ、ご覧ください。
144 だって、男の子だもの
「少し待ってくれないか? 先に現状を調べたい」
ベイツが制止をかけたので、立ち止まる。
「時間はかけないでくれよ。見たところ、かなりヤバイから」
中の魔素は光の壁外よりもかなり濃い。魔剣で中和していてもかなりキツイから、一度、外へ出た。
「すぐ終わる」
そうしてベイツは光の壁ギリギリまでくると、円形の魔導具をかざした。
「やはり魔素濃度は高いな。基準値の約三倍か。壁の外でこうなら、中はかなり高いと思われる。属性は……闇属性に思えるが、わからないな。妙な魔力だとしか言いようがない……」
そうして、メモ帳にいろいろと書き込む。
「ふむ。とりあえずはここまでか。あとは中の状況だな」
と、ベイツはおもむろに光の壁を越えた。
あまりに軽く、一歩を踏み越えたので、止める間もない。
そして、すぐに倒れた。
「「ベイツ先生!」」
ラモーナとヴィンスが叫ぶ。
「ちょっ! なにやってんだ!」
慌てて、ベイツを魔素溜まりから引きずり出す。
「おい、大丈夫か!? どこも、なんともないか!?」
真っ青になっているベイツの顔を軽く叩きながら、呼びかける。
なんか、黒い靄がベイツの体にまとわりついている。
おそらく、これが魔素だろう。
魔剣を少しだけ抜くと、刀身が淡く光り、魔素が吸収されていく。
同時に、ベイツの顔色も回復した。
「ふむ。なるほど。魔素がまとわりついてきたと思ったら、体内の魔力を変質させられたような感じがあるな。魔族になる可能性があるという、ゴルドバーグ侯爵からの報告に信憑性が増したな」
ベイツは手をわきわきさせて、自身に起こったことを確認している。
いや、そんな冷静に分析すんなよ。びっくりしただろうが。
「あんた、馬鹿ですかい! 魔素溜まりの危険性は、侯爵様から伝えられているはずでしょうが!」
ケヴィンが怒鳴りつける。
だけど、ベイツはどこ吹く風で、しれっと言った。
「いや、魔剣使い殿は、影響がないんだろう? それじゃ、調査の意味がない。だったら、俺が実験台になったほうが早い。実体験ほど役に立つ情報はないからね。それに、テオドールがいるいまなら、このうえなく安全は確保されているだろう」
「だからって、いきなりはやめろ。心臓に悪いだろうが」
ほんと、心構えがない状態で、突発的な行動はやめて欲しい。
「ああ、それは悪かったよ。でも、押し問答で時間を食うのは不味いかなと思ったんだ」
そりゃ、そんなことを提案されたら反対するに決まっているだろう。
だけど、ベイツの中では、魔剣の保護なしで魔素溜まりに入った場合の調査は決定事項だったみたいだ。
だから、時間短縮をしたと言うのだけれど、それでもやっぱりやめろ。
「でもお陰で、いい調査ができた。さあ、テオドール。頑張ってくれたまえ」
悪気なく、すがすがしく笑うベイツに、俺もケヴィンも、そしてほかの連中も、呆れて溜息をつくしかない。
「……やはり、人間は馬鹿なんだな」
呟いたジンの言葉に、反論できなかった。
◇
改めて、気合を入れると、光りの壁を越える。
中はねっとりとした空気で充満していた。
黒の樹海よりも濃い気がする。
腰にある魔剣に触れながら、女神像を目指した。
間近で見る女神像は、台座が一メートル半くらいあるため、俺の身長の倍ぐらいあった。
だけどやはり、魔素溜まりの発生元は、女神像そのものじゃない。
先ほどのベイツのように、魔素が女神像にまとわりついている感じだ。
発生源を探して、慎重に、女神像の周囲を巡る。
女神像の後ろに回ったときだった。
強烈な魔素が感じられた。
だが、足下にはなにもない。
見上げると、女神像の背中に、真っ黒な太い杭が打たれていた。
「あれか」
手を伸ばせばかろうじて届くが、魔剣を刺すには少しだけ届かない。
台座に登ってもいいが、触るだけで削れていくので、危ないだろう。
なので、足下の土を盛り上げることにした。
だが、ここの土も黒い樹海と同じように、言うことを聞いてくれなかった。
「黄色、いけるか?」
――俺を誰だと思っている。大丈夫だ。
「じゃあ、頼む」
黄色の助けを借りて、足下の土を盛り上げ、杭に近づいた。
当然のように亡霊たちが喚いているが、あんまり気にならない。
恨み辛みは黒の樹海のほうが酷かった気がする。
そして、杭に魔剣を刺そうと抜いたときだった。
『待ちなさい!』
ドゥン、と、背後にそびえる岩山から飛び降りてきたのは、炎を纏った、大きな蜥蜴だった。
「かっ……!」
突然現れた蜥蜴は息を吸い込むと、俺に狙いを定める。
「テオドール!」
「魔剣使い殿!」
光りの壁の向こうにいるヴィンスたちが叫ぶ声が聞こえた。
蜥蜴が吐息を吐く瞬間、俺は耐えられなくて、叫んだ。
「カッケー!!」
『は?』
なぜか、蜥蜴がブレスを吐かずに止まる。
というか、口に溜めた炎のブレスが口から漏れ出て、プスプス焦げているんだけど、大丈夫か?
『きゃああぁっ! 熱いっ!』
大丈夫じゃなかった。
叫んだときに上を向いたから、ブレスは上空へと放出される。
すげー。
それはともかく、あれだ。
これが俗に言う、サラマンダーだろ? 火蜥蜴だよな!?
コモドオオトカゲを数倍大きくした体は、炎に包まれている。
体高は二メートルくらいで、全長は十メートル近くあるんじゃないか?
口からは炎がチラチラと見える。
再ブレスの準備はばっちりだな。
鋭い牙も見えて、あれに噛まれたらかなり痛そうだ。
四肢の爪も鋭いし、岩山から飛び降りてきたのを考えると、見た目に反して早いのかもしれない。
大きな尻尾はゆらゆらと揺れていた。あれも攻撃手段なんだろう。
もう、マジで格好いい。
雄だろうと、雌だろうと構わない。気にしない。
だって、格好いいし!
くうぅっ、赤と白に色分けされたボールを投げつけて、ゲットしてえ! ちょっとサイズはでかいけど、進化だと思えば大丈夫だ!
どうにかして、捕獲できないかな? 俺の実力じゃ無理だろうけど。ヴィンスたちに頼んでみるか?
『と、ともかく、これでも食らいなさい!』
再びブレスを吐こうとする、火蜥蜴。
「あ、ちょっと待ってろ」
サクッと、魔剣を杭に刺した。
『な……!』
杭は涼しげな音を立てて粉々になると、俺にまとわりついていた亡霊たちが消えていく。
そして、あれだけ充満していた魔素も、潮が引くように綺麗さっぱりなくなっていた。
『なんてことしてくれたのよ!!』
火蜥蜴が叫ぶ。同時に吐き出されたブレスは、狙いを大きく外して、地面を焦がした。
『あなた、空気ぐらい、読みなさいよ!』
魔物のくせに変なことを言う奴だな。そんなの、読んでられるか。
俺は弱いんだから、お前を捕獲しようと思ったら、ヴィンスやケヴィンの力を借りないといけないんだ。
魔剣だと、消滅させてしまいそうだからな。
そうなると、ケヴィンたちが動けるように、魔素溜まりを先に消すのが最適だろう。
「テオドール、無事か!?」
魔素溜まりが消えて、光の壁も消えたのか、ヴィンスやケヴィンたちが駆けつけてきた。
「おう、大丈夫だ! それより、あの火蜥蜴を捕獲できないか?」
ヴィンスが怪訝な表情をする。
「一体なにを……」
「……なるほど。人語を理解し、会話ができる魔物なら、魔王の目的や居場所を知っている可能性があるってぇことか」
その一方で、ケヴィンが納得していた。
それを聞いたヴィンスが、剣を抜き払う。
「そういうことなら、了解した。必ず生け捕りにしよう」
ラモーナや騎士たちも抜剣して力強く頷く。
いや、その……そうじゃなくて、ペットにしたいだけなんです。なんか、ごめん。
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そして、1巻〜3巻発売中です。
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