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136 とある庶子の王子の呟き その5

コミカライズが決まりました! ヽ(´▽`)/

詳細はまだなのですが、随時お知らせしていきます。



136 とある庶子の王子の呟き その5



 門限ギリギリに学園寮に帰ると、寮長に珍しいなと驚かれてしまった。


 王城に行っていたと話すと、納得してくれた。


 とりあえず形だけの注意を受けて、部屋に戻る。


 扉を閉めたとたん、深く息を吐いたのはようやく安心できる場所に戻れたからだろうか。


 よほど緊張していたらしい。


 それに、思いがけない人にも会ったからな。


 椅子に座る気になれず、ベッドに寝転んで、王妃様の言葉を思い出す。


 エリオットをどうにかして助けろという話だったが、いまのエリオットが僕の話を聞くかどうかわからない。


「……あの娘に関わりないことなら、まだ話はできそうなんだけどね……」


 アイリーンに対するエリオットの態度は日に日に酷くなっている。


 傍にいるルークたちもそうだ。


 恋は盲目とは言うけれど、アイリーンに従順な態度を取るのは恋とは言えないだろう。


 僕もそうだったのだろうか。


 テオを旅に出してから気をつけてはいたけれど、アイリーンに甘かったのは否めない。


 いくつか起きた問題を、不問にしたことがあるのは自覚している。


 まぁ、本当に些細な問題だったから、不問にしても大丈夫だったけれど。


 アイリーンがエリオットたちにつきまとって、シェリー嬢たちと揉めるのは日常茶飯事になっていたし。


 でも、生徒会長として取るべき行動でなかったのは事実だろう。


 それがどうだ。


 あの魔剣に触れたとたん、アイリーンを擁護しようなんて気持ちは微塵もなくなった。


 僕でさえこれだ。


 四六時中、あのアイリーンと一緒にいるエリオットたちは、いったいどうなっているのだろう。


「……先に、魔剣に触れさせるべきだったか……?」


 テオが王都を離れる前に、彼らを集めて魔剣に触れさせてもよかったのではないか。


 だが、魔素溜まりも猶予がない。


 ゴルドバーグ侯爵には、一刻も早い対処が必要だと聞かされた。


 でも、あのゴルドバーグ侯爵なら、魔剣でエリオットたちを正気に戻すことも考えたはずだ。


 そのうえで、魔素溜まりを先に消滅させることを優先したのだとしたら?


 エリオットたちを正気に戻すことで、魔族側にこちらの動きを察知されたくなかったとしたら?


「……さすがに可哀想かな。それは……」


 でも、ありうる。


 まだ彼らに命の危険はないが、魔素溜まり周囲では異常が発生しており、周辺住民の生活が脅かされつつある。


 為政者として、取るべき行動は絞られるだろう。


「……敵わないな……」


 まだまだ、なにもかもが及ばない。


 一体いつになったら、一人前として認められるのか。


 さっさと独立して、王宮から出たい。


 溜息を吐いていると、窓の外からカリカリと音がした。


 見ると、ブタ猫が覗いている。


 テオやジンが出発したので、約束どおり学園に来たのだろう。


 まさか本当に、ただの猫が話を理解していたとはね。


 それに、律儀にここへ来るとは思ってなかった。


 猫とはいえ、あの精霊王と話ができるのだから、不思議ではないかもしれない。


 窓を開けてやると、ブタ猫はするりと入ってきた。


 そして、ベッドの上で丸くなる。


「……そこは、僕の寝床なんだけど?」


「ぶみゃ」


 気にするなと、尻尾だけを揺らし、ブタ猫は動こうとしなかった。


 洗濯物を入れる籠に毛布を敷いて、部屋の隅に置く。


「悪いけど、あれを寝床にしてくれないかな?」


「……ぶみゃぁ」


 ブタ猫は渋々立ち上がって、のろのろと洗濯籠の中へ入り、前脚で器用に毛布を整えてから再び丸くなった。


「それで、君はどんな役に立つのかな?」


 ジンが役に立つと言ったのだ、なにかあるだろう。


「……くあぁぁ……」


 だが、ブタ猫は大きな欠伸をして、再び丸くなった。


「……仕事をする気はないということかな?」


 もちろん、とでも言うように、尻尾が揺れた。


「気ままでいいな、君は」


 少し乱暴に頭を撫でてやる。


 もふもふの感触に、少しだけささくれ立っていた気持ちが和らいだ。


 少し羨ましい。



 ◇



 この頃、セレンディア学園の雰囲気が悪くなっているのはわかっていた。


 生徒たちはもちろん、先生方もギスギスした雰囲気が漂っている。


 まだ目立ってきてはいないが、アイリーンとシェリー嬢たち対立のほかにも、諍いも多くなってきた。


 生徒会長として見逃してきたのは、僕の失態だ。


 王妃様は、これも指摘したかったのだろう。


 なるべく穏便に事が収まるよう動き出すと、すぐに事態は収まるようになった。


 まだ、影響は少ないようだ。


 そんななか、ミュリエル嬢の素行が悪いという噂も流れてきた。


 なんでも、平民の男性と恋人たちの泉で逢い引きしていたらしい。


 もちろん、ただの噂だとわかっている。


 その相手本人――テオとジンから状況を聞いたからだ。


 テオからは、自分が王都にいない間、くれぐれもミュリエル嬢を頼むと言われている。


 だが、陰口を叩いている者たちは執拗に広めていたため、教師からも問題視されつつあった。


 なので、ミュリエル嬢と、その噂を広めていたクラスメイトたちを生徒会室に呼び出した。


 教師とその証人の生徒たち、僕ら生徒会役員たちに囲まれて、ミュリエル嬢が部屋の中心に立たされた。



「――以上が、私たちが見たすべてですわ」


 勝ち誇った様子で令嬢が話す。


「――ミュリエル嬢、反論は?」


 僕が聞くと、ミュリエル嬢は落ち着いた様子で説明した。


「……その男性に、言い寄られたのも、暴漢から助けていただいたのも事実です。ですが、私から近寄ったり、ましてや腕を組んだりなどはしておりません」


「まぁ! 私たちが嘘をついていると仰るの!?」


「楽しそうにお話しされていたではありませんか」


「あんなに親密にされていたくせに……名前まで聞いていたではないですか。たかが平民に対して」


 すると、令嬢たちは口々にミュリエル嬢を責め立てる。


「違います! あれはあの方が勝手に……」


「まぁ! あの方ですって!?」


「いやだわ、汚らわしい」


「婚約者がおられるというのに、ほかの男性とデートしていることを開き直るなんて、なんて、ずうずうしいのでしょう」


 ミュリエル嬢の反論を遮り、令嬢たちがわめきたてる。


 一方で、教師たちや生徒会メンバーの表情は固かった。


 これは、令嬢たちの言い分が通りそうだな。


 ミュリエル嬢の心証は、ずいぶん悪いようだ。


 令嬢たちの話は事実も半分混じっているのだろう。


 そのせいで、ミュリエル嬢がはっきりと反論できないぶん、周囲の印象はミュリエル嬢に非があるように思えた。


「とにかく、その男性にも話を聞く必要があると思う」


 僕は溜め息をつきながら、提案した。


 ミュリエル嬢に反論ができるとしたら、そのくらいだろう。


「その男性の名前を教えてくれるかな? 確か、聞いたんだよね」


「は、はい。テオドールと名乗られていました」


 令嬢たちを見る。


「そのような名だったはずですわ。そうそう、能天気で間抜けそうな顔でしたわ」


「まぁ、そんな、本当のことを仰っては可哀想ですわ」


「ですが、そうとしか言えないですものね。熱烈に告白なさっていましたもの」


 そうか。間違いないな。


「……短い金髪で、琥珀色の瞳の?」


「ええ。――ひょっとしてご存知なのですか?」


 僕の質問で気づいたのか、ミュリエル嬢が尋ねた。


「……その男は僕の従者だよ。いちおう、その従者から報告を受けている。ミュリエル嬢、君が暴漢に絡まれたことも、その暴漢たちを衛兵に突き出したこともね。僕の友人である君が、ひとりでいたので、心配になって声をかけたようだね。最近の町は少し治安が悪くなっているから」


 すると令嬢たちの顔が青くなった。


 僕は気づかないふりをして、彼女たちに聞いた。


「暴漢たちは依頼されてミュリエル嬢に声をかけたと言っていたらしい。誰に依頼されたのかと問いただすと、なんと、君たちの従者と同じ名前だったんだ。どういうことかな?」


「な、なな、なんのことか、わかりませんわ」


「そ、そうですわ、私たちには覚えがありません。た、たまたま同じ名前だったのではなくて?」


「そ、そうよ! よくある名前でしょう。言いがかりはやめてくださいな」


 あからさまに令嬢たちが動揺している。


 そのお陰で、ミュリエル嬢に対する教師や生徒会メンバーの印象は、少しマシになったようだ。


「その暴漢とは無関係なんだね」


「「「もちろんですわ!」」」


 令嬢たちが声を揃えて否定したので、ここまでにしておこう。


「では、君たちが見たと言う、ミュリエル嬢が異性と逢引していたという状況は、実は、僕の従者が声をかけていただけだと、理解してもらえるかな?」


「……それにしては、あまりにも親密に見えましたけれど……」


 けれど、足掻くように令嬢のひとりが呟く。


「そうかい? でもミュリエル嬢は断ったのだろう?」


「はい。……ですが……」


「根拠のない噂話はいけないな。君たちだって暴漢を嗾けた卑怯者だなんて噂が立ってしまったら困るだろう?」


 そう言うと、令嬢は慌てて同意した。


「そ、そうですわね。噂話はよくありませんわね」


「ええ」


「本当に」


「では、ミュリエル嬢の素行が悪いなんて、君たちの勘違いだったんだね」


 念を押すと、令嬢たちは渋々頷いた。


「……ええ」


「誤解が解けてよかった。今後は気をつけて欲しいな」


「……わかりましたわ」


 悔しそうな表情をどうにか繕った令嬢たちは、退出した。


「ミュリエル嬢」


「はい」


「君も、今後は誤解を招くような行為は慎むように」


「はい。誤解を解いてくださって、ありがとうございました。今後は気をつけます」


 一礼して、ミュリエル嬢も退出する。


「……貸しふたつ」


 このぶんだと、もう少し、彼をこき使ってもいいかもしれないな。


「会長、なにか仰られましたか?」


「いいや、なんでもないよ。それより、学園内ではこういった小さな諍いが多いなと思ったんだ。多くはちょっとした誤解からきているようだけど……。大きくなる前にひとつひとつ潰すしかないかな……?」


 僕の言葉に、教師も生徒会メンバーも、顔が引きつった。


 調整の大変さを理解しているからだ。


 わかっているよ。


 でも、放っておくほうが、あとあとしんどそうだ。


 いまなら少しの調整で事態の収拾はついている。


 だが、ジンの話では、生徒たちが魔素に侵されているとも言っていた。


 学園で揉め事が多いのも、そのせいかもしれない。


 だとしたら、放置しておくのはまずいだろう。


「悪いけど、頼むよ。みんなで一緒に頑張ろう」


 不安な表情を見せながらも、みんな頷いてくれた。


 これなら、まだ大丈夫だ。


 だけど、応急手当でしかないことに、変わりない。


 切り札がひとつしかないのは、痛いな。


 急げよ、テオ。


読んでくださって、ありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


前書きでもお知らせしましたが、コミカライズが決定しました。

詳細が分かり次第、随時ツイッターなどでお知らせしていきます。


そして、1巻〜3巻発売中です。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コミカライズのお話おめでとうございます!今から楽しみです [一言] フレドリックも陰に日向に苦労が多いね 猫で癒されてくれ…
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