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119 魔族の秘密

本日8月31日、2巻が発売されます。

もうすでに早売りをされている本屋さんもあるそうです。

よろしくお願いします。


119 魔族の秘密


 ともかく、レイヴンもトレヴァーと同じように、斬り落とした手足から復活する可能性がある。そのことを危惧したのだろう。

 鴉と融合したとも言っていたし、その確率は高いからな。用心に越したことはない。


「条件が厳しいですが、仕方がないですね。レックス様のお望みどおりに致しましょう」


 ヒュン、と鞭を鳴らして、サディアスが答えた。

 一方、レイヴンはというと、羽を動かし、鉤爪の調子を確認している。


「くそ、魔力はともかく、体は時間が掛かりやがる。こりゃ、ダメだ」


 そう言いつつも、レイヴンの体は異形でありながら、先ほどよりも(いびつ)さがなくなって馴染んでいるように見えた。


「はぁ……こんな体になるわ、意識は奪われそうになるわ、目的は果たせねぇわ……嫌になるな」


 そしてチラリとこちらに視線を向けた。


「――出直したほうがよさそうだ」


「逃さん!」


 退こうとしたレイヴンに、レックスが襲いかかる。

 レイヴンがまた羽根の矢を放とうとしたところ、そこに水弾が当たった。

 サディアスだ。


「ぐっ!」


「させません!」


 その間にレックスがレイヴンに迫る。

 また、先ほどのような攻防が起こった。

 レックスが剣で攻撃し、サディアスが鞭で牽制する。

 レイヴンはそれらを躱し、弾いている。

 だが、なかなか戦線を離脱できないことに、苛立っているように見えた。


 どちらも一進一退の攻防をするなかで、レックスが仕掛けた。

 レックスの振り下ろした剣の先から、闇の網が広がったのだ。


 すげ、レックスのヤツ、戦いのなかでよく魔力を練れるな。

 しかも、あんな大きな網を。


 闇の魔術ってのは――光もだけど――四大元素とは違って、物質化させるのは難しい。

 なにしろ、闇も光も感じることはできても触ることはできないからだ。

 闇の鞭だけでもすごいのに、投網みたいに、捕らえるための網を作るなんて、簡単にできるものじゃない。


 その闇の網を、レイヴンはまた風の魔力を纏わせた鉤爪で切り裂く。

 だが、一枚目だけだ。

 重なるように展開されていた二枚目の網が、レイヴンに覆い被さる。


「チィッ!」


「いまの、うちだ! 取り、押さえろ!」


「はっ!」


 魔力を使いすぎたせいか、肩で息をしているレックスの命令を受けて、サディアスがレイヴンの身柄を拘束しようと近づいた。


 ――やめさせろ!


 黄色の声が頭の中で響く。


 ――魔力の流れが見えないのか、お前は!


 よく見ると、レイヴンの体の中で、風の魔力が集められている。ヤバイ。


「サディアス、逃げろ!」


 危険を感じ取ったのか、サディアスが後ろに飛ぶ。

 だが、遅かった。

 レイヴンが解放した魔力は、暴風となって吹き荒れる。

 捕らえていた闇の網は、跡形もなく霧散した。


 土埃が舞い、地面が削られ、庭に植えてあった草花が散る。

 風の刃はそれだけでなく、さらに俺たちに襲いかかる。

 俺は壁を、俺とジン、レックスの前に展開したが、サディアスの前に作った土壁は間に合わなくて、中途半端になってしまった。

 そのため、サディアスがダメージを負ってしまう。


「すまん、大丈夫か!?」


「平気です。心配は無用。それより、レックス様をお守りしなさい!」


 腕でガードしていたサディアスが答える。

 服は切り刻まれていたし、血も流しているけれど、重傷ではないようだ。

 俺は言われたとおり、警戒しつつ、レックスの傍に向かった。


『お前だ!』


 土壁の上に立ったレイヴンが俺を見据えていた。

 足下の土壁に避難しているレックスには見向きもしない。


『お前のせいだ。お前が異物だ! だから魔王様はお前を狙った。死ね!』


 レイヴンのものとは思えない、甲高い声だった。


「うるせえ! 勝手に人の体を奪うんじゃねえ! 馬鹿鴉!」


 こんどはレイヴンだった。

 なにが起こっている?


「拒否反応みたいだな」


 黙って俺の傍にいたジンが、説明してくれた。


「大抵は、契約したときに意識が同調して、どちらがどちらだったのかわからないくらい融合してしまうんだが……。あの男、相当自我が強いようだ」


「……分離させることはできるのか?」


「無理だな。魂がひとつになったからな。分けるなら、殺すしかない」


 そうすれば、ふたつの魂が勝手に分かれると、ジンは言った。


「それじゃ、意味がないじゃないか」


 ドナやダン、婆様が悲しむだろう。


『うるさい、人間! 死ね!』


 レイヴン――おそらく、鴉のほうだろう――が、土壁を蹴って跳躍し、俺を狙う。

 そして羽を広げ、羽根の矢を放った。

 とっさに土壁を作ろうとしたとき、


「余所見をするなと、言ったはずだ」


 呼吸を整えたレックスが、背後からレイヴンの足を斬った。

 だが、勢いがつきすぎていたのか、剣はまるで豆腐みたいに、レイヴンの足に深々と刺さり、そのまま斬り落としてしまったのだ。


「しまった……!」


 レックスが焦る。

 倒れて転がるレイヴン。呻き声を上げている。

 そのレイヴンを、サディアスが鞭で捕らえ、動けなくしていた。


「足は、どこだ!?」


 レックスが怒鳴る。周囲を見渡すが、見つからない。

 どこからか、鋭い風を切る音がした。

 と、思ったら、俺の背後で、なにかがぶつかった音がした。

 驚いて振り返ると、鴉が落ちている。


「いちおう、契約者だからな」


 ジンが、魔力障壁で守ってくれたらしい。


「ジン、ありがとな」


 礼を言うと、ジンは怒った様子でそっぽを向いた。


「言っているだろう、無理やり契約させられただけだと」


「んー、ひょっとして、照れているのか?」


「本当に馬鹿なんだな、お前は。自惚れるな」


 めっちゃ冷たい目で見られた。

 ちょっとだけ厚意を持ってくれたのかと思ったけど、そんなことなかった。

 くそう。


「貴様ら! まだ終わってないぞ!」


『死ね、人間!』


 レックスの警告と同時に、地面に落ちていたはずの鴉が鋭い嘴で胸元まで迫っていた。

 間に合わない。

 俺の土壁も、ジンの魔力障壁も。


 くそう。こんなところで死んでたまるか!

 少しでもダメージを減らさないと。

 そう思うと同時に、腰に手が伸びた。

読んでくださって、ありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


2巻、本日発売です。

よろしくお願いします。


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【イケメンに転生したけど、チートはできませんでした。】
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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字の指摘です。 >一方、レックスはというと、羽を動かし、鉤爪の調子を確認している。 レックスではなくレイヴン
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