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106 魔力は魔力でも魔力ではない

106 魔力は魔力でも魔力ではない


 とりあえず隠れ里への方向は黒が誘導してくれているので、向かうべき場所自体は見失っていないはずだ。

 ただ、直線なだけで。

 そこに超えられない岩があっても、真っ直ぐとしかわからない。

 迂回路は俺が見つけるしかなかった。


 ――ごめ……んな……さい……。


「大丈夫だ。方向さえわかってりゃ、なんとかなるだろ」


 そう言って三日経つけど。

 だけど、黒だって協力してくれてるんだ、俺が頑張らないとな。


 ――当然だ。お前が選んだのだからな。


 ――進むぜ進むぜ!


 ――すすめー。


 黄色は容赦なく、青と赤は折れそうな心を叱咤してくれる。

 お前らがいてくれて良かったよ。


 何回か黒い岩を迂回しては黒に方向を確認してもらいつつ、森の中を進む。

 だけど、一向に着かない。

 なんか同じところを何回も回っているみたいな感覚がする。


「なあ、黒。それ、さっき見た岩じゃね?」


 ――わ……から……ない……。


 そうか、黒でもわからないか。

 でもなぁ、さっき見た岩だと思うんだけどなぁ。

 ペタペタ触っていると、視界の端になにかがよぎった。

 よくよく見てみると、かすかに魔力の流れが見える。

 糸のように細い魔力は途切れ途切れになりながら黒い岩から黒い岩へとつながっているようだった。


「なんだ? この魔力。変な魔力だな」


 ――わ……から……ない……。


 そっか、黒でもわかんないか。


 光でも火、水、土、風でもない、もちろん、闇でもない。属性のわからない魔力だ。

 いや、魔力と言っていいのかわからないくらいの、弱々しいものだけれど、俺には魔力としか表現しようがない。

 こんな不可思議なものは魔力しか知らないからだ。


 普通、魔力は魔術を使えるようになったら――魔術開放式のあとから見えるようになる。

 魔術を行使するときなんか、はっきりと見えるからな。

 けれど家庭用魔導具に常に接していると、魔力の流れは気にしないようになる。


 だって、常に見えているうえ混線しているから、下手に見ていると酔うんだよ。

 だから普段は無意識に遮断している。


 それに、慣れすぎていると緊急時の魔力に対する反応が遅くなるからな。

 緊急時の魔力って何だって聞かれると、説明が難しいけど、普段からそのあたりを漂っている魔力とは違い、明確な意思――おそらく敵意が感じられる魔力……だと思う。


 家庭用魔道具は決められた効果しか発現できないせいか、気にならないんだよな。

 だけど『明確な意思が感じられる魔力』ってのは、なにかが引っかかるんだ。たぶん、自分の感覚が感知するんだと思う。


 まあ、そんな『勘』というものは大事にしろって教わるんだ。

 魔力の流れってのは術者の実力によって、うまく隠されたりもするから。


 俺もケヴィンと稽古しているときなんか、何度もやられた。

 ケヴィンのヤツってば、魔力の隠し方がめちゃ上手い。


 連続で剣を繰り出してきたのを必死で躱していたら、目の端に魔力が流れたと思った瞬間に目の前で小さく爆発させるからな。

 いや、本当にポンッと白い煙が出るだけの爆発だけど、目の前でやられると、びっくりして一瞬動きが止まってしまう。

 いわゆる猫騙しだ。

 止まった瞬間を狙われて負けるのがいつものパターンだ。


 なのでケヴィンには、魔力の流れを常に気にしろと言われていた。

 大きな魔術を使える人間は滅多にいないが、小さな魔術なら、みんな使えるのだからと。


『俺は魔力が弱いですからね。こういう使い方しかできないんですよ。ま、弱い魔力でも使い方次第ってぇことです。ですから、ちゃあんと魔力の流れには気をつけておいてくださいよ。こうやって弱い魔力に足元を掬われることもあるんで』


 それで手を叩いて魔術を発動させる癖も矯正させられた。

 相手に魔術を使用するタイミングをわからせてどうするんだと注意されたからだ。


『後衛で守ってもらいながら、大きな魔術を行使するならともかく、前衛で戦うつもりなら、意思だけで使えるようにならないと』


 そう言われて、いまでは足からも魔力を流せるようになったしな。

 お陰でこの前、デュークに襲われたときにはものすごく助かったけど。


 それはともかく、この弱々しい魔力はこの黒い岩が発しているのか?

 ペタペタ触るたびに魔力が流れて行くのが見える。

 手もピリピリするしな。


 ……あれ? これって俺の魔力が取られているの?


 ――そのようだな。奪われている魔力量は魔道具よりもわずかなようだが。


 黄色が答えてくれる。

 それって触っちゃ駄目なヤツじゃん。


 慌てて手を引っ込める。

 すると流れる魔力はほとんど見えなくなった。


 どうするかな。

 黒が言うにはこの岩の向こうに、隠れ里があるらしい。

 そしてこの黒い岩は普通の岩ではないっぽい。


 これはアレか。『隠れ里』という言葉が示す通り、隠れるための結界だったりしてな。


 ……無理矢理、越えてみるか。


 意識を集中させて、足元の土を盛り上げる。

 なぜか発動するのが鈍い。さらには黒い岩に触ってもいないのに、魔力が吸い取られていっている。

 くそう。なんなんだよ、いったい。


 いつもより倍以上の魔力を使って、岩を見下ろす高さまできた。

 岩の向こうは岩だった。

 いやそうじゃなくて、この岩の幅がでかくて向こうになにがあるのか、全く見えない。

 生い茂った木々くらいだ。


 向こう側の状況がわからないけれど、このまま向こう側まで橋を作って降りてみよう。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、だな。

 こっち側はもう三日もウロウロして、なにも得られなかったんだ。

 それなら今度は向こう側を探してやる。


 土で橋を作り、向こう側へ伸ばしていく。

 突然、途中で橋が弾け飛んだ。

 勢いよく伸びる橋に乗っていた俺も一緒に弾き飛ばされた。

 地面に叩きつけられる前に、土を柔らかくしたが、やっぱりいつもより反応が鈍くて中途半端な柔らかさになった。

 くそ、痛ぇ。


「なんなんだ、この岩――というか、この結界は」


 それだけ隠れ里に近づけさせたくないのだろうか。

 なんか、ますます行きたくなったんだけど。

 きっと絶対、重要な情報があるはずだ。


 けど、どうやったら入れるかなあ。

 もう彷徨うのは、とっくに飽きたんだけど。

 隠れ里に入るためのアイテムとかいるのかな。

 くそう、そんな情報どこにあるんだよ!


 頭を抱えていると、背後に人の気配がしたので振り返ろうとしたとき、上から網が降ってきた。

 網は俺の上に覆い被さって、身動きが取れなくなる。

 魔術で穴を掘ろうとしたけど、この森の土は本当にこっちの意思を反映してくれない。


 重石がつけられた網は、屈強な男どもが四隅を抑えているのでビクともしなかった。

 誰だ、こいつら。騎士みたいな格好をしてるけど。

 ええと、胸に見える紋章は……ゲッ! これはブラックカラント公爵家の……


「――貴様か、進入禁止地区をうろついているという不審者は」


 従者たちに守られて俺の前に姿を現したのは、黒髪の青年、レックスだった。

 忌々しそうに俺をにらんでいる。


 ……お前、学園はどうした。


本当に遅くてすみません。

短くてすみません。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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