130 交渉は終わってた?
宣伝です。
3巻は6月18日発売です。
よろしくお願いします。
130 交渉は終わってた?
「では、私はお店の手伝いをしておりますので、なにかありましたらお呼びください」
パフェと追加のポットを持ってきたリチャードは、それらをテーブルに置くとすぐに部屋の外に出て行った。
最初から、自分が話に加われるとは思ってなかったらしい。
さすがリチャードだな。
「では、テオ。改めて報告を聞こうか」
フレドリックに促されて、俺は順番に話し始めた。
ブラッドの隠れ里へ行って、そこでジンと出会ったことや、レイヴンに襲われたことなどを説明した。
レイヴンが先代巫女の弟だと話したとき、フレドリックの顔色が一瞬だけ変わったけれど、それだけだった。
「魔素ねぇ……。そんな恐ろしいものだったとは知らなかったぜ」
ケヴィンが呟く。
そうだよな。
魔素は魔力の素だとは聞くけど、それが蓄積されたら魔族に変わる可能性があるなんて、信じられないよな。
俺も、あの濃い魔素の中を歩かなければ信じられなかったと思う。
「テオ。君の話を纏めると、〝黒い稲妻〟は魔族側の結界が行使された証で、それが落ちた場所には魔素溜まりができている可能性が高い。そしてそこには、その地において、重要ななにかを利用されているということか」
「たぶん。で、この魔剣で壊すことができると思う」
魔剣を鞘ごとテーブルの上に載せる。
フレドリックは触ろうとして、やめた。
「……触れないほうがいいんだろうね、こういうのは。手を近づけるだけで反発するような代物みたいだから」
魔剣から漏れ出る威圧のようなものを感じたらしい。
「触っても大丈夫だぞ。俺としては、触ってほしい。むしろ、柄で額を触らせてくれ」
「触れたら、燃やしていた」
俺がフォローしたというのに、ジンが冷たく言い放つ。
こいつは……。
「お前なぁ……。フレドリックは王族だけど、いい奴なんだから、そういう脅し方はやめろよ」
「いい奴だろうと、王族だろう。それに、里の一族でもある。僕が遠慮する理由はないね」
だから、爆弾を放り込むな。
幸い、フレドリックもケヴィンも大人だから、スルーしてくれているけど、そういう心臓に悪い話題はやめろ。
「ぶみゃぁ」
「痛いな、君は! 爪を立てるんじゃない! わかってる、協力はするさ」
はは、ジンの奴、ブタ猫に諭されてやんの。
「とりあえず、触っていいのか、駄目なのか、どっちなんですかね」
「ジンの冗談だから、触っていい。だけど、抜いたら駄目だ」
俺がそう言うと、ケヴィンは素直に柄を握った。
同時に、パリッと静電気のような光が走ったので、慌てて離していた。
「……こりゃあ……。なんか、頭の中の靄が少し晴れたような感じ……ですかね?」
魔剣に触れた手のひらを確かめながら、首を傾げてケヴィンが呟く。
「ふぅん。――見たところ、害はないようだね」
そうしてフレドリックも触れて、すぐに離した。
「なるほど。……抵抗力が少し増すような感じだけれど、まだまだといったところかな?」
意味深に俺を見る。
事情をわかっているフレドリックでも、まだ俺を思い出せないようだ。
「なら、これはどうかな」
と、フレドリックは、自分で額に魔剣の柄をくっつけた。
「……変わらないね。手で触れるより、効果もないようだ」
え……? レックスは気絶するほど効果があったのに?
フレドリックの言葉に驚いてジンを見ると、
「こいつは六騎神の対象じゃなかったんだろ」
あっさり答えた。
「――そうか、サディアスの予想では、六騎神の愛情をほかに向けさせて、聖女の装飾品の復活を阻止するとかなんとかって言ってたな……」
レックスはその術をかけられていて、そっちの術だけ解けたということか?
そして、フレドリックたちは、少しだけ術の抵抗力が上がるけれど、俺を思い出すことはできないと。
……やっぱり一朝一夕にはいかないようだ。
「まぁ、なんとなく事情はわかりました。なんにせよ、対抗手段があるってのは、ありがたいことです。手詰まりかと思っていたんで」
ケヴィンがホッとした表情を見せた。
「では、今度はこっちの番ですね。その魔素溜まりに該当しそうな場所に、心当たりがあります」
「もう、見つけていたのか」
さすがケヴィン。仕事が早い。
「俺もゴルドバーグ卿から命を受けてまして。領内に落ちた〝黒い稲妻〟の調査のために、ゴルドバーグ領内に戻ってたんですが……ありゃ、魔素溜まりって言葉じゃ到底追いつかないくらいの場所でした。――瘴気と言っていいくらいだ。常人があの場所へ踏み込むのはかなり難しい」
「あー、かなりキッツいもんな、あれ。俺も魔剣がなかったら、歩けなかったと思う」
しみじみ呟くと、ケヴィンが苦笑した。
「ここだけの話、アレを祓うことは神殿の神官でも無理だったんです。少なくとも、ゴルドバーグ領の神官には無理だった。あの白い柱の光はゴルドバーグ領都の神殿から出たらしいのですが、その原因もわからないようでして……。それでゴルドバーク卿と相談をしたところ、王都の大神殿から派遣してもらおうかという話になりました。それ以外、あれを祓う方法はないと思ってたんですがね……」
チラリと俺を見る。
「まさか、その対抗できる者が、こんな膝下に居候してるなんて、思ってもみなかったですぜ」
ふふーん。褒めていいぞ。
これも俺が隠れ里へ真っ先に行ったお陰だよな。
「自慢げにしているんじゃないよ。僕の命令を無視したことは違いないんだからね」
フレドリックが口を尖らせる。
「だけど、君が解決の糸口を見つけてきたことは確かだし、そのことは不問にしておくよ」
「やった!」
「これから君も大変だろうしね」
ん? 大変?
「じゃあ、貸し出してもらえるんですね」
「ああ。これで成果が出れば、ほかの領へも派遣することになるだろう。そのあたりのことも含めてゴルドバーグ卿と話を詰めておきたいな。頼めるかい?」
「そりゃ、もちろん。いやぁ、助かりました。思わぬところで手段が見つかってよかったです」
よくわからないうちに、フレドリックとケヴィンの交渉が始まって終わったっぽい。
なんだったんだ?
「それと、ジン。君にひとつ、聞いておきたいんだけど、いいかな?」
首を傾げている俺を横目に、フレドリックはジンに質問した。
「聞きたくないけど、なんだ」
「時間はどれくらいの猶予があるのか、わかるかい?」
「……中心であるここ王都――いや、学園が汚染されるまで……か?」
なぜそこでブタ猫に聞くんだ。
「ぶみゃぁ」
肯定するように、ブタ猫が鳴いた。
「――なるべく早いほうがいいようだ」
「……わかった。君もよろしく頼むよ。テオと共に行って欲しい」
「なんで、僕が」
フレドリックが頼んだが、ジンは拒んだ。
だが、ブタ猫が怒って爪を立てる。
「ぶみゃっ」
「わかった、わかった。だったら、君も働けばいいだろ。おい、王子。お前、この猫を学園に持って行け」
「はぁ?」
「ぶみゃあっ!?」
わけのわからないことを言い出すジンに、フレドリックが呆けた返事をした。
ブタ猫も驚いている。
「役に立つぞ、たぶん」
満面の笑みで、ジンが言い放つ。
いや、プルプル震えているぞ、ブタ猫。
「頑張るんだよな?」
嫌みったらしい笑顔で、ジンが言い放つ。
脅迫かよ。
「ぶ、ぶみゃぁ……?」
首を傾げるな。
「生憎、学園寮はペット禁止なんだ。悪いけど、連れて行けないよ」
フレドリックが断ると、ジンが舌打ちをし、ブタ猫はあからさまにホッとした様子だった。
「でも、迷い込んでくるのは、止められないからね。それならいいんじゃないかな」
自分で来いということだった。
「よかったな」
「ぶ、ぶみゃぁ……」
ジンが満面の笑みでブタ猫を見る。
ブタ猫は観念した様子だった。
読んでくださって、ありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
評価ありがとうございます。
いよいよ今週木曜日6月18日に、3巻が発売されます。
でも、地方は遅れると思うので、のんびりお買い求めください。
よろしくお願いします。




