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118 戦いは苦手です

しつこく宣伝です。

来週、土曜日、8月31日に2巻が発売されます。

よろしくお願いします。


118 戦いは苦手です


「いいか、貴様はここでおとなしくしていろ」


 言うや否や、レックスは羽根の矢が打ち終わったのを見計らって、レイヴンに向かっていった。

 サディアスも同時に、レックスとは反対側の土壁から飛び出している。


「くそっ、慣れねぇ!」


 レイヴンは、鴉と変に融合した体が使いづらいのか、どこかギクシャクしていた。

 黒い空間にいたときのような、機敏な動きはない。

 俺でもわかるくらいだ。


 サディアスが繰り出す鞭を、レイヴンが鉤爪で弾いていく。

 その隙に、レックスがレイヴンの懐近く迫った。

 長剣で斬り上げるのを、上体を反らして躱すレイヴン。


 バランスを崩したところを見計らって、サディアスの鞭が襲うが、そのままバク転をしてレイヴンはふたりから距離を取った。

 そしてバサリと左の羽を動かすが、なにも起きない。


「やっぱり飛べねぇか。クソッタレが」


 毒突いて、腰に差した剣を抜こうとするが、大きくなった鉤爪の手では抜けなかった。


「とことんツイてねぇな」


「余所見をするな」


 レイヴンに再び迫ったレックスが襲う。

 サディアスはレックスの邪魔にならないよう、かつ、レイヴンを牽制するように、鞭で攻撃している。

 間断なく繰り出される攻撃に、レイヴンは防戦一方になった。


 俺はというと、その間にジンたちと合流した。

 はっきり言って、俺は防御のほうが得意だ。

 みんなを守るなら、固まっていたほうがいい。


「ダン、このまま固まって、下がるぞ。神殿の近くまで行ったら、お前とドナは逃げろ。いいな」


「しかし……レイヴンは……」


 レイヴンをどうにかしたいと思っているのだろう。


「……なんとも言えない。あいつを助けたいなら、レックスたち以上の実力がいる」


 そこまでの腕があるのかと、視線で問うたら、諦めたように首を横に振った。


「じゃあ、悪いが、覚悟しておけ。あいつを無傷で捕らえるなんて、レックスたちにも無理だ。運がよければ、生きて捕らえられるかもしれないけど……」


 そうなった場合、王都送りになるのは間違いない。

 レイヴンは魔族の一員で、事情を知っているのだから。

 俺の言いたいことがわかったのか、ダンもドナも黙って俯いた。


「……わかった、お前の言うとおりにしよう」


 ダンが頷く。ふたりとも複雑そうな表情だったけど。


「なら、行くぞ。レックスたちがレイヴンを押さえているうちに」


 そうしてダンたちを庇いながら、神殿へ移動する。

 レックスたちは俺の意図がわかったようで、レイヴンを牽制してくれていた。


 レイヴンも、チラリとこちらを気にした様子だったが、向かってはこなかった。

 思ったとおりだ。

 あいつ、幼なじみであるドナやダンを襲いたくないんだろう。

 ドナを襲おうとしていた鴉を牽制していたし。


 お陰で、ふたりを神殿の裏口近くまで無事に連れて行くことができた。


「さ、行ってくれ」


「せ、精霊様は」


 促すと、ドナが尋ねた。


「ジンは俺と残る。レックスたちの援護がしたいからな」


「勝手に決めるんじゃないよ」


「悪いな。俺と契約した以上、付き合ってくれ」


 ジンのお陰で、俺の魔術の威力が上がっているみたいだからな。

 戦力になる以上、頼らせてもらう。


「まったく、人使いが荒い」


 ジンはそう愚痴るけれど、残ってくれるみたいだ。


「助かる」


 ダンとドナが神殿に逃げ込むのを確認してから、俺はジンとともに、レックスたちの元へ戻った。


 相変わらずレイヴンが劣勢だったが、なにかおかしい。

 レックスとサディアスのふたりがかりで戦って、有利な状況のはずだ。

 けれども、一向にレイヴンを追い詰めることができていない。


 それにあいつ、傷が治ってきていないか?

 一方で、レックスたちには疲れが見え始めている。


「ちょっと、仕切り直したほうがいいかもしれないな」


 俺はちょうどレイヴンが仕掛けようとしたタイミングを見計らって、魔力を土に流した。

 流れ込んだ魔力がレイヴンに向けて、鋭い円錐状の槍をいくつも隆起させる。

 余裕で躱されたが、タイミングを外されたレイヴンは舌打ちして、後退した。


「ちっ」


「戻れ、レックス!」


 レックスは苦々しい表情をしたが、このままではジリ貧になるのは目に見えていたらしく、おとなしく従った。


「貴様には策でもあるのか」


「ねぇよ。でも、あのままじゃ無理だろ。それに、レイヴンの傷が治ってきてやがる。魔力も徐々に増えてるから、体勢を立て直したほうがいいと思った」


「貴方にしては、賢明な判断です。レックス様、いかが致しましょう」


 レックスは少し考えて、


「こいつは使えるのか?」


 と、ジンを見た。

 数に入れていいのか、という意味だろう。


「ああ。そうでなきゃ、連れてこない」


 俺が答えると、ジンがあからさまに嫌な顔をした。

「はぁ、僕が契約しているのはお前だけだ。お前以外に、手は貸さん」


「なるほど。使えるが、使えない、ということですか。まぁ、私は構いませんが」


 なんかサディアスが納得している。


「足手まといにならないなら、いいだろう。ともかく、逃げられないよう、追い込むぞ。そして、テオ。お前はあいつの――レイヴンの退路を防げ。いいな」


「わかった」


「せっかくの手掛かりだ、レイヴンを捕らえるぞ。命があって、話すことができさえすれば、手足は潰しても構わん。だが、けして斬り落とすな」


 と、念を押して、レックスはレイヴンを見据えた。


 ああ、そういやそうだった。


 王都に捕らえられているはずのトレヴァーは、黒猫としても動いているってベイツが言っていた。

 クリムゾン将軍が斬り落とした右腕が、黒猫になったそうだ。


 その黒猫には、ミュリエルを命の危険にさらしたうえに、この前の聖女祭にあったパーティで襲われた。


 あいつだけは絶対に許さない。


読んでくださって、ありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


短めですみません。


いよいよ来週に2巻が発売されます。

ぜひご購入ください。

よろしくお願いします。


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