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139 とある公爵令嬢の呟き その14

コミカライズの続報です。

活動報告にてコミカライズのチラ見せをしています。

ぜひ、ご覧ください。


 139 とある公爵令嬢の呟き その14



 教室を出て、渡り廊下に差しかかったときだった。


「エリオットはさっき、誰のことを言おうとしていたんだろうね?」


 背後でフレドリックの声が聞こえたので、驚いて振り返ると彼がいた。


 私に付いてきたのだろうか。


 でも、なんで?


「カトリーナ嬢は知っているかい?」


 フレドリックは私の疑問なんかおかまいなしで、質問してくる。


 私はあたりを見回して、誰も傍にいないことを確認すると、小さな声で教えた。


「ウェンディ様です。ウェンディ・ゴルドバーグ嬢ですわ。私もお迎えするつもりでいました」


 するとフレドリックは本当に驚いた様子だった。


「……本当なのかい?」


「内緒ですよ?」


「誰にも言わないよ。――それより、君は大丈夫なのか?」


「大丈夫もなにも、私が後押ししましたから」


 再度、フレドリックが驚く。


「――どうして」


「たぶん、私じゃ支えきれないと思ったからです。私は愛されておりませんから」


「そんなことはない!」


 珍しくフレドリックが声を荒らげる。


「すまない」


 あたりを見回して、誰にも聞かれていないことを確認すると、フレドリックが謝罪した。


「だが、エリオットが君を愛していないなんてことはない。現に、いまさっきだって、君を頼っていただろう」


「はい。家族として愛されています。だから可愛い弟のために初恋を応援したいのですよ。私はエリオットのお姉ちゃんですから。――冗談ですよ?」


 慌てて付け足す。


 駄目だなぁ。なぜか、フレドリックにはつい正直に話してしまう。


 やっぱりエリオットのことだからかな。


 フレドリックは怖いくらいに私を凝視しながら聞いてくる。


「……エリオットはわかっているのか?」


「ええ、もちろん。私たちの秘密ですから。だから、王妃様には内緒でお願いしますね」


「つまり、君はエリオットの隣には立つけれど、そのウェンディ嬢にエリオットの心を任せるというのか?」


「そうなりますね」


 すると、フレドリックはなぜか柱に頭をつけて、ブツブツと呟きだした。


「……なんだよ、それは……。それなら、僕にくれたっていいだろうに……。そうすれば、実際に家族に、本当の――になるんだから……立場とか、そんなもの、まるっと無視してくれたっていいじゃないか……くそう」


 なんだろう。


 よく聞こえなかったけど、なにか、欲しいものがあったのだろうか?


 くれたっていいって、なにが欲しいんだろう。


 高価なものなのかな?


 庶子だから、お金がないって言ってたものね。


 私が支払えるものなら、プレゼントしてあげようかな。


 幸い、猫カフェのキャラ絵を描いているおかげで、お小遣いはたくさんあるもの。


 アイリーンのドレスを用意するついでに、買いに行けばいいし。


「あの、フレドリック様? なにかご入り用でしたら、ご用意致しますよ。もちろん、贈り物にさせていただきます」


「ああ、うん、悪かったね。そうじゃない、そうじゃないんだ」


 顔を手で覆って、私から視線をそらし、フレドリックが断る。


 でも、これだけ動揺するフレドリックは初めて見る。


 いつもは、完璧な笑顔で断るから、こっちが引き下がるしかないのに。


 どうも、様子が違う。


 大丈夫かな?


 ずっと、しっかりしているフレドリックなら大丈夫だって思っていたけど、フレドリックだって、お母さんのことでいろいろあるもんね。


 アイリーンに期待できない以上、フレドリックも助けないと。


 ごめんね、いままでエリオットばかりに構っていて。


 たとえ貴方がアイリーンを好きだったとしても、彼女なんか目じゃない素敵なお嬢さんを見つけてあげるから、待っていて。


 あの子、貴方を救う気なんて、ないみたいだもの。


「ですが、なにか欲しいものがあるのでしょう? そう聞こえましたが。ええと――もしかして、フレドリック様もアイリーン様にプレゼントをしたかったとか」


「それはない!」


 びっくりした。


 そうじゃないのはわかっていたけど、こんなに否定されるとは思ってなかった。


 目を丸くしていると、フレドリックが慌てて謝る。


「大声を出してすまない。そうじゃなくて……僕は、その、君に……」


「私に?」


 それきり、フレドリックは黙ったままだ。


 しかも、私をジッと見つめてくる。


 え? なに?


 急に真剣に見つめられると、困る。


 なんか、ドキドキするんだけど……。


 フレドリックの手が、ゆっくりと私の頬に近づいてくる。


 あれ。ちょっと、待って。


 なんか、いい雰囲気なんだけど。


 どうしたらいいの?


「フレドリック~! もう、こんな女と一緒に出て行くなんて、ひどい。せっかくの兄弟水入らずなんだから、こっちで私たちと話しましょうよ」


 教室から駆けてきたアイリーンが、フレドリックを呼びに来た。


「チィッ!」


 あれ? なんか、舌打ちが聞こえた気がした。


 フレドリックを見ると、完璧な笑顔でアイリーンを振り返っている。


 うん、幻聴だよね。


 フレドリックが舌打ちするはずないし。


 きっと、私がしたのだろう。


 覚えがないけど。


「アイリーン嬢。言葉遣いは丁寧にしたほうがいいよ。カトリーナ嬢は公爵令嬢なのだから」


 そうして、フレドリックはにこにこと笑いながら、アイリーンを上から覗き込む。


「わ、わかったわ」


 なぜかアイリーンは怯えたように、頷いた。


「じゃあね、カトリーナ嬢。先ほどの話は嬉しいけれど、僕に欲しいものはないから、忘れてくれないかな」


「……はい、わかりました」


 そう言うと、フレドリックはホッとした様子で、アイリーンとともに、エリオットの待つ教室へ戻っていった。


(ヤバかった――――――――――――!!)


 いやもう、マジで流されそうになった。


 あんなふうに、真剣な表情で見つめられたら、勘違いしてしまうよね。ほんと。


 でも、実際は髪にゴミが付いてたとか、そんな理由だろう。


 うん、知ってた。


 マンガでよくあるものね。


 あー、顔が熱いわ。


 間近で見たフレドリックは、やっぱり格好よかったもの。


(ダメダメ。気を引き締めないと。次の手を考えるのよ)


 ドキドキしてないで、能力値アップ以外の手段を見つけないと。


 さっさと帰って攻略ノートを虱潰しだ。


 あと、やっぱり、フレドリックにプレゼントを用意してあげよう。


 なにが欲しかったのかわからないけれど、きっとエリオットと仲よくなれるものがいいよね。


 お揃いのカフスとかどうだろう。タイピンもつけよう。


 ああ、なんか楽しくなってきた。


 ふたりに似合うものが見つかるといいな。



読んでくださって、ありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


そして、1巻〜3巻発売中です。

コミカライズもよろしくお願いします。


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【イケメンに転生したけど、チートはできませんでした。】
第1巻2018/12/17発売
第2巻2019/08/31発売
第3巻2020/06/18発売
コミカライズ【WEBコミックガンマぷらす】
1巻2021/04/30発売
2巻2021/07/26発売
3巻2021/12/23発売
― 新着の感想 ―
[一言] 以前、それぞれも戦っています、という後書きがくっきりとしてきました。彼らが培ってきたものは、まやかしなどで消える程ヤワではない。
[一言] めっちゃ面白い! 是非、カトリーヌにも幸せになってほしいです! みんな、記憶がおかしくなっていても感覚として知り合いだったことを感じれるところ、大好きです!
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