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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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セラフィーネ目覚める

翌日の朝、セラフィーネは静かに目を醒ました。

傍らでは、セレナが涙の跡を頬に残したまま、疲れたように眠っていた。

セラフィーネは身を起こそうとしたが、体に力が入らない。


「……お姉様……?」

小さな動きに気づいたセレナが目を開けた。

セラフィーネは、かすかに頷いて見せた。


「お姉様、ごめんなさい……ごめんなさい……!」

セレナは震える声で言いながら、セラフィーネにすがりついた。


やがて、涙に濡れた瞳でセレナが顔を上げる。

「何か……食べられそうですか……?」


セラフィーネは答えようと唇を動かしたが、喉が渇ききって声が出なかった。

「……お水を……」


そのかすかな言葉に、セレナははっとして立ち上がる。

慌てて水差しを手に取り、セラフィーネの唇にそっと水を含ませた。


セラフィーネは、粥のようなものを少し口にしたあと、再び横になった。

身体は鉛のように重く、息をするのも怠い。


「……あの後、どうなったの……?」

掠れた声でそう尋ねると、傍らのセレナがびくりと身体を震わせた。


「精霊が、現れました」


低く響く声が、部屋の入り口からした。

振り向くと、一人の大柄な男が静かに入ってくる。


「……隊長」

セラフィーネがその姿を見て、かすかに呼んだ。


男は苦笑して首を振る。

「私は、もう隊長ではありません……」


そして、真剣な眼差しで続けた。

「セレナ様が祈られました。そして、精霊たちが戻ってきました。……セレナ様、今なら、あなたの精霊も現れるのでは?」


その言葉に、セレナは小さく頷き、胸の前で両手を組んだ。

「……現れて……」


祈りの言葉が零れた瞬間、セレナの肩の上に小さな炎の玉が浮かんだ。

それは淡く揺らめき、青白く光を放っている。


「……良かった……」

セラフィーネは、その光を見つめながら、弱々しく微笑んだ。


「……ラディンと、リリアーナは?」

二人の姿が見えないことに、ようやく気づいたセラフィーネが問いかけた。


隊長は一瞬、言葉を選ぶように沈黙したあと、低く答えた。

「リリアーナ様は、セラフィーネ様を治癒された後……倒れられました。いまだ意識は戻っておりません。……ラディン様は、その傍を離れずにおられます」


「……そうなの」

セラフィーネの瞳が見開かれ、かすかな震えがその声に混じった。


セレナは何も言わず、唇を強く噛みしめて俯いた。その手が強く握りしめられているのを、セラフィーネは静かに見つめた。


「……眠るわ。……セレナ、すべき事をしなさい」


「でも……」

セレナは不安そうに顔を上げる。


「呼び鈴を、置いてくれる?」

セラフィーネの穏やかな声に、隊長が静かに頷き、枕元へ小さな呼び鈴を置いた。


「セレナ……貴女が、王なのよ。……隊長、お願い」


その言葉に、隊長は深く頭を下げ、セレナをそっと促して部屋を出ていった。


扉が閉まると、部屋には静寂が戻る。

セラフィーネは天井を見つめるでもなく、

何か見えないものを凝視するように視線を宙に漂わせていた。



夕方になり、ラディンがセラフィーネのもとを訪れた。

部屋の中には夕陽が差し込み、赤く染まった光がセラフィーネの枕元を照らしていた。


「調子はどうだ?」

低い声でラディンが問う。


「……動け、ないわ」

セラフィーネは、かすかに唇を動かして答えた。


「かなり血が流れてたんだ。無理すんな」

ラディンは、彼女の傍に腰を下ろした。


「リリアーナは?」


その名が出た瞬間、ラディンの表情が曇る。

「まだ、目を覚まさない」


セラフィーネの眉がわずかに寄った。

「何が……あったの? 魔力切れなら、もう起きてもおかしくないわ……」


ラディンはしばらく沈黙した後、静かに語り出した。

「傷を治すのに、あの玉を使った……。けど、治らなくて。リリアーナが、『あげるから、助けて』って叫んだんだ。その瞬間、玉が光って……傷が治ったように見えた」


「本当なの?」

セラフィーネの声には、信じたい気持ちと恐れが入り混じっていた。


「ああ。俺には、そう見えた」

ラディンは苦しげに視線を落とした。


少しの間、二人の間に沈黙が流れた。

やがて、ラディンが低く問う。

「……精霊が求めるモノとは、何なのだ?」


長い沈黙ののち、セラフィーネは息を吐いて答えた。

「精霊は、それぞれ好みが違うの。

言い伝えでは……声を失ったり、耳が聞こえなくなったり、目が見えなくなったり、記憶を失ったり……さまざまなのよ。……渡せる魔力が無いときに願いをすれば、代わりに必ず“何か”を渡さなくてはならないわ」


「……精霊の愛し子なのにか……?」


「愛しいから、好きなモノを一人占めにしたい……という説があるわ。……わからないの」


その言葉のあと、再び沈黙が落ちた。

外からは風の音だけが、かすかに聞こえていた。


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