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131 同行者は騒がしい

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3巻発売中です。

電子書籍3巻は、6月26日配信予定です。

よろしくお願いします。


131 同行者は騒がしい



 そんなわけで、俺は再び旅に出ることになった。


 行き先は、ゴルドバーグ領だ。


 ケヴィンたちと一緒に行くことになったので、久々に王都のゴルドバーグ邸に足を踏み入れた。


 もちろん、裏口からなんだけど。


 案内された厩舎の前では、旅の準備のために厩番たちが走り回っていた。


 馬には鞍や荷物が載せられている。


 ちなみに、好きな馬を選んでいいと言われたので、俺の愛馬を選んでおいた。


 ケヴィンにも厩番にも怪訝な顔をされたが、なにも言われなかった。


 馬が嬉しそうに、鼻面を俺に押しつけていたせいかもしれない。


 人間の方は俺を忘れているようだけど、『猫御殿』の猫たちといい、馬といい、動物は俺のことを覚えてくれているようだった。


 それが、とても嬉しい。


「ありがとな。俺を覚えていてくれて」


 鼻面を撫でながら、小さく礼を言うと、馬は嘶いて答えてくれた。


 そして、準備をしているなかに、なぜか馬車も用意されていた。


「なぁ、なんで馬車が必要なんだ?」


 俺は乗れるし、この前の相談で、ジンに確認したところ、大丈夫だと言っていたはずだ。


 そもそも、行くのはケヴィン小隊の面子だけだと聞いていたんだけど。


「ああ。馬に乗れない人が来るんだ」


 ケヴィンに聞くと、そんな答えが返ってきた。


「事後報告になって悪かった。急遽、決まってな。今回の調査に同行させてほしいと無理に頼まれたそうで、侯爵は断れなかったそうだ」


 父上が断れない相手って、誰だろうな?


 無理を言いそうな人間には、数人、心当たりがある。


「やあ、こんにちは。今回はよろしく頼むよ」


 その心当たりの筆頭が、能天気な挨拶とともにやってきた。


「やっぱり、ベイツかよ。いやまぁ、こいつなら馬車には乗れなさそうなのもわかる」


 呟くと、ケヴィンに挨拶していたベイツが、なんか変な顔をして俺を凝視した。


 いや、近い近い近い!


「……君、俺とどこかで会ったかい?」


「まぁ、小さい頃から、ずいぶん世話になってるし?」


 正直に答えると、ベイツは怪訝な表情をして、考え込んだ。


「……俺にはこの青年と会った覚えはない。だが、この青年の態度は友好的だ。しかも、長年の友達のような気安さだ。友人の少ない俺が、初対面の相手に対し、緊張もしていない。……ひょっとして、聖女祭のあとからつきまとう違和感はこれか……?」


 相変わらず、気になることがあったら周りを気にせずに考え込むなぁ。


 というか、友人が少ないのは知っているけど、誰が初対面で緊張するって?


 お前、俺と初めて会ったとき、矢継ぎ早に話しかけてきたじゃないか。


「ともかく、よろしく頼むよ。……ええと、悪いが、君の名前を教えてくれないか? 君は俺の友達だと思うのだけれど、名前が思い出せなくてね」


 ほら、相変わらず図太いじゃないか。


 だけど、ベイツの友達宣言はめっちゃ嬉しくて、つい、差し出された手を握り返す。


「テオドールだ。こっちの無愛想なのが、ジン。こちらこそ、よろしく頼むな」


 ついでに、ジンも紹介しておいた。


「ひょっとして、彼が精霊王かい? そうか。そうすると、君が魔剣使いだね!」


 目をキラキラさせて、ベイツがジンを見つめる。


「寄るな、気持ち悪い」


「いやいや、ぜひとも友達になろうじゃないか。そして、俺の質問に答えてくれるだけでいいんだ」


「近づくなと言っている!」


 ジンが逃げ回る。


 ベイツが追いかけるが、運動不足なのか、すぐにへばった。


「おい、なんなんだ、あれは」


 俺の後ろに隠れながら、ジンがベイツを示す。


「なんだと言われても……変人だけど、魔導具研究の第一人者?」


「なぜ、そこで肩書きのほうが疑問形なんだ、友よ!」


「だって、変人なのは事実だろうが!」


「失礼な! 俺は変人じゃないぞ、友よ! ただ、精霊王と触れ合いたいだけだ!」


「だから、隙あらば僕に触れようとするな!」


 俺を挟んで、ベイツがジンを追いかけ回している。


 いい加減にしろよ。


「……まぁ、お互い打ち解けたってことで。旅の間は、その追いかけっこは控えてくださいよ」


 ケヴィンが頭を掻きながら、ベイツに忠告するが、期待はしていないようだった。


 うん、ベイツは人の話を聞かないもんな。



 ◇



 ふと気配を感じて見ると、厩舎の影から少年ふたりが覗いていた。


 嬉しくなって、手招きすると、少年たちはこそっと近づいてきた。


 弟のチェスターと、従者であるケヴィンの息子、バーニーだ。


「どうした? 気になったか?」


「うん。そうだよ、お兄さん。僕たちが領都へ帰るときみたいだね。どこかへ出かけるの?」


 チェスターが尋ねた。


「お察しのとおり、ゴルドバーグ領都だ。ケヴィン小隊と、俺たちに、ベイツで行ってくる。結構かかるからな。準備はちゃんとしておかないと」


「ふぅん、そうなんだ。ところでお兄さん」


「なんだ?」


「あのね、そうやって、行動するのがいい結果をもたらすんだって。お兄さんにも、僕らにも」


 チェスターがカードを見せてくれる。


 兵士が武装した馬車――これは戦車かな? ――に乗っている絵が描かれてあった。


「そうか、ありがとな。お前の占いはよく当たるから、助かる。以前の占いも、お陰で絶望せずにすんだ。感謝している」


「……役に立ったのなら、よかった。……ところで、僕、お兄さんと会ったことあるの?」


「あるな。というか、お前が生まれたときから会ってるよ」


 するとチェスターは少し考えて、カードをいじりはじめた。


「……家族……?」


 嬉しいことを呟いてくれる。


「おう。お前の兄さんだ。そのうちちゃんとわかるようにしてやるから、待ってろ。その間、母上とキャロルを頼むぞ。ウェンディはリチャードが守るから大丈夫だ」


「……うん。よくわからないけど、わかった」


 いい子だ。


 チェスターの頭を撫でていると、急にあたりが騒がしくなった。


 父上と、クリムゾン将軍が現れたのだ。


読んでくださって、ありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


3巻、発売中です。

電子書籍は、6月26日配信予定です。

よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 誤脱無し。お見事です(まずチェックしてしまうのは校正者の本能なのでご勘弁を) チェスターくん、実に良いタイミング……彼の素直さと勘の良さに思わずうるうる(笑) [一言] 3巻末以降、ここ…
[一言] 手紙やら資料やらの名義が変わって無いだろうに誰もまともに気付かないのが凄いよね。
[一言] 弟君ええ子やね… 一部の人だけでもテオドールに好意的なのは救われた気分
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