140 とある男爵令嬢の呟き その6
コミカライズの続報です。
【WEBコミックガンマぷらす】にて 9月11日から連載開始です。
また、活動報告にてコミカライズのチラ見せをしています。
ぜひ、ご覧ください。
140 とある男爵令嬢の呟き その6
「あー、もう! 嫌になっちゃう!」
寮部屋に帰って鞄を放り出すと、ベッドにダイブした。
「また公爵令嬢とやりあったんですか?」
だらしなく椅子に座っていたヴィオラが呆れている。
「そうよ。エリオットが用意してくれるはずだったドレスを、なぜかカトリーナが用意することになったのよ!」
「それはご愁傷さまです?」
一ミリも気にしていない様子で、欠伸をするヴィオラ。
イラッとするわね。
あんた、侍女の仕事をしているところを見たことないんだけど?
まぁ、洗濯とか掃除とか最低限のことはしてくれているから、マシだと思ってるけど。
でも、もう少しなんとかなんないかしら。
ああもう、ネイトがいてくれたらな。
細々と世話を焼いてくれるのに。
「少しくらい、侍女の仕事をしたら?」
「してますぅ。いまだって、ちゃんと、お嬢様のお話を聞いているじゃないですかー?」
「どうだか」
「あの公爵令嬢に邪魔されたんでしょう?」
「そうよ! まったく、あたしの邪魔するのもいい加減にしてほしいわね」
ヴィオラ、舌を出しているんじゃないわよ。
ちゃんと見えているんだからね。
「あーあ、ヴィンスもレックスも休学中だからつまんないなー。やっぱり六人ううん、八人みんな揃ってこそよね。……あれ? ひとり足りなくない?」
六騎神は、王太子のエリオット。宰相の息子、レックス。将軍の息子、ヴィンス。司祭の息子、シミオン。宮廷魔術省長官の息子、ルーク。百発百中タロット占いの……デューク。そして、隠れキャラのフレドリック。
おかしいわね。七人しか思い出せないんだけど。
指折り数えているその手を、ヴィオラがカップで遮った。
「お嬢様の勘違いじゃないですかー? ミルクでもどうぞー」
あら、気が利くじゃない。
でもさ、ミルクじゃなくて、ちゃんとお茶くらい淹れなさいよ。
「私としては、生まれる前のことを未だに覚えているってことが不思議ですけどねー」
「それが転生者ってものよ」
お約束だもんね。
「そうですか。忘れたほうがいいってのもあると思うんですけどねー。……数百年前のことなんか、いい加減忘れたいわよ……」
「なんか言った?」
「いいえ、なんでもありませーん」
飲み終わったカップを取られた。
「――ところでお嬢様。ヴィンス……様も休学されたのですか?」
なんでヴィンスのことを聞くのよ。
でもまぁ、いいわ。
「そうよ。昨日から休み。ラモーナも途中で帰ってったわ。ヴィンスを追いかけて行ったのよ。自分だけ抜け駆けするなんて、ひどくない!?」
「お嬢様がそれを言いますか……」
「ともかく、学園の中だけで勝負しなさいっての。学園外にはイベントでしか行けないだから、おとなしくしておきなさいよ!?」
「……それは『乙女ゲーム』のルールということですか?」
「そうよ!」
ヴィオラがなぜか考え込んだ。
そして、ブツブツと呟いている。
「……おかしいわね? 術が効いていない? レックスの動向を確認しにいったレイヴンからはなにも連絡がないわ。どうなっているの……?」
「ちょっと、あんた、なにをブツブツ言っているの? 気持ち悪いわよ?」
なのに、ヴィオラは返事もしないで、椅子に座り込んで考え込んでいる。
あたしのこと忘れているんじゃないでしょうね。
「ああもう、ご飯食べてくる!」
ヴィオラがちっとも動かないので、制服のまま寮の食堂へと向かった。
食事を終えて戻ったら、部屋にヴィオラがいなかった。
「ちょっ、ヴィオラ!? どこにいるのよ!」
探したけれど、どこにも見当たらない。
「にゃーん」
いつの間にか戻っていたトレヴァーが、机の上にあるメモを覗き込んでいた。
『出かけてきますー。数日はいないので、おひとりで頑張ってください』
はぁ!?
「なにを考えているの、ヴィオラは!?」
出かけるって、どこに!?
数日って、どれくらいよ!?
それになにより……。
「掃除は? 洗濯は? どうすんの!?」
あたし、魔導具の掃除機だって、洗濯機だって、使ったことないのよ。
――というか、前世だって家庭科の授業で少しやったくらいよ。いつもママがやってくれていたから、使い方なんて、知らないわよー!
ふと、トレヴァーと目が合った。
「……あんた、できる?」
「にゃ」
そっぽを向かれた。
「ああもう、ヴィオラの馬鹿ー! 助けて、ネイトー!」
洗濯してない服を着るのは嫌―!
誰か家事やってよー!
読んでくださって、ありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
評価ありがとうございます。
そして、1巻〜3巻発売中です。
コミカライズもよろしくお願いします。




