131 同行者は騒がしい
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131 同行者は騒がしい
そんなわけで、俺は再び旅に出ることになった。
行き先は、ゴルドバーグ領だ。
ケヴィンたちと一緒に行くことになったので、久々に王都のゴルドバーグ邸に足を踏み入れた。
もちろん、裏口からなんだけど。
案内された厩舎の前では、旅の準備のために厩番たちが走り回っていた。
馬には鞍や荷物が載せられている。
ちなみに、好きな馬を選んでいいと言われたので、俺の愛馬を選んでおいた。
ケヴィンにも厩番にも怪訝な顔をされたが、なにも言われなかった。
馬が嬉しそうに、鼻面を俺に押しつけていたせいかもしれない。
人間の方は俺を忘れているようだけど、『猫御殿』の猫たちといい、馬といい、動物は俺のことを覚えてくれているようだった。
それが、とても嬉しい。
「ありがとな。俺を覚えていてくれて」
鼻面を撫でながら、小さく礼を言うと、馬は嘶いて答えてくれた。
そして、準備をしているなかに、なぜか馬車も用意されていた。
「なぁ、なんで馬車が必要なんだ?」
俺は乗れるし、この前の相談で、ジンに確認したところ、大丈夫だと言っていたはずだ。
そもそも、行くのはケヴィン小隊の面子だけだと聞いていたんだけど。
「ああ。馬に乗れない人が来るんだ」
ケヴィンに聞くと、そんな答えが返ってきた。
「事後報告になって悪かった。急遽、決まってな。今回の調査に同行させてほしいと無理に頼まれたそうで、侯爵は断れなかったそうだ」
父上が断れない相手って、誰だろうな?
無理を言いそうな人間には、数人、心当たりがある。
「やあ、こんにちは。今回はよろしく頼むよ」
その心当たりの筆頭が、能天気な挨拶とともにやってきた。
「やっぱり、ベイツかよ。いやまぁ、こいつなら馬車には乗れなさそうなのもわかる」
呟くと、ケヴィンに挨拶していたベイツが、なんか変な顔をして俺を凝視した。
いや、近い近い近い!
「……君、俺とどこかで会ったかい?」
「まぁ、小さい頃から、ずいぶん世話になってるし?」
正直に答えると、ベイツは怪訝な表情をして、考え込んだ。
「……俺にはこの青年と会った覚えはない。だが、この青年の態度は友好的だ。しかも、長年の友達のような気安さだ。友人の少ない俺が、初対面の相手に対し、緊張もしていない。……ひょっとして、聖女祭のあとからつきまとう違和感はこれか……?」
相変わらず、気になることがあったら周りを気にせずに考え込むなぁ。
というか、友人が少ないのは知っているけど、誰が初対面で緊張するって?
お前、俺と初めて会ったとき、矢継ぎ早に話しかけてきたじゃないか。
「ともかく、よろしく頼むよ。……ええと、悪いが、君の名前を教えてくれないか? 君は俺の友達だと思うのだけれど、名前が思い出せなくてね」
ほら、相変わらず図太いじゃないか。
だけど、ベイツの友達宣言はめっちゃ嬉しくて、つい、差し出された手を握り返す。
「テオドールだ。こっちの無愛想なのが、ジン。こちらこそ、よろしく頼むな」
ついでに、ジンも紹介しておいた。
「ひょっとして、彼が精霊王かい? そうか。そうすると、君が魔剣使いだね!」
目をキラキラさせて、ベイツがジンを見つめる。
「寄るな、気持ち悪い」
「いやいや、ぜひとも友達になろうじゃないか。そして、俺の質問に答えてくれるだけでいいんだ」
「近づくなと言っている!」
ジンが逃げ回る。
ベイツが追いかけるが、運動不足なのか、すぐにへばった。
「おい、なんなんだ、あれは」
俺の後ろに隠れながら、ジンがベイツを示す。
「なんだと言われても……変人だけど、魔導具研究の第一人者?」
「なぜ、そこで肩書きのほうが疑問形なんだ、友よ!」
「だって、変人なのは事実だろうが!」
「失礼な! 俺は変人じゃないぞ、友よ! ただ、精霊王と触れ合いたいだけだ!」
「だから、隙あらば僕に触れようとするな!」
俺を挟んで、ベイツがジンを追いかけ回している。
いい加減にしろよ。
「……まぁ、お互い打ち解けたってことで。旅の間は、その追いかけっこは控えてくださいよ」
ケヴィンが頭を掻きながら、ベイツに忠告するが、期待はしていないようだった。
うん、ベイツは人の話を聞かないもんな。
◇
ふと気配を感じて見ると、厩舎の影から少年ふたりが覗いていた。
嬉しくなって、手招きすると、少年たちはこそっと近づいてきた。
弟のチェスターと、従者であるケヴィンの息子、バーニーだ。
「どうした? 気になったか?」
「うん。そうだよ、お兄さん。僕たちが領都へ帰るときみたいだね。どこかへ出かけるの?」
チェスターが尋ねた。
「お察しのとおり、ゴルドバーグ領都だ。ケヴィン小隊と、俺たちに、ベイツで行ってくる。結構かかるからな。準備はちゃんとしておかないと」
「ふぅん、そうなんだ。ところでお兄さん」
「なんだ?」
「あのね、そうやって、行動するのがいい結果をもたらすんだって。お兄さんにも、僕らにも」
チェスターがカードを見せてくれる。
兵士が武装した馬車――これは戦車かな? ――に乗っている絵が描かれてあった。
「そうか、ありがとな。お前の占いはよく当たるから、助かる。以前の占いも、お陰で絶望せずにすんだ。感謝している」
「……役に立ったのなら、よかった。……ところで、僕、お兄さんと会ったことあるの?」
「あるな。というか、お前が生まれたときから会ってるよ」
するとチェスターは少し考えて、カードをいじりはじめた。
「……家族……?」
嬉しいことを呟いてくれる。
「おう。お前の兄さんだ。そのうちちゃんとわかるようにしてやるから、待ってろ。その間、母上とキャロルを頼むぞ。ウェンディはリチャードが守るから大丈夫だ」
「……うん。よくわからないけど、わかった」
いい子だ。
チェスターの頭を撫でていると、急にあたりが騒がしくなった。
父上と、クリムゾン将軍が現れたのだ。
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