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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第3章

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宴①

弓、良し。ナイフ、良し。

リリアーナが作業を終えたその時だった。


「今、良いでしょうか? セレナです」


扉の外から控えめな声が聞こえる。

「ラディン、良い?」

リリアーナは手を止めて小さく問う。

「構わない」

ラディンも短く答えた。


「どうぞ、入ってください」

リリアーナが言うと、扉が静かに開き、セレナがするりと中へ入ってきた。


「お姉様が忙しいから、代わりに迎えに来ました。あの……少し早めに来たので、お話したいのですが」

おずおずとした声。指先がそわそわと動いている。


「何か?」

リリアーナが首を傾げると、セレナは少し息を吸い込んで言った。


「あの、お姉様の旅での様子を教えて欲しいのです。いつも、なかなか聞けないので……」


うーん、とリリアーナが唸る。隣でラディンも同じように腕を組み、唸った。


「どんなことを聞きたいんだ?」

ラディンが助け舟を出すように尋ねる。


「どんなことでも!」


セレナの瞳がぱっと輝く。

再び、リリアーナとラディンが「うーん」と声を合わせて唸るのだった。


「色々教えてくれるし、優しいかな……」

リリアーナが少し照れくさそうに言う。


「教えてもらえるなんて、いいなあ」

セレナが羨ましげに呟く。


「リュートも歌も、上手だな」

ラディンがぽつりと言うと、セレナの顔がぱっと明るくなった。


「お姉様です。当然です」

胸を張るように答えるセレナ。


「いつも落ち着いていて、素敵かなぁ。弓も凄く上手だったし」

リリアーナの言葉に、セレナは勢いよく頷いた。


「そう思いますよね!お姉様、弓もとっても強いのです!!」


その瞳はまっすぐで、少し誇らしげだった。

どうやらセレナは、セラフィーネが大好きらしい。


「一緒に旅してきたのでしょう?うわぁ……」

セレナはぽつりと、羨望を滲ませて言った。


「でも、王女様なんて、わからなかった……」

リリアーナがぽつりと言う。


「そうだな」

ラディンも静かに頷いた。


セレナは一瞬、顔を曇らせる。

「それは……私の能力が……」

声がだんだん小さくなっていく。


その時、遠くからセレナを呼ぶ声が聞こえた。

「いけない、行かなくちゃ」


セレナは慌てて立ち上がり、リリアーナとラディンを広場へ案内した。

あたりはすでに薄暗く、夜の気配が満ちている。

小さな焚き火がいくつも灯され、橙の光が人々の顔を柔らかく照らしていた。

火の周りには飲み物と食事が並べられ、島の人々が次々と集まってくる。


セラフィーネが立ち上がり、穏やかに声を上げた。

「今日は、客人がいるわ。皆、一緒に食事を囲んで歓迎しましょう……」


少しの酒と果実水、そして彼女が持ち込んだ簡素な食料。

豪華な宴とは言えない。

けれど、島の人々は心から喜び、笑い、飲み、食べた。


リリアーナはというと、あまり喉が通らなかった。

「食べないの?」

セラフィーネが心配そうに尋ねる。


「……果実水を飲みすぎたのかな。今は、そんなに……」

リリアーナは言葉を濁す。


「……そう」

セラフィーネはそれ以上は何も言わず、微笑んだ。


宴が終わりに近づくころ、焚き火の火が少し小さくなった。

「折角だから、歌うわ」

セラフィーネがそう言って、そっとリュートを手に取る。


柔らかな弦の音が夜気に溶けていく。

彼女の声は相変わらず澄み、どこか祈りのようだった。


「セラフィーネ様のリュートは、いつ聞いてもいいな」

「綺麗な声よね……」

あちこちで、静かな賛美の声が上がる。


セラフィーネは一曲を終えると、ゆっくりとリリアーナの方を見た。


「この、リリアーナの歌も、聞いてほしいわ」

その声にざわめきが走る。


「リリアーナ、精霊たちに、現れて――って願いを込めて歌ってほしいの」


「何だと……」

「王女は正気か?」


人々の間に小さな動揺が広がる。


セラフィーネはそんな囁きを気にする様子もなく、

リリアーナのそばに寄り、そっと耳元で囁いた。


「あの、海での歌よ」


「でも……」

リリアーナは不安げな瞳でセラフィーネを見上げた。


「歌ってみて、欲しいの」

セラフィーネの声は静かだったが、その瞳はどこかすがるように揺れていた。


リリアーナは言葉を飲み込む。

――あの歌。

海で、海獣を呼び寄せてしまった、あの歌。


心臓が速く打ち始める。胸の奥がざわついた。


「リュートを弾いてあげるわ。ほら、合わせて」

セラフィーネが弦を鳴らす。柔らかな音が夜の空気を震わせた。


リリアーナは、恐る恐る声を合わせた。

魔力を込める。あの時の、不思議な感覚を思い出しながら――。


――けれど。


「?」

何かが、引っかかるような気がした。

それでもリリアーナは祈るように、心の中で唱える。


精霊よ……いるのなら、現れて。


想いが強くなるたび、魔力もまた脈打つように膨らんでいく。

リリアーナの全身から汗が流れ落ちた。

どれくらい、歌ったのか……。


ふっと――何かが軽くなる。


その瞬間、リリアーナの肩に白い光が舞い降りた。

お雪様だった。


「……!」

人々がどよめく。


次々と、人々の周りに光が灯っていく。

赤、青、緑、橙――

島の精霊たちが、火の玉のような姿で現れ始めた。

その光は薄く揺れながら、焚き火の光と溶け合うように漂う。


「精霊だ……!」

「いたのか……?」


人々の間に驚きと歓声が混じった。


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― 新着の感想 ―
 これ、ちゃんと帰してもらえるのか…?
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