122 デレは気づいたものが勝つ
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2巻発売中です。書籍、電子書籍ともによろしくお願いします。
122 デレは気づいたものが勝つ
亡霊が消えた岩の周辺は、嘘のように魔素がなくなっていた。
あれだけ息苦しかったのに、いまはもうなんともない。
心なしか、森まで生き生きとしているように思えた。
「テオ、無事か。無事だな。危険な目に遭わせてしまい、すまなかった」
駆け寄ってきたレックスが、怪我などないかと心配してくれた。
「だが、貴様のお陰でこの場が浄化されたことには感謝している。フレドリック殿下にも貴様がおおいに役立ったと伝えておこう」
レックスは喜んでいるが、俺は少し複雑だった。
結界の一部を壊したのに、レックスは俺を思い出してくれていないからだ。
やっぱり、全部をぶっ壊さないとダメなんだろうか。
それとも、この結界は記憶を失うこととは別の結界なんだろうか。
そういや、そもそも、この結界や〝黒い稲妻〟のことは、なにもわかっていなかった。
事情を知るはずのレイヴンは死んでしまったし、ドナやダンたちが魔族側の思惑なんて知っているはずもない。
くそう、ここまで来て手詰まりかよ。
「どうした? 浮かない顔だが、まだなにか懸念すべきことでもあるのか?」
「いや、その……思い出してもらえないんだなと……」
「なにを……うっ……」
レックスが頭を押さえて呻く。
「……貴様……ひょっとして、私が幼い頃に会ったことがあるか?」
「おう、あるぞ! 一緒に勉強会もしたしな!」
「それはない。……いや、勉強会に来ていたフレドリック殿下の供で来ていたか……?」
勢い込んで答えたけれど、すぐさま否定された。
でもさ、すごい進歩じゃね? 勉強会でフレドリックのお供として会ったことがあるかもって、思ってくれたんだしさ。
この調子で、ほかの〝黒い稲妻〟が落ちた場所――魔族の魔法陣の頂点を壊していけば、みんなの記憶が戻るかもしれない。
そうすれば、またミュリエルとデートができるはずだ。
よーし。俄然、やる気が出てきたぞ!
「……そう上手くいくといいがな」
ジンが不安なことを呟く。どうしてそう、水を差すんだ、お前は。
「思った以上に、デュークの術が強いなと思っただけだ。お前が誰に忘れ去られようと、僕には関係ないし」
そう言って、ジンは考え込む。
そういう奴だよ、お前は。
まぁ、ジンが俺のことをなんとも思っていないのは知っているし。期待もしていない。
俺は俺のできることを頑張るだけだ。
少しは希望が見えたんだ。ほかの場所にも、なにか手掛かりがあるかもしれない。
この術が本来どういう術式で、なにを狙ったものなのか、解明してみせるぜ。
「レックス様、こちらをご覧ください」
俺が砕いた結界石の周辺を調べていたサディアスが、なにかを見つけたようだった。
レックスとともに覗き込むと、割れた岩の周囲に、頭蓋骨が埋められていた。
それも何人も。
「うげっ」
「……酷いな」
つい、目を背けてしまった。
レックスも顔を顰めている。
頭蓋骨はサディアスが触れようとすると、砂のように崩れた。
成仏したんだろうか。しているといいな。
「禁術だったようですね。太古の昔、人骨を用いて呪いの儀式を行う秘術があったと、確か文献で読んだことがあります」
思わず手を合わせて祈っていると、サディアスが知識を披露した。
すげぇな、こいつ。なんでも知ってやがる。
「この術は、人だろうと動物だろうと、死体ならなんでもいいからな。まぁ、一番使いやすいのはやはり人間だろう。なまじ知性があるぶん、一度持った恨み辛みは深くなる。肉体が死んだあとでも、それが続くのが人間だ。この術にとって相当な〝力〟になっただろうよ」
ジンも説明してくれた。
「この禁術の意図はわかるか?」
レックスがジンに尋ねる。
「さぁね。僕にわかるわけがないだろう。そのときは、あの岩のなかにいたんだから」
「ですが、貴方が本当に精霊の王であれば、ある程度はわかるのではないですか? どういう術なのかは、ご存知のようですし」
答えようとしないジンに、サディアスがさらに尋ねた。
「……王国に対する復讐だろ? 魔王自身の恨み辛みを人間の怨念と魔法陣で増幅したんじゃないか?」
「それでどのような効果があるのだ?」
「知るか」
レックスの問いに、そこまでわかるわけがないと、ジンは吐き捨てた。
「もうすでに効果は出ている。お前たちが気づいていないだけだ」
ジンがチラリと俺を見る。
気にしていないと言いつつ、気にかけてくれているのは、なんか嬉しい。
「なにを笑っているんだ」
「別に、なんでもない」
ニマニマしていたら、殴られた。
「……術式は完成していて、その変化を私たちが感じられないということですか……? ひょっとして……」
思い当たる節があるのか、サディアスがレックスを見る。
「どうした。私に、なにか術でもかけられた痕跡があるのか?」
「いえ、そうではなく……。そうですね。この際ですので、お聞かせください。幸い、エイベルさんもいませんしね」
サディアスは、改めてレックスに向き直ると、真剣な表情で尋ねた。
「あの娘――アイリーン嬢をどう思われておられますか?」
サディアスが尋ねると、傍目にもわかるくらい、レックスが動揺した。
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