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108 お小言は健在

続きです。

遅くてすみません。


102話〜104話の3話を挿入しています。


書籍1巻は12月17日発売です。

よろしくお願いします。

108 お小言は健在


 男たちは警戒も露わに、俺たちに槍を突きつけながら睨みつけている。

 だが、襲いかかってくることはなかった。

 どうも俺たちが何者なのか、窺っている様子だ。

 問答無用で排除する気はないようだった。


 ありがたい。

 この様子だと、話くらいはできそうだ。


「もう一度問う。貴様たちは何者だ!?」


 囲んだ輪から男がひとり、前に出てきた。

 精悍な顔つきをした中年の男だ。父上よりも年上だろう。そいつは油断なく俺たちに目を配っていた。こいつがリーダーらしい。

 なので、そいつに説明しようと口を開く前に、レックスが俺を押しのけて説明しだした。


「騒がせてすまない。私たちは怪しい者ではない。私の名はレックス・ブラックカラント。父はローマン・ブラックカラント公爵だ。このふたりは私の従者だ。けして貴方がたに危害は加えないと約束する。できたら、貴方がたの代表と話がしたいのだが、取り次いでもらえないだろうか?」


 毅然とした態度で、勝手に交渉を始めた。

 おい、俺はお前の従者じゃないぞ。

 とか思っていたら、いつのまにか傍に来ていたサディアスに、腕を掴まれていた。そして睨まれる。


「黙ってレックス様のなされることに従いなさい。邪魔をするなら殺しますよ。この状況です、レックス様に従っているなら、悪いようにはしません」


「わかってるよ」


 レックスの行動は俺たちを守るためでもある。

 俺だって、ケヴィンたちとこういう状況になったら、矢面に立つ。

 だからこそ、腹が立つんだろう。

 レックスがしていることは、俺がするはずのことだったから。


「ブラックカラントの若様……?」


「そうだ。私を知っているのか?」


 リーダー格の男はひとまず槍を収めると、「少し待っていろ」と、言って、後ろに控えていた男たちのひとりに目配せした。

 そいつは頷いて集落の方へと走っていく。

 レックスの要望が通ったようだ。


 しばらく待っていると、戻ってきた男が大きく手を振った。


「ついて来い」


 リーダーは踵を返して歩き出す。OKだったようだ。

 レックスを先頭に、俺たちはリーダーに案内されて集落へと向かった。


 村の様子は普通の村と言ってもいいくらい、どこにでもあるような感じだった。

 畑があり、農作業をする人たち。

 手伝っているのは十歳くらいの子供たちだろうか。

 その周りを小さな子供たちが走り回っている。魔族ごっこ――鬼ごっこのようだ。

 穏やかで、のんびりとしたいい村だ。


「なぁなぁ、お前ら、森の外から来たのか?」


「外って、どうなってるの?」


「聖女様がいるって、ホント?」


 子供たちが俺たちを見つけて駆け寄ってきたと思ったら、矢継ぎ早に質問された。

 元気だなー。

 でも話す内容からして、閉鎖的な村だとよくわかる。

 やっぱりここは隠れ里なのかも。

 まだ確信はできないけど、その可能性が高い。


 俺たちに纏わりついてきた子供たちは、期待の目で俺を見ていた。

 よーし、外の世界をにーちゃんが教えてやろう。


「うるさいぞ、お前たち。外の話は聞くな。〝はぐれ者〟になりたいのか。さっさと手伝いに戻れ」


 答えようとすると、リーダーが子供たちを追い払った。

 そして俺を睨む。

 村の外の話はタブーのようだった。

 ケチだな。


「ダンのケチー!」


「けちんぼー!」


「自分だって外に行きたいくせにー!」


 ほら、子供たちだってこう言っているじゃん。

 なのにダンと呼ばれたおっさんは子供たちを追い払う。


「いいから戻れ。ほら、心配させるな」


 子供たちは文句を言いつつも、ダンの言葉に従って、心配な様子でこちらを窺っている親の元へと渋々戻っていった。

 ダンは、俺たちの視線に気づくと、厳しい表情で言った。


「客人もそのつもりで。村に外の情報を教えないでもらいたい」


 そして俺たちに釘を刺す。


「ずいぶん、厳しいな。少しくらい教えても構わないと思うのだが。貴方がたも外の情報は必要だろう」


「それを決めるのは俺たちだ。いくら若様でも、村に口出しはしないでもらおう。〝(いにしえ)の盟約〟を破るつもりか」


 ダンはレックスの言葉を切り捨てた。

 かなり排他的だな。

 いろいろ制約があるようだけど、そんなに厳しくしなくてもいいんじゃないか?

 けれど、それ以降はお互いに話すこともなく、黙り込んだまま、とある一軒家に案内された。


 レンガ造りの家は小ぢんまりとしていた。家の前にある小さな庭はきちんと手入れされている。

 一人暮らしなのかな。

 他の家と比べても手狭な気がする。


「婆様、連れて来たぞ」


 ダンが扉を乱暴に叩いてから、返事も待たずに扉を勝手に開けて入って行く。

 勝手知ったる他人の家、か。

 田舎ではよくあるよな。


「お邪魔します~」


 なぜかレックスとサディアスが驚いた表情で立ち止まっていたが、ダンが案内しているんだから、俺たちもお邪魔していいんじゃね?


 ダンを探して玄関から奥を覗き込む。

 玄関にはアンティークな台の上に黒い鉱石――黒い岩の欠片みたいなのが飾られてあって、その上にはドライフラワーがいくつか吊るされていた。

 玄関から続く居間には落ち着いた色合いの絨毯に、座り心地のよさそうな揺り椅子があり、ソファもある。カラフルなカバーをかけられたクッションに毛布が置いてあった。サイドテーブルの上の籐籠には刺繍枠をつけた作業中の刺繍が入れてあった。


 ミュリエル、元気かな。

 レースを編む俺の横で、楽しそうに刺繍をするミュリエルが思い出される。

 絶対にあの日を取り戻す。


 居心地が良さそうな雰囲気の家にズカズカ入ったダンはというと、奥の部屋に続く扉の前で、ちょいちょいと手招きしていた。

 そこに〝婆様〟が待っているようだ。


「待て、先に行くな、馬鹿者!」


 招かれたというのに、レックスの制止が入った。

 なんだよ、せっかく見つけた手がかりだぞ。

 話を聞くくらい、いいだろう。


「案内もなく、人様の家に勝手に入り込む馬鹿がどこにいる! 無礼だろう!」


「いや、呼んでるし」


「呼んでいるから、いいというわけではない! 貴様はマナーすら知らないのか! まったく、あの方はなにを考えて貴様などを傍に置いているのだ……!」


 ああもう、コイツめんどくせえ!

 いつもいつも、文句をつけやがって!

 ちょっとくらいマナーから外れたって、構わないだろ!


「貴様も貴様だ! 家主の許可を得てからお邪魔するものだ。それを返事を待たずに扉を開けるなど、失礼すぎる!」


 手招きしていたダンが、怒っているレックスに目を丸くしている。

 わけがわからないもんな。

 俺だってわからねえよ。

 そしてもうひとりは、本当にわけのわからないこと呟いていた。


「くっ、こんな従者として不出来な者に、レックス様に怒られる喜びを奪われるなんて、なんたる屈辱……! リチャードの主人(あの方)のような手法を用いるとは……私も真似をすれば……いいえ、私は私の道を行くのです。真似るなど、私の美学に反します……!」


 ……うん、よくわからない。

 なにがそんなに悔しいのかも。

 そしてレックスも、俺と同じようにドン引きしていた。

 いや、お前の従者だろ。なんとかしろよ。


「と、ともかく、もう一度最初からだ。許可を得てから家に入れ!」


「いやもう、お邪魔してるんだからいいだろ。許可を出せない事情もあるかもしれないんだから」


 たとえば寝たきりだとか。

 相手はお年寄りみたいなんだから、融通ぐらい利かせろよ。


「それでも――!」


「すまんね、若様。許可なんかしたことないもんでね。みんな勝手に出入りするものだから、答える必要なんてないと思ってたんだよ。構わないから、みんな家に入っておいで」


 奥からダンに支えられて、杖をついた老婆が出てきた。

 この人が婆様なのだろう。

 俺たちを見る目は白く濁っている。盲目らしい。


「――っ、も、申し訳ない。事情を知らず、出過ぎた真似をした」


 婆様の目に気づいたレックスが、すぐさま謝罪する。

 だが、ダンには文句を言っていた。


「こういうことなら先に事情を説明してもらいたい。無礼を働いてしまったではないか」


「あ? ああ、悪かった?」


 首を捻りながら、ダンが謝る。

 釈然としないのはわかる。

 だけど素直に謝るんだから、ダンって結構お人好しなのかもしれない。


 婆様はダンの手を借りて揺り椅子に座った。

 そして俺たちにも席を勧めてくれた。


 座ろうとすると、なぜかサディアスに首根っこを捕まれて、ソファの後ろに立たされた。

 ああ、そうか。俺、従者だった。


「さて、若様。この婆のことは、婆とお呼びくだされ。名などとうに忘れたのでな。それと、礼儀を重んじる若様には不快な発言をするやもしれん。そこはお許しいただきたい」


「ああ、勝手にお邪魔してしまったのはこちらだ。こちらこそ不躾で申し訳ない」


 改めてレックスが謝罪する。俺もレックスの後ろで頭を下げた。


「では、この〝隠れ里〟に何用ですかな? 〝(いにしえ)の盟約〟では、我らは不干渉であるはず。我らの暮らしを脅かすものであれば、我々はもう二度と扉を開けぬと申したはずです」


「やはり、ここは〝ブラッドの隠れ里〟なのだな」


 レックスも察していたようだ。

 婆様の眉が上がる。


「すまない。我々は偶然この場所へ来てしまったのだ。どういう原理なのかわからないが、三人で黒い岩に落ちた? と思ったら、ここに辿り着いていた」


 そうだよな。落ちたとしか言いようがないもんな。


 婆様はしばらくレックスを見ていたが、急に俺に目を向けた。

 なんだか鋭い視線を感じる。

 ……見えているのか?


「……〝精霊の守護を受けし者〟ね。まさか生きているうちに会うことがあるなんて思ってもみなかったよ」


 なんだか溜息を吐かれた。

 厄介者扱いみたいな感じを受けるのは気のせいか?


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。


書籍の詳細は下記のリンク又は活動報告にて。

よければご覧ください。

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