141 お休みは有意義に
コミカライズの続報です。
【WEBコミックガンマぷらす】にて 9月11日から連載開始です。
また、活動報告にてコミカライズのメインビジュアルを公開しています。
ぜひ、ご覧ください。
141 お休みは有意義に
王都を出た俺たちは、馬を飛ばして三日でゴルドバーグ領に到着した。
領都までまだあるが、領内に入ったことで、ケヴィンたちに少し余裕が見られた。
やっぱり自分の縄張りに戻ると安心するのだろう。
俺がそうだから。
安心感と懐かしさでホッとしている自分に気づいた。
「このまま、領都まで一気に行きますんで、そのつもりでお願いします」
ケヴィンが予定を話す。
抗議の声を上げたのは、ベイツだった。
馬車の中から、ケヴィンに向かって叫ぶ。
「ちょっと待ってくれ! まだこんな行軍が続くのかい!? 尻が痛くて割れそうだよ!」
「もともと割れてるから、大丈夫だ」
俺が言うと、ベイツが口を尖らせる。
「君たちみたいな体力自慢には余裕かもしれないが、俺はしがない文官なんだよ。体力なんて無尽蔵じゃないんだ。か弱い魔術研究者に少しは気遣ってくれたっていいだろうに」
「すみませんね。急いでいるもんで」
「そうだよ。それなら、現場に来ないで、報告を待てばよかったのに」
「そんなもったいなこと、できるわけないだろう! こんな好機、見逃せるわけないじゃないか。精霊王と魔剣使い、魔素溜まり。これだけ揃っていて、調査しないなんて、とんでもない! おもしろいことを見逃したらどうするんだ!」
「じゃあ、頑張れ。どのみち、遅かったら遅いで文句を言うんだろ?」
「当たり前だろう。間に合わなかったらそれはそれで俺の気が咎める。俺の尻に気を遣って、ベストの状態で現場に着いて欲しいと要望しているだけだ」
「よし、ケヴィン。行くぞ」
「おう」
これからもベイツは無視していいな、うん。
でも、現場で動けないと困るから、ギリギリを狙おう。
「そっちも、いいか?」
「構わない」
ヴィンスと付いて来た騎士ふたりに尋ねると、了解してくれた。
すでにヴィンスは芋虫状態から解放され、連れてきた馬に乗っている。
落ち着いた様子で、俺たちの指示に従っていた。
あれから――王都を出たあと、ヴィンスはほんの数時間くらいで目を覚ました。
一時、混乱したようだったが、騎士たちから説明を受けたのか、反論もせずおとなしくついてきている。
あれだけ暴れていたのが嘘みたいだ。
できればいろいろ聞きたかったんだけど、馬を急かして街道を走り抜けてきたから、あまり話ができなかった。
でもまぁ、いまは、〝黒い稲妻〟が落ちたあとの魔素溜まりを解決するのが先だ。
帰るまでに話す機会はあるだろう。
俺たち一行は、ケヴィンたちの案内で領内を駆け抜けた。
◇
夕方には領都についた。
宿泊先は、俺の家。つまり領主館だ。
案内された先は、いくつかある客棟のひとつだった。
久しぶりに俺の屋敷に行きたかったけれど、残念だな。
客棟の玄関先では、留守役のセバスが出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。精霊王様、魔剣使い様。ヴィンス様もお話しは伺っております。ゴルドバーグ家、家令のセバスと申します。しばらく滞在されます間、私が皆様のお世話をさせて頂きますので、なんでもお申し付けください」
挨拶を済ませると、セバスは部屋へと案内してくれた。
日当たりのいい部屋に、俺とジン。隣にヴィンス。さらにその隣にヴィンスの騎士たち。ベイツは向かいの部屋だ。
ケヴィンたちは当然、それぞれの家に帰ると思っていたのだが、俺たちと同じ客棟の一階に部屋を用意されていた。
「てっきり、家に帰ると思ったんだけど」
「仕事中だからな。精霊王やお前の傍を離れるわけにはいかんだろ。俺たちはいちおう護衛でもあるんだから」
砕けた口調でケヴィンが話す。
「屋敷の警備は完璧なんだから、少しくらい離れても大丈夫だ。奥さんと子供に顔を見せておけよ。あと、バーニーが従者として良くやっているって話してやれよ。心配してるぞ、きっと」
「なんで、お前にそんな心配されなきゃなんないんだ……」
ケヴィンが頭を抱える。
その後ろにある窓から、庭で剣を振っているヴィンスが見えた。
ちょうどいいや、ヴィンスと話してこよう。
「いいな。アランたちみんなにも、夕飯くらい家に帰らせてやれ。明日の予定に差し障りがないなら、朝帰りでも大丈夫だから」
ケヴィンにそう言って、部屋から出て中庭に向かった。
◇
ヴィンスは一心不乱に剣を振っていた。
護衛の騎士たちはいないようだ。
声をかけるのも憚られたので、邪魔にならないように見学する。
やっぱり、すげーわ。
速さ、鋭さ、身のこなし。どれを取っても俺なんかよりはるかにすげえ。
多少鍛えたところで、俺じゃ、赤子の手を捻るより簡単に負けるだろうな。
「……なにか用ですか、魔剣使い殿」
鋭い視線を向けられる。
「悪い。邪魔をするつもりはなかったんだけどさ、お前と話をしたくて待っていたんだ」
「……そうだな。礼がまだだった。魔剣使い殿には世話になった。俺を術から解放してくれて感謝している」
そう言って、ヴィンスは頭を下げた。
「そして、簡単に、魔族どもの術にかかった俺など、六騎神の資格などないと言いたいのだろう? 悔しいが、魔族の企みを阻止している魔剣使い殿のほうがふさわしいと、俺も思う。だが、それでは俺の気がすまん。せめてこの旅で少しでも役に立って見せよう」
「いやいやいや、そんなこと思ってないから! 俺が聞きたいのは、アイリーンをどう思っているかとか、ラモーナとはどうするのかとか、そういうことだ。お前が六騎神として努力しているのは知っているし、きっとなれると思うから、諦めるな!」
なんか、すごく反省しているみたいだけど、そこまで思いつめなくていいと思う。
レックスを魔剣で突いたあとのことは知らないから、どうなるかわかっていなかったけど、ここまで正気になるのか?
魔剣すげぇ。
「魔剣使い殿は、嬉しいことを言ってくれる」
嬉しそうに、ヴィンスが少しだけ表情を緩ませた。
「だが、俺はラモーナを裏切った。アイリーン嬢にも申し訳が立たん」
あれ? そうでもない?
「えっと、アイリーンのことがまだ好きなのか?」
尋ねると、ヴィンスは少し考え込んで、慎重に答えた。
「……いや、好きとは違うような……。どうも放っておけん気がする。こう、なんというか……放置すればするほど厄介になりそうな、そんな予感だ」
「厄介? どういう意味だ」
「うむ。俺にもわからん。ただ、誰かが見張って繋ぎ止めておかねば、悪い方向へ突っ走るような……」
「……その役目を、お前がするのか?」
「そのほうがいいだろう。エリオット殿下やシミオンでは荷が重すぎる」
「じゃあ、ラモーナはどうするんだ」
「……彼女は強い女性だ。頭もいいから、説明すれば、理解してくれると思う。俺なんかにはもったいない女性だ。俺よりもっといい男がふさわしい」
「お前なぁ……!」
「へぇーえ。そんなこと思っていたのね」
冷たい声が聞こえた。
振り返ると、旅装姿のラモーナがそこにいた。
その後ろで、従者らしいものたちとセバスが深々と頭を下げている。
どうしてかラモーナも追いかけてきたようで、ここに案内したら、タイミングがすこぶる悪かったようだ。
「ら、ラモーナ……!」
ヴィンスがうろたえる。
「剣を構えなさい、ヴィンス・クリムゾン。貴方に決闘を申し込むわ!」
ヴィンスに剣を突きつけ、ラモーナが宣言した。
……情けない顔で、俺を見るなよ。
俺だって、どうしたらいいのかわかんないよ。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
評価ありがとうございます。
そして、1巻〜3巻発売中です。
コミカライズもよろしくお願いします。




